表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーキスの太陽 ~異世界の境界線、その手を離さない~  作者: 如月菫
第一部 終わると知りつつ、恋をした
4/7

第3話 街の視線に揺れる朝、支配と保護の境界

 翌朝は八時ごろに目が覚めた。

 季節は夏だが、部屋は空調が利いていて快適だ。これも魔法で調節しているのだろうか。

 外は日中かなり気温が上がるらしい。持ってきた服は夏物ばかりなので、季節が同じで助かった。

 シャワーを浴びて、ノースリーブのトップスとショートパンツに着替える。

 そういえば昨夜は夕食を食べていない。少しお腹が空いたので、実家へのおみやげに買ってきたお菓子をつまんだ。


                 +++++


 十時ぴったりに扉がノックされた。開けるとレオンが立っていた。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします」


 そう挨拶をすると、レオンは沙弥の姿を見た瞬間……固まった。


「……買い物に行くのではないのか?」

「はい」

「なぜ服を着ていない?」

「着てますけど?」


 レオンの眉が険しく寄る。


「それは下着だろう」

「は!? 違いますけど!」

「お前の国では下着で外を歩くのか?」


 いや違うが?


「わかりました! 着替えますので少しお待ちください!」


 扉を閉めながら考える。


(脚がダメなのかも)


 ショートパンツとは言っても、そこまで丈が短いものじゃないのに……と思いながら、六分丈のカプリパンツに穿き替えた。


(膝下くらいなら出ていてもいいだろう。これで文句はないはず)


                 +++++


「お待たせしました。これでいいですか?」


 再び扉を開けると、レオンはじっと沙弥を見て……深いため息をついた。


「まだ上が下着のままじゃないか」

「違います!」

「違わない!」


 レオンは不機嫌そうに眉を寄せた。


「若い娘が嘆かわしい」


(田舎のおばあちゃんか!?)


 自分だって若いくせに、人を若い娘扱いだ。どうやらこの国はかなり保守的らしい。仕方なく、上に半袖カーディガンを羽織った。


                 +++++


 三度目の服装チェックで、ようやく合格した。国境を越えた気分だ。

 そのあと、レオンが懐から取り出した小袋を渡された。今月分の生活費らしい。紙幣ではなく硬貨なのでずっしり重い。

 いくらぐらい持っていけばよいかと尋ねたら、三万アウレアもあれば十分だろうと言われたが、念のため五万アウレアを持って行く。銀貨五枚分だ。財布に入り切らないのでポーチで代用する。


 レオンに先導されて廊下を歩いていると、行き交う人が端によって会釈をする。レオンは会釈を返さない。身分制度のある国では当たり前なのかもしれないが、なんだか嫌な感じだ。



 城壁の外は活気に満ちた城下町だった。石畳の通りには屋台や露店が並び、焼きたてのパンの香りや肉を焼く匂いが漂ってくる。人の波が途切れない。

 露店の品の値段を見て、一万アウレアが一万円程度と推測する。


 建物はどれも石造りで、日本では見たことのない装飾が施されている。道を行き交う人々の服装もさまざまだ。ゆったりとしたワンピースや長いスカート、長袖のブラウスなど、どれも露出は少ない。


(なるほど……ノースリーブにショートパンツだと、確かにちょっと浮くな)


 そのとき、通りの向こうから歩いてきた男が、ちらりとこちらを見た。次の瞬間、もう一度振り返る。さらに別の男も視線を向けてきた。露店の店主まで、何となくこちらを見ている。

 明らかに視線が集まっていた。


(……何だろう? 異世界人てバレてる?)


 沙弥は小さく首をかしげた。横を歩くレオンは無言だった。

 昨夜、手首を取られたときの感触が、ふと蘇る。


 人混みから離すように、レオンの歩く速度が少しだけ速くなる。


「レオンさん?」

「……」

「歩くの速いです」

「そうか」


 そっけない返事に不機嫌な声。何が気に入らないんだろう?

 さらに数歩進んだところで、若い男がすれ違いざまに沙弥をじっと見た。そして足を止めかける。

 その瞬間……レオンが一歩前に出た。空気が変わる。

 男ははっとしたように視線を逸らし、慌てて歩き去った。


「何ですか? 今の人……」

「見ていただけだ」

「何を?」

「……お前をだ」


(はっ!?)


「もしかして、異世界人てバレてます?」

「かもな……」

「何でバレたんでしょう?」

「服だ」


 断言された!


「この国ではあり得ない服装だ」

「ええっ」

「この国で若い女が脚を出すことはほとんどない」

「膝から下だけでも?」


 周りを見ると、確かに脚が出ている人はいない……一人も。せいぜい足首から五~六センチ程度だ。

 するとレオンが、ちらりと沙弥を見た。


「上もだ」

「カーディガン着てますよ?」

「薄いし、袖が短すぎる」

「えぇ……」


 確かに薄手で肌が透けているが……半袖もダメなのか? 夏なのに? でも、周りに二の腕を出してる人はいないな、確かに……。

 レオンが小さくため息をついた。


「服屋へ行こう」

「え?」

「まともな服を買いに」


 沙弥は思わず笑ってしまった。


「服装チェックに合格したと思ってました」

「もう、あの場で言ってもわからないと思ったんだ」

「そんなにダメですか?」


 レオンは一瞬だけ黙った。そして前を向いたまま言う。


「……目立つ」


 わずかに声が低くなる。


「余計な視線を集める」


 それだけ言って歩き出す。さっきより明らかに不機嫌だった。


 そこまで言われたら買います。ええ買いますとも。元々買うつもりではあったし。

 荷物になるから最後でいいやと思っていただけで!


 服屋に入って見ると、やはり保守的な服が多かった。ノースリーブは売っていないし、スカート丈も長い。

 レオンが一点を指して言う。


「それにしろ」


 なぜその服がいいのかはわからないが、素直に買うことにした。

 他にも何着か買い、レオンに示された服に着替えた。


(手持ちの服は、部屋着にするしかないな……)


 これは、なかなか面倒な世界に来てしまったかもしれない。


 そして……面倒な護衛もついている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ