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ルーキスの太陽 ~異世界の境界線、その手を離さない~  作者: 如月菫
第三部 それでも恋は、終わらない
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第58話 逞しき帰還、マントに刻まれた戦いの証

「サーヤ、討伐隊が麓まで下りてきたらしい。明日には王都に帰ってくる」

「やっとですね! 賢斗、ボロボロになっているんじゃないでしょうか……」

「きっと、逞しくなってると思うぞ」

「そうかもしれませんね」


 賢斗が出発してから三ヶ月半が経った。手紙では元気そうではあったけれど、沙弥に心配をかけまいと、そう書いていた可能性もある。

 過酷な遠征に耐え、魔獣王も討伐した。どうやって褒めてやったらいいだろう。


「そろそろヴルカリスの予約をするか? オーブリーはまた『カリエンティラ』でいいんじゃないかと言っていた」

「オーブリーさんのおすすめなら間違いないですね。地元だし……」

「そうだな。もう訓練もないし、行くのはいつでもいいらしい」

「オーブリーさんの都合は?」

「オーブリーも護衛だから、勇者の行くところに行くことが仕事だ」


 こちらにいる間はずっと賢斗の面倒を見てくれるんだな。


「賢斗の誕生日が二月十七日なんですけど、温泉でお祝いするのはどうでしょう?」

「それでは、十六日出発で手配しておく」

「いつもありがとうございます」

「気にするな。賢斗はいくつになるんだっけ?」

「二十歳です。日本だと、お酒が飲めるようになります」


 こちらに来たため「二十歳のつどい」には出られなかったが、魔獣王の討伐なんて、誰にでもできることではない。二十歳のつどいで友だちと騒ぐより有意義だったに違いない。


「先に費用をお渡ししますね。賢斗と二人分、前回と同じで足りますか?」

「足りるだろう。それに、毎回少しずつ余っているのを預かったままだ」

「あれだけ豪華な宿に泊まって余るのが信じられないんですけど……」

「ルーキスではそんなもんだ。『日本』は物価が高いのか?」

「そうかもしれません」


 しかも、どこに行っても空いている。その点は本当に羨ましい。


「サーヤは、誕生日の贈り物をするんだよな?」

「はい。レオンさんのクローククラスプと一緒に、腕輪を買っておきました」

「俺も何か考えておこう」

「あまり高価なものにしないでくださいね。気軽に受け取れるように」


 四人で旅行……。討伐隊が無事に戻ってきたからこそ、実現できる。

 明日、四人でこれからのことを話せることに、沙弥は心から安堵した。


                ◇◇◇◇◇


 翌日の昼前……。


 沙弥たちは、討伐隊が戻るだいぶ前から城門付近で待っていた。騎士たちの家族も大勢来ている。


「犠牲者は一人も出なかったそうですね。本当によかった」

「ああ、みんな、本当によくやったな」

「レオンさんは、やっぱり討伐に参加したかったですか?」

「今はもう、そんなこと思っていない。討伐よりサーヤの護衛のほうがよかった」


 少し間を置いてから続ける。


「そっちのほうが、ずっと性に合っている」

「そう言ってもらえると嬉しいです。お互いに、こんなに常識が違ってどうしようと思っていた頃が懐かしいですね」

「そうだな。遠い昔のことのようだ」


 話しているうちに隊列が見えてきた。


「おっ! ケントが見えたぞ」

「えっ! どこですか?」


 沙弥には全然わからなかった。やはりレオンは視力が良いようだ。

 だが、しばらくすると沙弥にも馬に乗った賢斗が見えてきた。


「私にも見えました!」


 駆け出したくなる衝動を抑える。


「討伐中、馬はどうしていたんですか?」

「付近の農家が手分けして世話をしてくれていたはずだ」


 ついに討伐隊が城門に到着した。

 賢斗が馬から降りて、沙弥たちのところに来た。

 その声が届く直前、ふと、ガラス越しに見た「名前」が脳裏をよぎった。


(この子も……同じ血を引いている)


「姉さん、ただいま!」


 その声を聞いた瞬間、胸の奥が跳ねた。

 以前の面影は残っているのに、どこか別人のようだった。

 肩幅も、立ち姿も、声の響きさえ違う。


 沙弥は反射的に駆け寄り、その腕を掴んだ。

 気づいたときには、抱きしめていた。


(……あんなに細かったのに……)


 そして、もうひとつの感情が重なる。


(この子まで、あの運命に巻き込まれていくの?)


「お疲れ様、賢斗。……よく頑張ったわね。本当に、よく……」


 涙ぐむ沙弥を、賢斗は少し照れくさそうに、けれど力強く抱きしめ返した。


「魔獣王を倒せたのは、ほとんど他の騎士たちのおかげだけどね」

「怖くはなかった?」

「恐怖はあまり感じなかったかな。仲間がたくさんいたしね」

「それならよかった」

「姉さん、一緒にランチしない? ずっとキャンプ食だったから、食堂の料理を食べたいよ」

「うん、それじゃ行きましょう」


 近くに来ていたオーブリーにも声をかける。


「オーブリーさんもお疲れ様でした。賢斗のこと、本当にありがとうございます」

「いや、ケントは本当によくやっていたよ」

「ケントのマント、ぼろぼろね」


 そのほつれや焦げ跡が、ただの損傷には見えなかった。

 それは、ここに帰ってくるために支払った代償のようだった。


「魔法で修復してやるって言ったんだけど」


 少し笑って、オーブリーは続ける。


「『戦いの証だからこのままでいい』ってさ」

「なるほど。確かに、苦労を物語っているものね」


「早く行こう~」と言う賢斗に促され、四人は食堂へ向かった。


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