第32話 遠い空からの便り、届いた答え
翌日……。
第一騎士団の詰所に出勤した。ヘンリクの姿を見つけ、沙弥は小さな包みを差し出す。
「お土産です」
「え、僕にですか?」
ぱっと顔が明るくなる。
「わぁ~、ありがとうございます! 僕、甘いもの好きなんです!」
やっぱり、と沙弥は内心で頷いた。想像どおりの反応だ。……その瞬間。
「……ヘンリクにも土産を買っていたのか?」
背後から低い声。振り返ると、レオンが明らかに不機嫌そうな顔で立っていた。
「職場の人にお土産を配るのは、日本では普通なんです」
「普通、なのか?」
納得していない声。
「レオンさんの可愛い後輩じゃないですか」
「……俺はあいつを可愛いと思ったことは一度もない」
ぴしゃりと言い切る。そのままヘンリクを見る視線がほんのわずかに鋭い。
(完全に牽制してる……)
沙弥は小さく息をついた。
とはいえ、相手がお菓子であることに救われたのか、それ以上は何も言わなかった。
+++++
昼休み……。
ダニエラのもとへ土産を持っていくと、彼女は嬉しそうに包みを受け取った。
「ありがとう、サーヤさん! あ、そうだ。お二人に手紙が来てますよ~」
差し出された封筒を受け取り、沙弥はその場で封を切る。差出人は賢斗だった。
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姉さん元気?
俺は今、魔の山の三千五百メートル付近にいるよ。
富士山と同じくらい高いところに来てしまったなんて、
ちょっと信じられないよな。
結界のおかげで寒さは感じないけど、
酸素が薄いのがきつい。
このあたりでしばらく体を慣らすらしい。
騎士の中には体調を崩してる人もいるけど、
俺は大丈夫だから安心して。
……それよりさ、レオンさんとうまくいってる?
あの人、わかりにくいけど、
姉さんが思ってるより、ずっと余裕ないと思う。
だからさ、ちゃんと好きって言ってやって。
言わなくても伝わるとか、あの人には通じないから。
……まあ、もう言ってるかもしれないけど。
あとさ。あんまり他の男と仲良くしすぎると、
普通に機嫌悪くなると思うから気をつけて。
王都も寒くなる頃だろ?
体に気をつけてな。
それと……最後になったけど、誕生日おめでとう。
また書くよ。
レオンさんにもよろしく。
賢斗
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読み終えた瞬間、視界が滲んだ。
(もう、そんなところまで行ってしまったのね)
元気そうだとわかっていても、胸の奥がざわつく。遠い場所にいる現実が、じわりと重くのしかかる。
沙弥は深く息を吐き、すぐに返事を書き始めた。
だけど、なんでレオンさんとのこと知ってるんだろう? しかも、こんなに的確に……。
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賢斗、手紙をありがとう。
元気そうで安心したわ。
もう富士山より高いところにいるのね。
くれぐれも無理はしないでね。
実はね、レルナという町に行ってきたの。
紅葉がとても綺麗だったわ。
賢斗にも見せてあげたかったな。
それから、山で魔獣に遭遇したの。
レオンさんがすぐに倒してくれたから怖くなかったけど、
初めて見たから少し驚いちゃった。
レオンさんとは、たまにぶつかることもあるけど、
ちゃんと仲直りできているから安心してね。
でも、美少年鑑賞をなかなか理解してもらえないのは
ちょっと困ってます。
早い帰りを待ってるわね。
沙弥
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レオンも手紙を読んでいた。
「サーヤは、『好きだと言い忘れているだけ』だそうだ」
ぽつりと呟く。オーブリーの手紙の一節らしい。
(……そんなことがあるのかと思っていたが)
内心で苦笑する。だが、事実だった。拒絶されていたわけではない。それだけで、胸の奥に残っていたものが、静かにほどけた。
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オーブリー、返事をありがとう。
サーヤの気持ちを聞いた。
ヘンリクのことは恋愛ではないそうだ。
俺に対しては、
好きだと言い忘れていただけらしい。
信じがたい話だが、事実だった。
ケントはそれを見抜いていたんだな。
さすがだと思う。
サーヤの心を読み取ることにかけては、
俺はこの先もケントを超えられそうにない。
ヘンリクの件を完全に納得したわけではないが、
胸のつかえは取れた。
お前とケントには感謝している。
無事に戻るのを待っている。
レオン
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遠征先……。
オーブリーはその手紙を読み、思わず笑みを浮かべた。
「どうやら解決したみたいだな」
隣でケントが肩をすくめる。
「でしょ? 姉さん、そういうところあるんですよ」
「『好き』を言い忘れるか、普通」
「普通じゃないんです」
きっぱり言い切る。
「でも、それでうまくいったならいいじゃないですか」
オーブリーは小さく笑う。
「まあな。レオンがあそこまで素直な手紙を書くとは思わなかったが」
「俺がいない間も、ちゃんと仲良くしてくれているみたいで安心しました」
ケントは軽く空を見上げた。
「……あの二人、放っておくと拗れそうなんで」
「違いない」
二人は顔を見合わせ、苦笑する。
一応は解決したものの、レオンの嫉妬がこれで終わると思えない。
だが、遠く離れていても、手紙ひとつで状況が見える。それが、どこか安心できて……二人は静かに笑った。
それぞれの場所で、それぞれの想いを抱えながら……物語は、静かに次へと進み始めていた。




