第5章 - ピイ - 初めて俺の元へ来た者
倉庫で、丸いものが震えていた。
欠陥光輪の箱の隙間に、白い、ふわふわした、目を閉じて寝ているもの。俺より透明な小さな幽霊。時々「ピイ…」と震える。
近づく。手を伸ばす。いつもは突き抜ける。今回は突き抜けなかった。温かい。柔らかい。
起きた。俺を見た。存在度が俺より低いから、俺が見えたんだ。寄ってきて、足にすり寄る。温かい。幽霊なのに温かい。来てから初めての温もり。
「君も忘れられたの?」「ピイ」初めて誰かが俺の元へ来た。初めて誰かに選ばれた。
抱き上げると、胸で丸くなって寝た。俺の0.10% + 彼の0.05% = 0.15%を感じた。
名前を付けた。ピイ。声から。気に入って「ピイピイ」と頬をすり寄せる。
あの日から独りじゃない。ピイがいる。倉庫の隅で二人で丸まって寝る。スキル獲得。
【パッシブスキル獲得:安らかな眠りの癒し Lv1 - 他の忘れられた者と一緒に寝ると1時間ごとに存在度0.01%回復】
優しい増加だ。今までは屈辱だけが存在度を上げた。ピイは優しく上げる。
ミカが来た。「ペット拾ったの?珍しい、幽霊が幽霊を生む、入れ子構造、幽霊の幽霊」
「ピイ」
夜、明かりが消え、俺とピイは赤い鏡を見る。ピイも「ピイ!」と小さな手を赤い光へ伸ばす。向こうで赤い髪が笑う。
存在度0.15%。0.10%から跳ねた。ピイのおかげ。初めて誰かと一緒にいることで存在度が上がる。「忘れられたくない」だけじゃなく「忘れたくない」が存在を強くする。
まだここにいる。俺たちはまだここにいる。倉庫の隅で二つの透明な幽霊が丸まって寝ている。0.15%の温かい存在。
倉庫は寒い。雲の埃が積もる。でもピイがいると寒くない。ピイの寝息が「スー、スー」と小さく聞こえる。幽霊なのに寝息がある。存在しないはずなのに温かい。
俺は今まで存在度を上げるために恥をかいた。食堂でスープをこぼした。箱に噛まれた。全部痛かった。でもピイは違う。ピイはただ寝ているだけで存在度をくれる。優しい存在の上げ方を初めて知った。
ポケットの破片を握る。鏡の破片はまだ冷たい。でもピイが頭の上にいると少し温かくなる。冷たい破片と温かいピイ。矛盾。でも天界は矛盾だらけだ。
明日も倉庫だ。箱を整理する。でも今は二人だ。一人で箱を数えるのと二人で丸まるのでは違う。存在度が違う。
ピイは時々夢を見るのか、小さな手足をバタバタさせる。「ピッ」と小さく鳴いてまた寝る。可愛い。透明なのに可愛い。俺は可愛いと言われたことがない。でもピイは可愛いと思った。
赤い光がまた瞬く。ピイも見る。ピイは怖がらない。ピイは手を伸ばす。俺はまだ手を振るだけだ。いつか近くで会えるだろうか。1%になったらトレイが持てる。そしたらスープを分けてあげられる。ピイにも赤い髪の彼にも。
まだここにいる。ピイと一緒に。0.15%の温もりで。
天界の夜は長い。でも今は長くない。ピイの温もりがあるから。存在度が0.01%ずつ上がる音が聞こえる気がする。ポッ、ポッと。エコーではなく、鼓動に近い。
忘れない。ピイを忘れない。タリエルという名前も忘れない。全部書いておく。忘れられないように。神様だって忘れられたら消えるなら、俺は書き続ける。書くことが存在だ。
第5話をお読みいただき、ありがとうございました。
倉庫の片隅、欠陥品たちの隙間で震えていた小さな温もり。
タリエルの元に初めてやってきた家族であり、幽霊の幽霊でもある不思議な存在「ピイ」との出会いです。
屈辱だけでなく、誰かと寄り添う温かさもまた存在度を育む力になる。新しいスキルの獲得とともに、タリエルの孤独な世界が少しずつ変わり始めます。
タリエルの頭の上でお手てをパタパタさせるピィの姿に少しでも癒された方は、ぜひ下の【ブックマークに追加】や評価の【★】で二人を応援していただけると非常に励みになります!
明日の第6話「消えない後光 - ピイが後光になった日」も19時に更新いたします。よろしくお願いいたします。




