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ルーキスの太陽 ~異世界の境界線、その手を離さない~  作者: 如月菫
第三部 それでも恋は、終わらない
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第61話 静かな夜に溶ける嫉妬、確信だけが残る朝

 その日の夜……。


 サーヤを部屋に送り届けたあと、レオンは自室に戻っていた。

 灯りを落とし、窓辺に立つ。王都の夜は静かだった。


(……情けないな)


 小さく息を吐く。昼間の光景が何度も脳裏に蘇る。

 ケントに向けられた笑顔、自然に触れられる距離、何の迷いもなく交わされる言葉。


(あれは、俺には持てないものだ)


 血の繋がり、積み重ねた時間、共有してきた人生。

 どれも、どう足掻いても手に入らない。


(……だからといって)


 そこで思考が止まり、静かに目を閉じる。


(だからといって、何を焦っている)


 自分に問いかける。


(サーヤは、誰のものだ?)


 すぐに答えが返ってくる。


(俺だ)


 迷いはなかった。


 彼女は俺を選んだ。何度も、何度も、言葉にして。

 視線を上げると、夜空は深く澄んでいた。


(……なら、いいじゃないか)


 胸の奥に、ゆっくりと静かな熱が戻ってくる。

 焦りではない。確信だ。


(あの距離は、弟だから許されるものだ)


 あれを羨む必要はない。あれは「別の関係」だ。

 そして……


(俺にしか与えられていないものも、ある)


 触れ方。距離。夜の時間。サーヤが無意識に委ねてくるもの。


(それを、わかっていないわけがないだろう)


 ふっと笑みが漏れた。


(……俺は、何を張り合っていたんだ)


 視界が一気にクリアになる。余計な雑音が消えていく。

 代わりに残るのは、ただひとつ。


(どうすれば、もっと俺を意識させられるか)


 そこに思考が切り替わった。


                ◇◇◇◇◇


 翌日……。


 サーヤを迎えに行く。


「おはようございます、レオンさん」


 いつものように柔らかく笑う。

 だが……


「おはよう、サーヤ」

「今日はどうするんですか?」

「ケントたちは博物館に行くと言っていたな」

「そうでしたね。私たちは……」


 言い終わる前に、レオンが一歩距離を詰める。


「俺は、サーヤと二人がいい」

「えっ?」


 一瞬、言葉が止まる。


「……だめか?」


 わざと少しだけ低く、静かに問う。


「いえ、だめじゃないですけど……」


 視線が揺れる。ほんの少しだけ頬が染まる。


(……やっぱりな)


 確信に変わる。

 この反応は、弟には向けないものだ。


 歩き出し、自然な流れで手を取る。指を絡めるように。


「レオンさん?」

「昨日は、あまり話せなかったからな」

「そうですね……」


 素直に頷く。そのまま少しだけ引き寄せる。

 歩幅を合わせるふりをして、距離を縮める。


「ケントと話しているときのサーヤは、楽しそうだった」

「え? あ、はい。久しぶりでしたから」

「そうだな」


 一度だけ頷く。そして、続ける。


「だが」


 足を止める。

 サーヤが振り向いたその瞬間、逃がさないように視線を絡める。


「俺の前では、もっと違う顔をしてくれると嬉しい」


 一瞬で空気が変わる。

 逃げ場のない距離。まっすぐな言葉。


「……どんな顔、ですか?」


 小さな声。だが、目は逸らしていない。


「俺にしか見せない顔だ」


 静かに、確実に、言い切る。

 ほんの数秒の沈黙。だが、その間にサーヤの呼吸が少し乱れる。


「……もう、見せてるつもりなんですけど」

「足りないな」

「えっ!?」

「全然足りない」


 少しだけ意地悪に重ねる。

 サーヤが困ったように笑う。それでも逃げない。


「レオンさんって、そういうところありますよね」

「どこだ?」

「ちゃんとわかってるのに、もっと欲しがるところ」

「当然だろう」


 迷いなく言う。


「欲しいものは、全部欲しい」


 それは騎士としてではなく、一人の男としての言葉だった。

 サーヤが観念したように小さく息をつく。

 そして……自分から、ほんの少しだけ距離を詰めた。


「……じゃあ、がんばります」


 そう言って微笑む。

 その笑顔は確かに、ケントに向けていたものとは違っていた。


(……ああ)


 レオンは思う。


(これでいい)


 もう、比べる必要はない。勝つ必要もない。そもそも土俵が違う。

 握った手に少しだけ力を込める。サーヤも同じ強さで握り返してくる。


 余裕を取り戻した男は強い。

 そして……余裕を持ったレオンは、以前よりもずっと厄介だった。


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