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ルーキスの太陽 ~異世界の境界線、その手を離さない~  作者: 如月菫
第一部 終わると知りつつ、恋をした
33/54

第32話 遠い空からの便り、届いた答え

 翌日……。


 第一騎士団の詰所に出勤した。ヘンリクの姿を見つけ、沙弥は小さな包みを差し出す。


「お土産です」

「え、僕にですか?」


 ぱっと顔が明るくなる。


「わぁ~、ありがとうございます! 僕、甘いもの好きなんです!」


 やっぱり、と沙弥は内心で頷いた。想像どおりの反応だ。……その瞬間。


「……ヘンリクにも土産を買っていたのか?」


 背後から低い声。振り返ると、レオンが明らかに不機嫌そうな顔で立っていた。


「職場の人にお土産を配るのは、日本では普通なんです」

「普通、なのか?」


 納得していない声。


「レオンさんの可愛い後輩じゃないですか」

「……俺はあいつを可愛いと思ったことは一度もない」


 ぴしゃりと言い切る。そのままヘンリクを見る視線がほんのわずかに鋭い。


(完全に牽制してる……)


 沙弥は小さく息をついた。

 とはいえ、相手がお菓子であることに救われたのか、それ以上は何も言わなかった。


                 +++++


 昼休み……。

 ダニエラのもとへ土産を持っていくと、彼女は嬉しそうに包みを受け取った。


「ありがとう、サーヤさん! あ、そうだ。お二人に手紙が来てますよ~」


 差し出された封筒を受け取り、沙弥はその場で封を切る。差出人は賢斗だった。



            ✉️✉️✉️✉️✉️

   姉さん元気?

   俺は今、魔の山の三千五百メートル付近にいるよ。

   富士山と同じくらい高いところに来てしまったなんて、

   ちょっと信じられないよな。

   結界のおかげで寒さは感じないけど、

   酸素が薄いのがきつい。

   このあたりでしばらく体を慣らすらしい。

   騎士の中には体調を崩してる人もいるけど、

   俺は大丈夫だから安心して。


   ……それよりさ、レオンさんとうまくいってる?

   あの人、わかりにくいけど、

   姉さんが思ってるより、ずっと余裕ないと思う。

   だからさ、ちゃんと好きって言ってやって。

   言わなくても伝わるとか、あの人には通じないから。

   ……まあ、もう言ってるかもしれないけど。


   あとさ。あんまり他の男と仲良くしすぎると、

   普通に機嫌悪くなると思うから気をつけて。


   王都も寒くなる頃だろ?

   体に気をつけてな。

   それと……最後になったけど、誕生日おめでとう。

   また書くよ。

   レオンさんにもよろしく。

                賢斗

            ✉️✉️✉️✉️✉️


 読み終えた瞬間、視界が滲んだ。


(もう、そんなところまで行ってしまったのね)


 元気そうだとわかっていても、胸の奥がざわつく。遠い場所にいる現実が、じわりと重くのしかかる。


 沙弥は深く息を吐き、すぐに返事を書き始めた。

 だけど、なんでレオンさんとのこと知ってるんだろう? しかも、こんなに的確に……。


            ✉️✉️✉️✉️✉️

   賢斗、手紙をありがとう。

   元気そうで安心したわ。

   もう富士山より高いところにいるのね。

   くれぐれも無理はしないでね。

   実はね、レルナという町に行ってきたの。

   紅葉がとても綺麗だったわ。

   賢斗にも見せてあげたかったな。

   それから、山で魔獣に遭遇したの。

   レオンさんがすぐに倒してくれたから怖くなかったけど、

   初めて見たから少し驚いちゃった。


   レオンさんとは、たまにぶつかることもあるけど、

   ちゃんと仲直りできているから安心してね。

   でも、美少年鑑賞をなかなか理解してもらえないのは

   ちょっと困ってます。


   早い帰りを待ってるわね。

                沙弥

            ✉️✉️✉️✉️✉️


 レオンも手紙を読んでいた。


「サーヤは、『好きだと言い忘れているだけ』だそうだ」


 ぽつりと呟く。オーブリーの手紙の一節らしい。


(……そんなことがあるのかと思っていたが)


 内心で苦笑する。だが、事実だった。拒絶されていたわけではない。それだけで、胸の奥に残っていたものが、静かにほどけた。



            ✉️✉️✉️✉️✉️

   オーブリー、返事をありがとう。


   サーヤの気持ちを聞いた。

   ヘンリクのことは恋愛ではないそうだ。

   俺に対しては、

   好きだと言い忘れていただけらしい。

   信じがたい話だが、事実だった。

   ケントはそれを見抜いていたんだな。

   さすがだと思う。

   サーヤの心を読み取ることにかけては、

   俺はこの先もケントを超えられそうにない。

   ヘンリクの件を完全に納得したわけではないが、

   胸のつかえは取れた。


   お前とケントには感謝している。

   無事に戻るのを待っている。

               レオン

            ✉️✉️✉️✉️✉️


 遠征先……。


 オーブリーはその手紙を読み、思わず笑みを浮かべた。


「どうやら解決したみたいだな」


 隣でケントが肩をすくめる。


「でしょ? 姉さん、そういうところあるんですよ」

「『好き』を言い忘れるか、普通」

「普通じゃないんです」


 きっぱり言い切る。


「でも、それでうまくいったならいいじゃないですか」


 オーブリーは小さく笑う。


「まあな。レオンがあそこまで素直な手紙を書くとは思わなかったが」

「俺がいない間も、ちゃんと仲良くしてくれているみたいで安心しました」


 ケントは軽く空を見上げた。


「……あの二人、放っておくと(こじ)れそうなんで」

「違いない」


 二人は顔を見合わせ、苦笑する。

 一応は解決したものの、レオンの嫉妬がこれで終わると思えない。


 だが、遠く離れていても、手紙ひとつで状況が見える。それが、どこか安心できて……二人は静かに笑った。


 それぞれの場所で、それぞれの想いを抱えながら……物語は、静かに次へと進み始めていた。


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