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撃鉄の響く戦場にて  作者: KY
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公国からの逃避行

今回は逃亡編。

頑張りました!

容疑者のままで公国に連れてこられたマサル。

ガラガラと揺れる護送馬車に乗せられたままで入国した。


「この国が俺の魂が乗り替わる前に故郷・・・。 皮肉だよな・・・。 普通なら喜ぶ所が罪人だから」


マサルの独語は馬車のガタガタ音で消えていく。

そして、活気あるマーケットの通りを抜け、本来の目的地である留置場に向かっていく。

護送車の扉が開く。

そこには最初に連行しに来た男が、看守を連れていた。


「馬車の旅はここで終わりだ。 これからはここのホテルマンが君の部屋に連れていく。 出ろ!」


「くっ!分かったよ!」


看守たちは思いっきり鎖を引っ張る。 転びそうなのを何とか踏ん張り、馬車から降りた。

収容される施設は高い壁に囲まれていた上にかつて自分が使っていた銃を持って監視の任につく兵士が見て取れた。


「これからはお前の自由はない!貴族様だったらしいが、対応は変わらないぜ?」


「そうかよ・・・。」


マサルもそれを言い返す以外なかった。

看守はそのまま引っ張っていき、一つの部屋の前に着いた。


「ここが君の新居だ。 入れ!」


「くっ!」


開けられた収監室の前で蹴り入れられたマサル。

放り込まれた後は、重厚な閉める音と共に閉じ込められた。

入れられた部屋は薄汚れたベッドに変色しているシーツと毛布があり、後はむき出しであるトイレだけという部屋だった。


「この仕打ち・・・覚えていろよ・・・。」


「おい!休憩させてやるから30分後に尋問が待っているからな!」


看守はそれだけ言うと、去っていった。

看守の宣言通りより少し早い時間に拷問官が看守と共にやってきた。


「これが獣王国にいた裏切り者?中々いい面構えねぇ~。 可愛がってあげるから。」


「そういう趣味はない。」


看守二人に抱えられるように拷問室へ連れていかれる。

当然拷問官に2時間にもわたり、拷問を受けた。


「ぐはっ!」


「明日もあるから休んどけ!」


体も精神も拷問で削られたが、マサルは堪えた。

しかし、そう毎日はこの状態はキツイ。 


「ちくしょう・・・絶対後悔させてやる・・・。」


「閣下、無事ですか?」


「あまり無事ではないな・・・。 やれそう?」


「はい。 あと数日で完全に向こうがハマります。 どうか辛抱の程を。」


「簡単に言ってくれる・・・。 頑張るしかないのだろ?」


「申し訳なく・・・。」


掃除夫に化けた暗部の男に去る様に告げると、彼は去った。

翌日も拷問官の拷問が続き、マサルは痛みで何度も気を失ったが、そのたびに冷水をかけられて覚醒させられ、拷問をするを繰り返された。

そんな日が3日続き、とうとう暗部の者がマサルの元に現れた。


「閣下、お待たせしました。 ポーションです。 飲んでください。」


「流石に折れそうだったぞ?どうすればいい?」


彼から渡されたポーションを飲み干すと、彼の指示のもとで脱獄をした。


<看守サイド>


「おい!返事しやがれ!聞こえてんだろ?!」


あまり返事がない事に不信感を抱いた看守が扉を開け、布団を捲ると、そこにはマサルはいなかった。

看守は叫んだ。


「脱走だァァァァァ!!!!」


叫び声と共にサイレンと緊急出動する武装看守が飛び出してきた。

彼らは突撃銃や小銃を手に門外と門内に分かれて捜索をした。

その頃にはすでに20キロは離れた場所を着替えて進んでいるマサルにはまったく問題はなかった。

目的地は獣王国の王宮。 敵の黒幕がいる場所だった。


<獣王国側>


時間を一月ほど巻き戻した王宮にて。

宰相執務室に一人、ほくそ笑んでいる人がいた。

宰相その人。


「マサルが公国の罪人として連行された。 これから懐柔策を弄して解体していけばよい・・・。 忙しくなるな・・・。」


宰相は辺境伯派閥と目される貴族家に揺さぶりをかけた。

中にはぐらつく者がいる、または王宮派に寝返る者がいると判断したが、現実は違った。

殆どの派閥貴族がぐらつかなかった。

原因は彼の妻たちが子供を産んでいる事。 正妻というべき姫騎士が男子を産んでおり、周りを支える役職もがっちりと組まれ、義父たちもそれに参加しているために後ろ盾もある。 派閥の子息も小間使いとして奉職しており、派閥貴族の呼び出しも出来る状態で、警備隊も私兵団も派閥貴族領地内でも活動中であり、彼らから齎される魔物の買取品からも領内は潤っていた。

経済も互いに助け合う体制も出来ており、暫定的に当主の姫騎士は傍流でも帝国王室出。 実弟である帝国王室が、支援に乗り出しているためにさらに安定している。 

そんな安定どころか、さらなる強固な政治基盤と経済基盤がある派閥をでる愚か者はおらず、むしろ丁寧なお断り文を出す余裕のある家もあり、目算が外れた。


「くそ!マサルさえいなければ、瓦解すると思ったのに!」


「宰相閣下。 ここは時間を掛けるべきです。 帝国の横槍を派閥貴族に説いて回るべきです。」


「時間がかけられんが・・・。 いや、待てよ?あ奴は処刑台しかない。 ならば、それで行くか・・・それでいこう!すぐに取り掛かれ!」


帝国の横槍を期待して説得交渉に入った宰相派は行動を開始した。


<帝国サイド>


愚父母や愚兄弟を葬り去る事に成功した姉の夫であるマサルが、宰相の策謀で公国の虜囚になった事を姉からの手紙から知った現帝国皇帝の若き帝王は、頭の中で天秤にかけた。

獣王国に肩入れし、分け前を得る方法と姉に協力し、マサルが助かった際や甥や姪に恩を売り、帝国のアバロン側に好感を持たせる方法の二つだった。


「獣王・・いや、姉の手助けをしよう。 甥姪に恩を売り、アバロンの生産品を得ていく方が得策だ。 姉の子であるから身内だしな。」


帝国はアバロンに肩入れすることを決定し、水面下でアバロン側に接触した。 弟が姉に文を出すのはおかしい事ではないと、姉と共に出て行った者に返事を認めて送り返した。

その他に公国近郊の帝国領にアバロン側が、助けを求めた際は手を貸すように密命を託した。


「助けると決めた以上、恩は大きい方がよい。 わざわざ処刑台に押し出すこともない。 姉に大いに口添えを願おう・・・。 あいつらの所為でここまで落ちぶれたこの国を義兄の力を利用して、盛り立ててやるぞ・・・。 すぐに手配を!急げ!帝国が義兄殿の救出作戦の功労者になるために!」


「「「「「はっ!御心のままに!」」」」」」


すぐに公国暫定政権近くの貴族・行政府に通達が出され、支援が国の方針として決定・実行された。

そんな中で最前線の軍事拠点にアバロンの暗部が訪問した。 しかも司令官の部屋に。


「失礼します。」


「誰だ!貴様!ここをどこか知っているのか!」


「騒がないで下さい。 私はアバロンの暗部に所属する者。 お願いがあり、来ました。」


「願い?ほう?何かな?」


「我が当主、マサル様の逃亡に手を貸して頂きたい。」


「成程、帝国が便宜を図る様に言われている事を知っているようだな。」


「御意。」


「分かった。 協力をしよう。 帝王様の命令だ。 逆らうなどありえん。」


「ありがとうございます。 詳細はまた。」


「うむ。」


暗部の男性が去った後、司令官はいつもと変わらぬ仕事をしていながらも近隣の貴族や部隊と協議し、計画を練った。 無論、水面下で。


<アバロン側>


暫定当主になったマリアは弟からの手紙を見ていた。

持ってきたのは共に亡命していたメイドの女性。


「ほう。 即断とは驚いた。 決断を渋ると思ったが。」


「そうなのですか?しかし、書面では色々と働きかけてくれているようですが?」


「多分、獣王国や公国に肩入れするより、私や甥姪に恩を売る方が得策と判断したからだ。 いまは暫定でも私が当主だ。 既成事実を作ろうとしている。」


「仕方がないかと。 それであの方が助かるのであれば。」


「うむ。 マサルには私の独断で決めたことにすれば、怒りは私のみ。 子供の助命は頼みたい。」


「大丈夫です。 その時は私もかぶります。」


「すまない。」


「今は無事を祈りましょう。」


返事はすぐになされ、帝国側の要望は受け入れた。 

しかし、アバロンもマリアの着任で表面は落ち着いたが、水面下は少なくとも波が出ているのは、事実だった。

しかし、確固たる経済と生活基盤がしっかりしている中では大きな問題にはならなかった。 帝国もあえて自分らをねじ込もうとはせず、友好関係を構築することに尽力したために国内での反感も最小限に抑えられた。 

そんな状態が数日続いた際に緊急電が舞い込む。


「マサル様、公国領内の刑務所を脱出!」


<マサルサイド>


暗部の手引きで怪我を治し、刑務所を脱走した。

出てまもなくサイレンや自分を探すサーチライトが方々で点灯した。


「はぁ、はぁ、運動不足かな?帰ったら訓練をしよう。」


「そんな事は後で!早くこちらへ!」


「分かった!」


暗部の隊員の手引きで、森に逃げ込むことが出来た自分。

遠くから車両や犬の吠える声がかすかだが、聞こえだした。


「さすがに展開が早いな・・・。 国の命運もあるから仕方がないか・・・。」


「閣下の身柄で国が復興できるので、仕方がないです。 もう少し辛抱ください。」


「無論だ。 世話になる。」


そのまま隊員の誘導で帝国領方向へと思われる場所を目指した。

その際、気配を感じたが隊員が手を上げているので、同じ暗部だと判断した。

彼らはかく乱を指示されているものらしく、終わると自分の後ろを追いかけてきた。


「閣下、このまま帝国領に入ります。 そこで帝国軍にピックアップしてもらい、帝国軍軍事拠点に身を隠します。 その後は帝国貴族領を通り、アバロンを目指します。」


「帝国?そちらと話が出来ているのか?」


「閣下、貴方様の奥方は『姫騎士』様ですよ?姉弟間で話を付けてくれました。 帝国はこちらの味方ですよ。」


「そうか・・・。 余計な事をさせてしまったか・・・。」


「まずは閣下が無事に帰還される事です。 我らも頑張りますので。 今しばらく辛抱を。」


「うむ。 頼む。」


再び進んでいき、森がもう少しで切れる所で帝国軍の部隊に合流した。

先導している隊員と帝国兵は互いの符号を確認すると、直ぐに後続の暗部の隊員と共にトラックに乗り込んだ。 帝国兵達もトラックの幌を閉じ、バイクやジープ、装甲車で周りを囲むと、早々に拠点へ向けて走り出した。


「閣下、お久しぶりです。 覚えてますか?」


「君は・・・突入部隊の・・・先導の者もどこかで見覚えがあると思ったが、君の部下だったか。」


「はい。 このような任務、我が部隊しか受け持つなど許せません。 同じ暗部の隊長各と取り合いになりましたが、私が勝ちとりました。」


「そこまでとは・・・でもありがとう。 ひとまず息が付けそうだ。」 


顔なじみの隊員との会話で気力を少し取り戻せた。

そのまま2時間ほど車上の人になった後で、トラックが止まる。


「お客人。 拠点に着きました。 降りてください。」


「ああ、すまない。」


「閣下、手を。」


「ありがとう。 」


トラックから降りたそこは要塞と言ってもおかしくない場所だった。

帝国軍の部隊があちらこちらで、各位の任についていた。

護送部隊の隊長らしき青年尉官が近づいて、敬礼後に声を掛けてきた。


「失礼します!基地司令官殿が閣下との面会を求めています。 ご同行頂けないでしょうか?」


「それは勿論。 挨拶はさせて頂きたい。 頼めるか?」


「はっ!こちらです!」


尉官に案内されて、司令部らしい建物に入る。

階段をいくつも登ったのちにある部屋で止まった。 その扉をノックし、話しかける。


「司令官。 お連れしました。」


「入ってもらってくれ。」


「どうぞ!」


尉官は扉を開けると、入室を促された。

部屋に入ると、30代ほどの男性が執務机で執務をしていた。


「申し訳ないです。 飛び込みはいりまして・・・少しお待ち願いますか?」


「気にしないで下さい。」


マサルは部屋付きの従兵の誘導で応接用の椅子に促され、また別の従兵が持ってきたお茶と菓子を振舞われた。 久しぶりのお茶と菓子は最高に旨かった。


「気に入ったようで何よりです。 お待たせいたしました。 基地司令をしているケンブリッジ中佐と王します。 遠路お疲れさまでした。」


「ケンブリッジ中佐。 お世話になります。」


マサルは頭を下げ、これまでの事を礼をした。

その様子を驚いたような顔をしていた中佐に声を掛けた。


「どうしました?」


「あっ、いや、私も立場上、獣王国の貴族様と対話をすることがあるんですが、貴方様はその方がとは違うようですね?」


「他の方は知りませんが、私の派閥の方々はあまり私と変わりませんよ?」


「確か辺境伯様でしたな?私たちは王宮派と貴族派の方と話したことがありますが、どうも我らを下に見ている所があるので、好ましく思わなかったのです・・。 あっ、申し訳ございません!出来れば内密にお願いできませんか?」


「ははっ!気にしないで下さい。 そんな事は申しません。」


「ありがとうございます。 我らが思うような方でなくてよかった。」


「そうですか・・・。 期待通りでなくてスイマセン。」


「それでは助けた甲斐もないですよ。」


こうして、その後の会談はうまく行った。

翌日には中央へと向かうトラック隊の荷物に紛れ、基地を出立し、幾つかの貴族領を過ぎたのちに乗り換えをし、今度は貴族の馬車に護衛官として紛れ込み、アバロン領と国境のある国でアバロン側に入る手はずであると、伝えられた。


「明日中にここに公国の捜査が来るでしょう。 その際に居られるとまずい事になります。 大変ですがもう少し辛抱を。」


「ありがとうございます。 お元気で。」


出発する際、指令が個人的に見送ってくれた。

マサルと暗部を乗せた車列が基地を出て、いざ中央へと向かう。

手はず通り貴族の護衛官としてさらに移動したのちにアバロン領へとたどり着いた。


「我が領地に帰ってきたな・・・。 長かった・・・。」


「お疲れさまでした。 あとはお屋敷にかえるだけです。」


領地に入った事を暗号で連絡すると、迎えを出すと連絡があり、待つとナナの部族兵部隊が迎えに来た。

当然、ナナが率いて。


「旦那様!迎えに来たぞ!帰ろう!」


「ああ、ありがとう。 なぜ、ナナが?」


「うむ!マリアが森や荒れ地での戦闘が一番得意な我らが行く方がよいだろうと、良いのでな!来た!」


「そうか・・・。 ありがとう。」


「うむ!」


「隊長、妙な連中が近づいてきています。 早く離れましょう。」


「ほう?この私の旦那様を害するだと?お前たちちょっと揉んで来い。」


「はっ!お任せを。」


「閣下、我らも行きます。 ナナ様の部隊がいれば、安全です。」


「すまない。 頼む。」


暗部の部隊とナナの部隊の一部が、その不審者の集団の元へと消えていった。

遊牧民兵も暗部の兵も共にどこか日陰者の系統があったが、やはり強さは折り紙付きでものの数分で帰還してきた。


「やはり王宮派の暗殺部隊でした。 全員始末したので足はつきません。 ご安心を。」


「ふん!我が旦那に手を出すなど、万死あたる!様が良いわ!」


自身の部隊の有力さを見せられたナナは、満足そうにその豊満な体を強調した。

暗部の皆も少し距離を置いて頭を下げていた。 被害はないようだ。

こうして、ナナとナナの部族兵、暗部に守られながらアバロン領の領都に着いた。


「旦那様、お帰りなさいませ。 当主の任をお返しします。 それと独断で勝手に決めてしまったことがあります。 話を聞いて頂けますか?」


「無論だ。 世話をかけたね。」


「はい!ありがとうございます!」


マリアとジョアンナから暫定当主になった際に決めたことや約束したことを話された。

しかし、どれも交渉の余地がある様にしてあったために問題はなかった。

ただ、恐縮している二人に一晩、夜伽を依頼した。

二人は赤面になったが、最後は受け入れてくれた。 そこにはナナも入った。

そして、数週間ぶりに自室で夜の運動会をした。 朝まで。

翌朝は半分以上気を失っている女性が3人、ベッドで突っ伏した。

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