遠足
公国に護送される回です。
ここでやっと出てきます。
郷里が。
騒動が終わった事で妻や側室さんを全員連れて、マサルは遠足という名の家族奉仕に来ていた。
領内にある小高い丘陵地にシートを敷いて、同行の料理人さんが調理してくれる食事をキャンピングトレーラーに乗ってやってきた。
「久々に外の空気を吸いに来た様に感じますね。」
「そうだねぇ・・・。 今は忙しい日々だったからな。 この時間はありがたい。」
そう言いながらそれぞれの子を抱えた妻たちがこれまた世話係の女性と護衛官を従えながら歩いてきた。
当然、半径1キロは護衛官や兵士がいる状態だ。 博士姉妹や遊牧民の尾さの娘だったナナもマサルの子を身ごもり、産み落とした。 いまでは遊牧民たちで編成した遊撃義勇兵も100名を数え、その長に収まった彼女の弟達が、自分らの甥や姪を守る者になっている。
戦闘民族でもある遊牧民の部隊は義勇兵でありながら、高い忠誠心と技量を有していた。
彼女とその子供を守るために多くの遊牧民の生き残りが志願した。
彼らの心の拠り所とマサル達の訓練方法が混ざり、彼ら自身の生来のサバイバル術で『グルカ兵』の様な傭兵に近い兵士が誕生した。 彼女に関してはその遊撃部隊からの派遣だった。
「久しぶりに子供達もみたかったしね。 皆元気そうで良かったよ。」
「そこは心配せずとも良いですよ?私達で育てますから。」
「「「はい」」」
「「「その通りです」」」
嫁たちが返事を返した。 声を出さなかった嫁は笑顔でマサルを見ていた。
そして、マサルの家族を包み込む様に吹き抜ける風はとても暖かくも穏やかな風だった。
その穏やかな時間を数時間過ごしたのち、アバロンの領都に向け進んだ。
また、ここでピクニックに来れる様に頑張ろう・・・。
一兵士からここまで来た男のささやかな望みは、裏切られることになる。
かつての郷里に。
「王宮よりの使い?」
「はっ!応接間にお連れしております。 どうなさいますか?」
「・・・。 分かった。 会おう。 案内を。」
「はっ!こちらです!」
兵士に案内された応接室には、使者と思う二人の男女が来ていた。
獣人の男性は獣王国側。 そうなると、女性側が公国側の使者となる。
「使者殿、よくお越しになられた・・・。 どのようなご用件ですか?」
「辺境伯殿。 お目通りありがとうございます。 この度は郷里である公国の使者がお越しになったのでお連れいたしました。 まずは彼女の言葉を聞いて頂けますか?」
「公国の?・・・。 伺いましょう。」
「お初にお目にかかります。 私は公国暫定政府外交部文官を勤めておりますエリスと申します。 この度はお目通りをして頂き、ありがとうございます。 閣下は公国の出との事ですが、お間違いはないでしょうか?」
「確かに私は公国の出身ではありますが、戦闘中の後遺症で記憶を失っております。 どこの出身かは分からないのです。」
「そうなのですか?所属部隊はどちらですか?もしかしたらそちらから分かるかも・・・です。」
「私は独立戦闘団第二大隊所属だ。」
「独立戦闘団・・・?ですか? うーん。 公式記録ではありませんねぇ~。 多分、戦闘の間に現地編成をされた部隊の様ですね。 閣下、出来ればその当時に着ていた戦闘服はありますか?」
「あるぞ。 すまないが、持って来てくれ。」
「畏まりました。」
近くにいたメイドさんに伝え、自身の服を持って来てもらう。
その間も質問が続いた。
そうしているうちに最初の戦闘服が来た。
「閣下、お持ちしました。」
「ありがとう。 これになります。」
「ありがとうございます。 うーん、見た目は公国歩兵隊のモノですが、紋章がない・・・武器は特別戦闘隊の銃に似てますが、違います。 襟章や階級章は公国のですが、形が違うんです。 しかし、いた場所は公国の前線陣地の一つですし、軍手帳は公国のものです。 ですが、認識番号は抹消されていますのでネームレスですか・・・。 懲罰隊の所属だとすれば、前線陣地に入れませんし、うーん。 現状ではどこかの部隊に所属をしていたが、戦闘で消耗しきってしまい、近隣の同様の部隊と統廃合して編成した部隊の一つという事しかわかりませんね~。 そうなると、武器がちぐはぐであることも説明が出来ますがそれではなんとも・・・。」
「いえ、そこは構いません。 して、私の身元確認の為だけに来たわけではないでしょう?」
「はい。 まずは身元確認が最初でして・・・。 今回は閣下の現状確認と援助の申し込みです。 お願いできますか?」
「それは構いませんが?ですが、こちらに輸送の手立てはありますが、そちらに行くことが出来ません。 そこはどうしましょうか?」
「そちらは国に帰ってからになります。 そこまでの権限がないので・・・。」
「分かりました。 これからどうしますか?」
「帰国しようと思います。 報告したいので・・・。」
「分かりました。 では本日はお泊り下さい。 翌朝にお帰り下さい。」
「ありがとうございます。 お言葉に甘えさせて頂きます。」
使者殿はそのまま領主館に泊まり、そのまま過ごされた。
使者の女性は妻や妾達とも交流をして過ごされた。
夜が明けると、土産を持って公国への道のりに出発していった。
「彼女の国も平和が来ると良いですね・・・。」
「そうだね。 それは願うよ。」
しかしこの時はまだ楽天的に考えていた。
宰相サイドが公国サイドに手紙を出している事に気が付いたので追加の指示をしたのみだった事に後悔をすることになった。
2週間程すると、まずは公国の査察官という男が現れ、領内を査察していき、帰っていった。
それから1週間ほどで今度は連行すると言って、一枚の紙を掲示した。
提示した紙には、『取り調べ許可状』があった。 それも宰相印付きで。
「書類は確認しましたが、罪状は?」
「知れた事。 我が公国の身分を勝手に使用した事と、前線部隊の全滅に手を貸したことによる裏切り行為に対してです。 御認めになられますか?」
「勿論、しない!ならば、証拠の提出は?」
「戦時中の事なので、それは必要ありません。 なので貴方を連行し、尋問して刑に服してもらいますのでよろしく。 こちらにも戻れませんよ。 お別れもして下さい。」
「さようか。 中々強引な方法ですね?これが嘘だった場合はどう責任を取るつもりで?」
「そんな事はありませんよ。 嘘はありません。」
こうして俺は無実の罪で公国暫定政府のある国の政府庁舎に2週間をかけて連れていかれることになったのだが、アバロンの暗部が行動を開始していた。
今回の黒幕は誰かと双方の目的は何なのかを探りだした。
「ほう、黒幕は宰相閣下。 理由は王宮より力がついてしまったうちらの派閥の解体とこちらの技術の総取りを狙ってか・・・。 公国は自分の国土奪還に助太刀とうちらの資産の半分を貰い、復興する事。 それは凄いね。 裏切りという戦場では証拠も残らない物とは恐れ入ったよ。」
「笑い事ではありませんぞ?閣下は公国に着けば、拷問三昧にされて認めて処刑台の露になるまでは苦しめられるのですよ?」
「そうならないように頼む。」
「分かりました。 尽力します。」
護送される馬車の壁伝いに会話をする暗部隊員とマサル。
彼らの周りは突然の馬車馬の大暴れで監視の目がいないことで、会話が出来た。
当然、仕掛けたのは暗部の人間でその為に話が出来た。
「たくぅ、なんだよこれは?!くそっ!おい!早く連行すぞ!準備をしろ!」
「ですが、班長!隊員の荷物を載せた馬車の馬が逃げてしまい、馬車が動かせません!馬を調達しないと無理です!」
「くそう!早く馬屋へ行って、馬を買って来い!」
「はっ!」
指示を受けた部下の護送官は、馬屋へ走った。
30分ほどで馬が調達できたことで、出発が出来るようになり、やっとアバロン領を出ようかというときには、日が傾いてきたころになった。
そのまま、3時間ほど進んだ所で夜営にちょうど良い広場を発見し、野営の準備が始まった。
当然だが、マサルの方は何もない。 床に横になるだけだ。
「今日は本当に良いことがない。 少し酒を飲むか・・・。」
「やれやれですよ。 貴族のねじ込みでここまで来ましたが、獣王国まで来て元公国民を、元軍人を連れてくるのに災難が続きました・・・。」
ここまでの妨害は暗部の手引きだが、彼らは気づかなかった。
しかし、夜も災難がつづく。
寝ていたテントが突然幾つも倒れた。 軽いものなので怪我はしなかったが、夜に直すのは危険と判断して毛布に包まった。
災難は続く。 早朝に炊事番が食事の準備をしようとした際に食糧庫として使っていた馬車が留め具が外れており、なぜかそのまま街道の反対側の森に突っ込む様に森の中に入っていた。
それに気づいた炊事番全員で引っ張り出そうとした所、絶賛略奪中のゴブリンに見つかった。
「ぎゃぎゃ!ぎぃぃぃぃ!」
「てっ!敵襲ゅゅぅぅぅぅ!」
早朝の広場に響く叫び声にマサルも目を覚ます。
馬車の周りでは、おっとり刀で炊事番の兵士を救援すべく、護衛官らが向かっていく。
馬車の周りに人がいなくなった所を見計らって、暗部の隊員が現れた。
「閣下、大丈夫ですか?」
「外は中々楽しい事になっている事は分かったよ。 どうだ?」
「はっ、その後は両国の大臣数名がこの計画に参加しておることが確認できました。 証拠も押さえましたので、ご心配なく。」
「あとは俺をどういうこじつけかもわかる?」
「それは調べる必要もなく、聞けました。 こじつけに近いものでした。 言っていた役人はすでに買収済みで逆らえなくしました。」
「それはお疲れ。 決起は公国に入った際に行う。 準備をしておいてくれ。」
「分かりました。」
始末が終わったらしく、数名の兵士が来たが、覗き窓を覗くのみで終わり、マサルも手を振るのみで反応があると分かると、直ぐに閉めた。
早朝のモンスター騒ぎで驚いたが、護送隊はそのまま出発し、全員が馬や馬車の上で食事を取ることにしたそうで、マサルにはなかった。 理由は自分らの食事が優先だから。
その後は街や村が多い場所を通るために順調に行った。
しかもここは獣王国ではない国で、公国の復興に協力をしている国であるために進みが良い。
「隊長、ここまでくればもう心配はいりません。 あと一歩です。」
「そうだな。 そうすれば、休暇がもらえるぞ!」
休暇というワードに笑みがでた一同。
公国の国境から30キロという場所にある街まで付くと、兵士達も少し浮かれていた為に色街に繰り出す者もいた。 しかし、翌朝の出発時間になっても7名の兵士が帰ってこなかった。 残りは8名がいるので護送には問題はなかったが、こうなると捜索をせねばならなくなった。
7名はやはり色街の風俗店の中で寝ていた。
それどころか、女の子に強引に迫った事で警備担当の男性従業員に取り押さえられた上に酒も飲んでいた為、そのまま寝ていたとの事。
「この度は部下がとんでもない事を・・・。」
「本当に怖かったですよ!もう来ないで下さい!公国の兵士は入店拒否します!」
店の女の子たちが首肯定し、男性従業員に囲まれている兵士達は薄ら笑いをしてまだ寝ていた。
その光景に隊長も情けない気分になった。
部下の失敗は上官の責任であるので、謝罪に来るのは仕方がないが、寝入るほど飲んで強姦未遂は庇いきれないとも思っていた。 しかし、彼らも部下だし、公国まで重要容疑者であるマサルの護送をするには彼らも必要な人材だ。
店の前で深々と頭を下げ、謝罪と彼らの弁償金を渡して諫めて貰った。
多分、今後は彼らは恨まれるだろう。 公国から一番近い街の色街が出禁にされたのだから。
「隊長?」
「おう、お前ら、良い夢は見れたか?」
「隊長、これには訳が・・・。」
「それは宿営地で聞こうか・・・。 ついてこい。」
「「「「「「「了解・・・・。」」」」」」」
こうして、般若顔の隊長を先頭にトボトボと歩いていく7人の兵士。
彼らはその後、どんな罰を受けたかは記載しない。
夜が更けていく。
そうして、アバロンを出発して20日して辿り着いた。
公国暫定政権のある共和国の一つの街、トトバルという街についた。
「さて、どうなりますかね。」
護送馬車の独り言は馬車内に消えた。
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