第7章 - 研修天使 - 二人の落第生
ミカがまた怒鳴られていた。
「ミカ!雲の納品伝票また間違えた!君はレベル18なのに仕事はレベル5だ!」上司の声。ミカは頭を下げて、光輪がパチパチ不安定に点滅している。
他人事じゃない。俺も毎日怒られる。
ミカは倉庫に逃げてきた。俺とピイが丸まっている所へ。俺を見てため息。
「君も怒られた?いや、君は存在しないから怒られもしないか」
「怒られたよ。鳥を追い払えなかった」
「そっか。俺も伝票間違えて怒られた。研修クビになるかも。同期はもう25なのに俺だけまだ18だ」
初めてミカをちゃんと見た。雲の練り粉で汚れた白い服、不安定にチリチリする光輪、小さい翼。隅っこにいるのは同じだ。俺は幽霊、彼は天使。でも二人とも落第生。
「一緒に働こうか。穴塞ぎ」
穴塞ぎは誰もやりたがらない仕事だ。嵐鳥が雲の床に穴を開ける。それを雲の練り粉で塞ぐ。重いし、地味だし、誰も褒めない。
第7区画へ行く。大きな穴だ。ミカが練り粉を持ち上げようとする。重すぎて持ち上がらない。俺が手を伸ばす。いつもなら突き抜ける。
今回は突き抜けなかった。
頭の上でピイが光った。生きた光輪。0.25% + ピイ。少しだけ練り粉が持ち上がった。ミカが反対側を持つ。
二人で穴を塞ぐ。練り粉は冷たくて白い。でも二人で塞ぐと温かかった。
上司が来た。
「穴塞がったな、ミカ。やっと一人でできたか?」
ミカは俺を見た。俺は透明だから上司には見えない。
「二人で塞ぎました。俺と幽霊で」
上司は笑う。「幽霊?疲れてるな。まあ塞がってればいい。今日は早く帰っていいぞ」
ミカは倉庫に戻ってきた。隣に座る。
「ありがとう。おかげで今日は怒られずに済んだ。存在度上がった?」
ステータスを見る。
一人だと少ししか上がらない。一緒だとよく上がる。ピイが一緒に寝ることで教えてくれた。ミカが一緒に働くことで証明してくれた。忘れられた者同士が一緒にいる時、存在は強くなる。
「ミカ、研修辞めないの?」
「分からない。でも今日は辞めない。君がいるし。倉庫に帰る場所があるし」
頷く。頭の上のピイがもっと明るく光る。ミカの光輪も少し安定して、パチパチが止まる。誰も見ない倉庫の隅で、透明な幽霊と不器用な研修天使が二人、雲の練り粉の匂いをさせながら座っている。
遠くで赤い鏡が光る。倉庫の汚れた丸窓から赤い空が見える。赤い髪の彼がこっちを見ている。手を振る。ミカも振る。向こうも振り返した気がした。
まだここにいる。俺たちはまだここにいる。
天界の隅っこで二人の落第生が穴を塞いだ。小さな穴で誰も気づかない。でも俺たち二人には大きな穴だった。存在度の低い二人で塞いだ穴だ。この穴はもう誰にも開けられない。練り粉が固いからじゃない。二人で塞いだ記憶が固いからだ。
二人で立つ。初めての感覚だった。一人で立つより少し重い。0.28%の重さだ。
第7章 終 - 存在度0.28% - 生きた光輪ピイ + 研修天使ミカLv18
第7話をお読みいただき、ありがとうございました。
天界のシステムから「落第生」の烙印を押された、不器用な天使ミカとバグ幽霊のタリエル。
一人では持ち上げられなかった冷たい雲の練り粉も、二人で手を取り合うことで、確かな温もりと『0.28%の重さ』へと変わりました。誰かと共に何かを成し遂げる記憶こそが、彼らの存在を何よりも強く証明しています。
天界の片隅で静かに育まれる二人の友情と、タリエルたちの成長をこれからも見守りたいと思ってくださった方は、ぜひ下の【ブックマークに追加】や評価の【★】、応援ハートなどで二人に存在度を分けていただけると大変励みになります!
明日の第8話「何も無い味」も19時に更新いたします。よろしくお願いいたします。




