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悪女皇帝は返り咲く  作者: 智慧砂猫


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第50話『家族を救う方法を』

 それは、長い長い眠りから覚めたような感覚。二つに混ざり合った魂は、入れ替わるようにして人格を本来のフレアに戻す。仲間たちの必死になって名前を呼ぶ声に、申し訳なさがこみあげてきた。


 お前たちが探しているのは、私ではないだろう。宮本サラだったはずだ。名前を取り戻した彼女だったはずだ。此処にいるべきは私ではなかった。


 そう祈っても、願っても。ただ朦朧とする意識が覚醒していくだけで、宮本サラという人間の人格が現れることはない。夢を見ることもない。たった少しの間だけ、自分の体を与えて、自分はのうのうと生きていくのか。なんと狡いことか。できればこのまま眠っていられないものか、と考えていると、フレアの耳元で、ぼそっと突き刺すように囁く声が掛けられた。


「バレてるよ、陛下」


 ギデオンの声に、ぎこちなくフレアは目を覚ます。


「……仕方あるまい」


 起き上がり、じんじん痛む頭を押さえてフレアは深いため息を吐く。


「魔物は討伐したか」


 ギデオンに報告を促すと、彼は立ちあがって眼鏡の位置を整えてから。


「クリスタルの破壊と同時に消滅が確認されました。なぜあのような魔物が現れたのかは結局分かりませんでしたが……。俺たちはどうも、これまで何度もアレに殺されてきたようです。皆、記憶が途絶えていましたがクリスタルの破壊と同時に全てを思い出しました。フレア、あなたはどうでしょうか」


 ギデオンの申し訳ない表情にフレアは察して、深く肩を落とす。


「どうやら話さなくてはならないことがあるようだ。全員、整列しろ。オルキヌスの騎士以外は周辺の警備に当たれ。問題があれば呼ぶように」


 人払いを済ませると、フレアは立ちあがって羽織りを着直す。


「どうも北部の寒さには慣れん」


 冷たい手を少しでも温めるためにポケットに手を突っ込み、全員を一瞥する。粛々とした態度で臨み、フレアの言葉を待っている。


「ずっと話すつもりだった。最初は、ほんの少し筋書きを変えて、私なりに幸せな道を歩みたかっただけだ。それも今日までで終わりだ。どういうわけか、感覚として理解している。あのクリスタルは二度と生み出されないだろう。魔物共に脅かされる日々は貴君らの活躍を以て終焉を迎える運びとなった。必死になって、皆を救おうと走り回る理由もない。我々は今日────自由を勝ち取った」


 ギデオンが不思議そうな顔をする。自分が宮本サラであることを語るのではないのか、と。既に人格が入れ替わっていることには気付いていなかった。


「今日までご苦労だった、ギデオン。ただひとり、最初から記憶を持ち続け、よくぞ支えてくれた。……そして、皆には謝らねばならない。これまでそなたらと旅をしたフレアは、私ではない。宮本サラと言う人間である」


 制帽をきゅっとつまんで深く被り、僅かに声が震えた。


「記憶が蘇ったのであれば、知っての通り、私は幾度もの失敗を経て、諦観を抱いてしまった。その苦肉の策として、ルイーズの創りあげた転生魔術によって、サラの魂と私の魂は混ざり合い、私はそのまま消えるはずだった。だが、実際にこうして戻ってきたのは、私の方だった。皆には申し訳ない。今まで騙すような真似をして、あまつさえサラの魂を弄んだのと変わらないのだから」


 複雑な心境になったのはフレアだけではない。誰もが、サラを犠牲にしたことを悔いている。最初は何かのきっかけになれば、と偶然、死んだ人間の魂がフレアに合致するからと使ったに過ぎない。そのときは道具のように思っていた。都合が良いと考えていた。


 だが、共に過ごす時間が、強い絆を生んだ。いまさらになって記憶が蘇り、罪悪感で胸がいっぱいになる。悲しさと申し訳なさに苛まれた。サラにもいてほしかったと、都合の良いことを考える頭にも嫌な気分にさせられた。


「フレア、俺はそれでも立ち止まるべきじゃないと思うよ」


 ギデオンが眼鏡を人差し指で押し上げて位置を正しながら────。


「ここからは俺が後から計画していたことだから初めて話すけど……。絶対にサラを取り戻せないという考え自体が間違っている」


「……話してみろ、ギデオン。既にサラは私の魂と混ざり合っているのだぞ」


 中途半端なことを言えば許さないという強い視線にも臆さず、ギデオンは騎士団を一瞥してから、考えながら話す。


「俺たちは、この無限に繰り返される絶望から脱却するために、異世界から適合する魂を選んでフレアの魂と混ぜ合わせた。その技術が創れたのなら、逆も可能なのではないかと思うんだ。つまり────」


 胸に手を当て、自信たっぷりに笑みを浮かべる。確たる根拠はない。ただ、それでも信じられた。サラがやり遂げたように、今の自分たちにも出来ると。


「魂の分離方法を研究する。我々にはまだ可能性が残っているはずだ。代替となる肉体をどうするのかも含めて、五年。五年で全てを完成させたい」


 希望的観測かもしれない。だが、それの何が悪いのか。指でつまめるほどの小さな可能性だったとしても、ゼロでない限りは出来得るのだ。フレアが、その場にいた全員が、ギデオンの計画を否定する理由などなかった。


 制帽をぎゅっと被ってフレアは宣言する。


「今の私如きが偉そうに、と思うやもしれないが確実に遂行しろ。お前たちに新たな任を与える。────宮本サラを救う方法を五年で見つけ出せ」

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