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ルーキスの太陽 ~異世界の境界線、その手を離さない~  作者: 如月菫
第三部 それでも恋は、終わらない
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第63話 独占欲の着地点、君が笑うならそれでいい

 バレンタインデーの二日後……。


 沙弥たちは四人でヴルカリスへと出発した。

 二人のときとは違い、馬車の中は終始にぎやかだ。三ヶ月以上の空白を埋めるように、話題は尽きない。


「姉さん、魔獣王の写真見る?」

「見る! ちゃんと撮れたの?」

「オーブリーさんが撮ってくれたんだ」


 賢斗の隣に移動して、一緒にスマホの画面を見る。


 そこには……

 巨大な魔獣の亡骸。その上に立つ賢斗の姿。

 聖剣を首筋に突き立てた構図は、まるで絵画のようだ。

 つい先日、自分の手で抜いた剣と同じものだと、ふと思う。


「……かっこいいじゃない」


 思わず息が漏れる。

 あの細かった弟の面影はもうない。


「でも、そのときはもうだいぶ弱ってたんだよ」

「それでもよ。近づくだけで怖いでしょ、こんなの」

「まあね」

「正直、ここまでやれるとは思ってなかったわ」

「ひどくない?」

「褒めてるのよ」


 そんなやりとりに、オーブリーが肩をすくめる。


「いや、ケントは本当によくやった。あの短期間であそこまで戦えるようになるとは思わなかった」

「ほんと、それはオーブリーさんたちのおかげッスよ」


 笑い合ううちに、景色が変わる。

 メタセコイア並木だ。

 前回は紅葉していたそれが、今は葉を落とし、骨格だけの美しさを見せていた。


「季節が変わると、全然違いますね」

「ああ。ここはどの季節でも見応えがあるな」


 昼食は前回と同じ店に入った。

 レンガの壁に絡まっていた蔦は、今はすべて葉を落とし、細い茎だけになっていた。

 扉を開けると、店主が顔を上げ……目を見開く。


「……レオン様」


(やっぱり覚えられてる)


「レオン、地方でも有名なんだな」

「サーヤのせいだ」


(違うと思う)


「……そちらは、もしかして勇者様で?」

「そうだ。よくわかったな」

「お姉様と似ていらっしゃいますから」


(そんなに似てる?)


 料理は前回と同じ煮込み料理。

 そして……


「こちらは、ささやかですが」


 運ばれてきたのは、大皿いっぱいのサラダだった。


「この国を救ってくださったお礼です。本当にありがとうございました」

「ありがとうございます!」


 賢斗が素直に頭を下げる。

 その様子に、店の空気が少しだけ温かくなった。


                 +++++


 カリエンティラは、今日も夕日に照らされていた。


「すっげー……城じゃん」

「中もすごいわよ」


 部屋割りはあっさり決まる。


「俺はオーブリーさんとでいいッス」

「気を遣わなくていいぞ」

「いや、馬に蹴られて死にたくないんで」

「なぜ馬に蹴られる」

「人の恋路を邪魔するとそうなるんスよ」


 レオンは納得していない顔だったが、結局そのまま決まった。

 荷物を置いたあと、四人でダイニングに向かい、夕食をとった。


「明日は何をする?」

「渓谷が綺麗なんですよね? 行ってみたいな」

「それじゃ、オーブリーさんと二人で行ってきたら? 私たちは前回行ったから」

「オーブリーさん、いい?」

「ああ、いいぞ」


 明日は別行動だ。


「明後日なんだけど、うちの実家に来ないか?」


 オーブリーの両親は王都にいるが、領地は長兄が管理しているらしい。


「急にお邪魔してご迷惑ではないですか?」

「いや、兄が勇者たちに会いたがっているんだ。何としても連れてこいって言われている」

「サーヤが行くなら俺も行くようだな」

「ああ、レオンも来てくれ。ちなみに、義姉はレオンのファンだ」

「えっ……」

「でもサーヤを虐めたりしないから安心してくれ」

「……そうですよね」


 化粧室事件が少しトラウマになっている。


「姉さん、この後、温泉入りに行っていい?」

「いいわよ。ね?」

「……ああ」


 わずかな間。

 その反応を、沙弥は見逃さなかった。


 一旦部屋の前で別れる。


「本当にオーブリーと一緒に入るのか?」

「ダメですか?」

「ダメではないが……」

「それなら、賢斗にチェックしてもらいましょうか?」

「ああ、そうしよう」


 二人が来たので、賢斗に服装チェックをしてもらう。


「どうだ?」


 レオンが聞く。


「日本なら余裕ッスね。リゾート地なら普通に外歩けるレベル」


 一瞬の沈黙。


「……なら、四人で入るか」

「やった!」


 オーブリーが喜ぶ。やはり仲間外れは淋しいらしい。


 そして温泉へ……。


 川に設えられた露天は、今日も湯気に包まれていた。

 沙弥は椅子にそっとタオルを敷いて高さを調節する。


「今日は俺の膝に乗らないのか?」


(言うな)


「乗りません」

「え、乗ってたの!?」


 賢斗が食いつく。


「椅子が低かったのよ!」

「俺たちに遠慮しなくていいのに」

「遠慮してません! タオルを敷いたから平気です!」


 自分でも顔が赤くなっているのがわかった。


「泳ぐか?」


 レオンの一言で流れが変わる。


「いいッスね」

「三人で競争ね」


 結果は……賢斗の圧勝。


「若さか……」

「筋肉重すぎなんじゃないッスか?」


 そんな中……


「これ、誰のですかー?」


 流れてきた布。


「あ、俺だ!」


 オーブリーだ。他の二人はともかくオーブリーはまずい。


「後ろ向いてますね」


(この空気、地味に危険)


「外れたのが戻るときじゃなくてよかったッスね」


 確かに……。


 ひとしきり騒いだあと……。


「……いいな、ここ」


 賢斗がぽつりと言う。


「でしょ?」


 しばらく、静かな時間。


 温泉を堪能した後、賢斗とオーブリーは部屋に戻って行った。

 二人になった後、沙弥がレオンに言う。


「四人の旅も楽しいですね」

「ケントが気を遣ってくれたから、夜は二人になれるしな」

「賢斗が私と一緒がいいって言ったら譲るつもりだったんですか?」

「ああ。だが、ケントはきっとそう言わないと思った」


 確かに、賢斗は空気を読む子だ。


「温泉も楽しかったですね」

「……ああ」

「やっぱり、オーブリーさんと一緒に温泉に入るのは気に入らないですか?」

「正直、あまりいい気はしなかったが」

「やっぱり」

「だが……」


 一瞬だけ言葉を選ぶようにして……


「サーヤが楽しそうだったから、いい」


 それだけ言う。

 それは、手放したのではなく、自分で選んだ「距離」だった。


(……ずるい)


「明日は、二人で入りましょうね」

「ああ」


 同じ返事だが、今度は迷いがなかった。


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