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第4章 - 最初の屈辱 - 食堂の洗礼



天界の食堂は、天界で一番明るい場所だ。理由は簡単。光輪が集まるからだ。


天使は食べる時に光輪を外してテーブルに置く。だからテーブルはホタルみたいに、ミニ太陽みたいに光輪でいっぱいになる。磨かれた雲の床に光が反射する。温かいアンブロシアの匂い。


トレイを取ろうとした。


給仕の天使、レベル22、薄いピンクの光輪が、スープのお玉で俺を止めた。


「あなたはトレイも持てない、スプーンも持てない。匂いだけ嗅いでいって。決まりなの」


「一回だけ、やらせて」


手を伸ばす。透明だ。固形の雲のトレイは、水みたいに指を突き抜けた。ガチャン。白いアンブロシアのスープが雲にこぼれる。音が食堂中に響いた。


全員が見た。


初めて、天界全体が俺を見た。透明でも視線は痛い。倉庫で光輪に噛まれた時より痛い。


「ごめん」声はほとんど出ない。0.08%の声は風みたいだ。


「いいよ。隅で匂いだけ嗅いでて。1%になったら戻ってきて。1%以下は匂いだけ。食堂の決まり」


隅に行く。知ってる隅だ。光が弱い、冷たいテーブル。半分突き抜けるベンチに座る。


匂いを嗅ぐ。


アンブロシアのスープ。桃、蜂蜜、そして少しの涙の匂い。アンブロシアは余った幸せな祈りからできているらしい。経験したことのない夏の匂い。レベル10の天使たちは笑いながらスープを飲み、光輪を嬉しそうに回す。俺は見るだけ。透明な腹が鳴る。大きい音。幽霊でも腹は減る。誰かと一緒に存在したい腹だ。


トレイが横を通る。天使は俺に気づかない。スープの湯気が俺の顔を突き抜ける。温かい。湯気だけ、少し味がした気がする。


ステータスが点滅する。


【存在度:0.08% -> 0.09% / +0.01% / 理由:軽度の公的屈辱】


屈辱は栄養だ。痛いけど存在を太らせる。天界のシステムはどうかしてる。屈辱を受けるほど存在する。


清掃係が隣に座る。レベル12、蝋燭の煤で汚れた小さな翼、潰れた光輪、パン一つと水だけのトレイ。食堂の後片付けをする天使だ。


「初めての屈辱は痛いよな。俺レベル5の時、翼が小さくて埃も立てられないって笑われた。3日間倉庫で泣いたよ。でも存在度0.5%上がった。屈辱は効率的だ。祈りより早い。祈りは300年かかる。恥は一瞬だ」


頷く。透明な涙が落ちる。誰も見ない。俺にもよく見えない、涙も透明だから。


でも【魂の残響 Lv1】が発動する。


小さな音。泣き声じゃない。濡れたものが雲に落ちる音。「ポッ」みたいな。俺だけが聞こえる。いや、清掃係が眉をひそめる。


「何か聞こえたか?」


誰も答えない。でも俺の泣き声は存在した。初めて、頭の中だけじゃない、世界に存在する泣き声になった。誰のものか分からなくても。


倉庫に戻る。長い道、雲を突き抜け、足が沈む。ポケットの鏡の破片を見る。弱く光っている。


一枚翼の俺。一枚だけ。でもトレイが持てる。スプーンが持てる。誰かと向かい合って一緒にスープが飲める。隅じゃない。テーブルで。


あれになりたい。たとえ一枚でも。


もう一度ステータスを見る。


【存在度:0.10% / 0.1%の壁突破 / ボーナス:輪郭+5%】


0.1%の壁を越えた。ステータスが少し光る。小さいけど俺には巨大だ。0から0.1%まで3日。1%まであと27日かもしれない。この調子なら30日で1%。いいよ、焦らない。消えない方法はもう分かった。


まだここにいる。今日は食堂の隅で匂いだけ嗅いで。でも0.10%存在しながら。


食堂は輝いている。でも隅に影が一つ。透明で誰も気づかない、でもスープの匂いを嗅いでいる影。0.10%の影。その影はいつか誰かとスープを飲むことを夢見る。翼が生えたらトレイを持てる。破片を握りしめる。


遠く、汚れた食堂の小窓から赤い鏡が光る。赤い空、溶岩。そこに誰か、赤い髪、少し怖いけど優しい笑い声、トレイを持っている?彼も隅にいるみたいだ。


手を振る。向こうも振り返した気がする。錯覚かもしれない。でも錯覚が存在度を上げるなら、それでいい。もう一日持ちこたえられるなら、それでいい。


まだここにいる。明日も匂いを嗅ぎに戻ってくる。いつかテーブルに座れる日まで。

第4話をお読みいただき、ありがとうございました。


大勢の天使たちが集まる食堂で、初めて「全体」からの視線と恥辱を浴びたタリエル。

しかし、その痛みが皮肉にも存在度を押し上げ、ついに0.1%の壁を突破してわずかな『輪郭』を手に入れました。

少しずつ、ですが確実に、彼はこの完璧すぎるシステムの中に爪痕を残し始めています。


ここからは毎日19時、タリエルが歩む一歩一歩をリアルタイムでお届けしてまいります。

もしタリエルと、彼の頭の上で眠るピィの旅をこれからも応援したいと思っていただけたら、下の【ブックマークに追加】や評価の【★】で存在度(ポイント)を分けていただけると非常に嬉しいです!


明日の第5話「ピィ - 初めて僕の元へ来たもの」も同じ時刻に更新いたします。よろしくお願いいたします。


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