第5話 聖剣に選ばれし勇者、人生ハードモード突入
同じ日……。
朝食抜きの沙弥とは異なり、賢斗はオーブリーと一緒に朝からしっかり食べていた。
「これ、おいしいッスね」
「口に合うならよかった」
「でも、姉さんにはどうかなぁ。ちょっと、味がこってりしすぎかも」
「姉上とは好みが違うのか?」
「俺は何でもいけるんですけど、姉さんはダメだと食べないんで。心配だなぁ」
「それじゃ、レオンにも気をつけるよう言っておくよ」
朝食が終わると、オーブリーから勇者教育について説明を受けた。
「まず、聖剣を鞘から抜けるかどうかを試してもらう。この国の騎士は一応全員試したんだが、誰も抜けなかった」
「抜けなかったら帰れます?」
冗談めかして言った賢斗が、台座に突き刺さった聖剣に手をかける。
その瞬間……。
カチリ、という金属音が響き、剣が白銀の光を放った。
周囲の空気が一瞬、張り詰めた。手に吸い付くような感覚がある。
「……え?」
重みを感じさせず、剣は滑らかに鞘から滑り出た。
「抜けたな。……ケント、お前が本当に、この国を救う『勇者』なんだ」
オーブリーの真剣な眼差しに、賢斗は初めて自分が背負わされたものの重さを実感した。
(……これ、冗談じゃ済まないやつだ)
「それで、何をすれば?」
「剣術はできるか?」
「剣道なら少し」
「それはどのようなものだ?」
説明すると、「多少は役に立つだろうが剣術の訓練は必要だな」と言われた。
「馬には乗れるか?」
「体験乗馬しかしたことないです」
「それじゃ、それも訓練が必要だな。魔の山の麓までは馬で行くから」
「イエッサー!」
勇者の装備一式も支給された。騎士とほぼ同じだが、マントの色が銀色だ。
「この色、すぐ汚れそうですね」
「洗浄魔法をかけてやるから大丈夫だ」
「魔法? 魔法が使えるんスか?」
「ああ。ケントは使えないのか?」
「まったく。てか、俺の世界には魔法使える人いません。俺、魔獣王に勝てるのかなぁ?」
「騎士が攻撃して弱らせるから、ケントはトドメを刺すだけでいい」
「若様の初陣で手柄を立てさせるために、家臣がお膳立てするような感じですかね?」
「よくわからんが……まあ、そうだな」
よくわからないのに肯定した。
「攻撃は魔法で?」
「剣と魔法だな」
「ファイアボールとか、サンダーボルトとか?」
「なんだそれ? ……火属性の遠距離攻撃、か?」
「そッス。あとは、アバダケダブラとか、彗星アズールとか?」
「聞いたことないな」
……ほとんど通じない。
「それで、トレーニングはどんなことを?」
「基礎的なトレーニングと実践だな。ちょっと服を脱げ」
「えっ!?」
反射的に胸を隠す。
「筋肉の状態を見るだけだ」
「あ、そッスか。びっくりした」
賢斗が上半身裸になる。
「引き締まってはいるが細いな。まだ鍛える必要がある」
「俺、帰る頃かなりマッチョになってますかね?」
「よくわからんが、たぶんそうだな」
「マッチョ」は通じていないようだが肯定された。
「オーブリーさんの筋肉も見せてくださいよ」
賢斗がそう言うと、オーブリーも上半身裸になった。鍛え上げられた身体だった。文句なしにすごい。
「うわ、ガチだ……」
賢斗がオーブリーの大胸筋の固さを確かめながら言う。
「これが騎士か……」
「長年鍛えているからな。ここまでとは言わないが、ケントもがんばれ」
「了解ッス!」
騎士団の騎士たちに紹介してもらった後、ランニングや筋トレなどの基礎トレーニングに加え、簡単な剣術の指導を受けて終わった。
「はぁ~疲れた。毎日これって、身体もつかな……」
夕食を食べながら、賢斗が弱音を吐く。
「大丈夫だろう。ケントはなかなか見どころがあるぞ。素質は十分だ」
「それならいいけど……がんばるしかないか!」
「ああ、期待しているぞ!」
「オーブリーさんは、どんな魔法が使えるんですか?」
「色々だな。洗浄魔法などの生活魔法や、回復魔法とかだ」
「攻撃のときはどうやって?」
「剣に魔力を乗せる。遠隔攻撃も可能になるし、直接攻撃する場合も威力が増す。属性によって強度は異なるが」
「火魔法とか氷魔法とか?」
「そうだ。ケントの世界には魔法がないのに、なぜそんなによく知っている?」
言われてみればそうだ。
「おとぎ話とかに出てくるんですよ。こんな能力があったらいいなって、誰かが考えたのかな。それか、昔、こっちの世界から転移してきた人がいたとか……」
「そんな話は聞いたことがないが、絶対にないとは言えないな」
「ところで、姉さんの護衛騎士、すっごい美形でしたね」
「あぁ、レオンか。『ルーキスの太陽』なんて呼ばれていてな、ものすごくモテるぞ。だが、そのせいで女嫌いだ……ほとんど例外なく」
「女嫌いに護衛されて、姉さん平気かな? いじめられたりしないですかね?」
「それはないな。任務はきっちりこなす男だ。…………ケントは姉上のことが本当に心配なようだな」
「まぁ、俺のせいで巻き込んじゃったし……。それに……俺、姉さん大好きなんで!」
「そ、そうか。姉弟が仲良いのはいいことだな」
……その発言が、後に騎士団中へと広まることになる。
……本人の知らぬところで。




