第43話 聖夜と年越し、騎士の独占欲
魔導具課に勤め始めて数日が経った。
「レオンさん、またお給料をいただきましたよ。今度はどうします?」
「さすがにネタが切れてきたな」
「エミリアさんたちにデートコースについて聞いたんですけど、『散歩とか』らしいです。貴族って、親が婚約を決めることも多いので、自由な恋愛をする人は少ないみたいで」
「そうなのか? 俺はそのあたりは知らん」
(本当に恋愛ごとに興味なかったんだ……)
「日本だと、十二月にクリスマスっていう行事があって」
「クリスマス?」
「もともとは外国の宗教行事なんですけど、日本では恋人同士で過ごす日みたいになっていて……」
沙弥が説明を続けるほど、レオンの視線がわずかに鋭くなっていくのがわかった。
「恋人同士で、高級レストランでお食事したり、夜景の見える場所に行ったりします。その後、おしゃれな宿に泊まって……」
「……夜景、か」
一瞬の空白……。
「その『恋人』っていうのは、サーヤも当然含まれるんだな?」
「違います!!」
「そうか?」
短い返事だったが、わずかに空気が張り詰めた。
「私は大抵クリスマスも残業していましたから!」
そう言うと、レオンは少しだけ肩の力を抜いた。
(この人、ほんとわかりやすい……)
「この国に高層建築はないが、高級レストランや宿ならあるぞ」
「それって貴族街ですよね? 落ち着かないんじゃないですか?」
「個室なら問題ないだろう」
「それなら、いいですね」
「他国の貴族が使う宿がある。そこに泊まるか?」
「はい」
「……予算は余るな」
「え? そんなに安いんですか?」
「一泊だろう?」
(この人の金銭感覚、たぶんおかしい)
「年越しはどうするんです? カウントダウンイベントとかあります?」
「家族と過ごすのが多いな」
「じゃあ私は部屋にいますので、レオンさんはご家族のところに……」
「いや、サーヤと一緒に新年を迎える!」
迷いなく決定された。
「……ありがとうございます」
「観劇でもするか? 大晦日はやっているらしい」
「見たいです! ドレスは……晩餐会のときのでいいですか?」
「それでいい」
「……あのドレス、レオンさんの瞳の色の刺繍が入ってましたよね」
「ああ、知っていた」
「……え?」
「求愛の意味だろう?」
「やっぱりそうなんですね」
(やられた……完全にわかってて勧めてた)
「意味を知ってしまうと、少し恥ずかしいですね」
「恥ずかしいことはないだろう? あのドレスはサーヤによく似合うし、もう一度着てほしい」
「わかりました。レストランの方もドレスが必要ですか?」
「そっちはヴルカリスに行く前に買ったやつでいいだろう。結局着なかったし」
「ルームサービスばっかりでしたからね」
(完全に食事より温泉を優先していたからな)
「観劇をするなら、宿に泊まるのは大晦日のほうがいいな。同じ場所でやるから」
「そうなんですね。それじゃ、クリスマスはディナーだけにしましょう」
クリスマスはディナー。年越しは観劇と宿泊。そのどちらも、当たり前のようにレオンが隣にいる。
……だからこそ、その「当たり前」に、終わりがあることを考えないようにした。
「年末年始って、庁舎の仕事はどうなるんでしょう?」
「大晦日は休みだな。新年も一日は休みだったと思う。騎士団は交代制だが」
「レオンさん、昨年は何をしていたんですか?」
「大晦日は騎士団の仲間と飲み会だった」
忘年会か!
「今年はないんですか? 飲み会……」
「どうだろう? 討伐に行ってるやつも多いから」
仲間が大変なときに、飲み会どころではないのかもしれない。
(そういう私は弟が大変なときに観劇に行こうとしている……)
少し胸が痛む。……それでも、この時間を手放したくないと思ってしまう。
「賢斗からの手紙によると、もう五千メートル付近にいるそうですね」
空気が少しだけ変わった。
「長くいられるのは、そのへんが限界だな」
「魔獣王は……」
「年明けには生まれるだろう」
その言葉だけが、冬の空気の中で少し重く落ちた。
「……でもケントなら大丈夫だ。騎士団もいる」
「はい」
(信じるしかない。今はまだ)




