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第25章 - 人事を怖がる領主

いつも応援ありがとうございます!白石ソラです。

魔界にも人事はいるんです…しかも最強。36.00%です。Xもやってます→ @Sora_no_TENKAI

何かがおかしい最初のサインは、ケイルが話の途中で止まったことだった。


俺たちは城の内部の廊下を歩いていた。彼が資料室の場所を教えてくれていた。天界の禁書図書館にどこか似ているが、内装がもっと暗いだけの場所だ。その時、彼の体全体が固まった。勤務時間についての文の途中で。目を見開いた。今まで見たことのない表情だった。感動の再会の時も、軍全体への紹介の時もなかった顔だ。


本物の恐怖だった。


「ケイル?」


「いないふりをしろ」彼は俺の腕を石の柱の後ろに引っ張りながら囁いた。今まで見たどんなものよりも不釣り合いな切迫感で。


「どうした?」


「リリス」


その名前は、呪いと祈りが同時に込められたように彼の口から出た。


「リリスって誰?」


「人事だ」


俺は彼を見た。もっと説明を待って。でも彼は柱の後ろから覗き続けるだけだった。溶岩の熱でも隠せないほど顔が青ざめている。


「ケイル、お前一万の悪魔を率いてるんだぞ。火山岩の玉座があって、わざと曲がった王冠被ってる。なんで人事の一人が怖いんだ?」


「魔界の人事は給料の文句を聞く部署じゃない」彼はまだ隠れながら囁いた。「領主が領主でい続けられるかを決める部署だ。リリスは誰もよく分かってない基準でそれを決める。しかも俺が今までやらかした行政上のミスを何十年分も全部覚えてる」


ちょうどその時、廊下の奥から声が響いた。柔らかく、丁寧で、穏やかな分だけ余計に怖い声が。


「ケイル。あの柱の後ろにいるのは分かってるわ」


ケイルは目を閉じた。逃げられるという最後の希望に別れを告げるように。そして柱の後ろから出てきた。見ていて痛くなるほど無理やりな笑顔で。


「リリス!なんて素晴らしいサプライズだ」


リリスは、今まで見た魔界の誰とも視覚的にかけ離れていた。俺が出会った全ての悪魔が火や角や鱗の分かりやすい要素を持っていたのに、彼女は完璧なグレーのタイトスーツを着て、繊細なチェーンに読書用眼鏡を下げ、遠目には天界の事務用バインダーとそっくりの、ただ表紙が金ではなく黒いだけのバインダーを持っていた。


「サプライズは要らないわ」彼女は言った。目は俺を素早く、そして完全に評価した。ラドゥエリエルがやるのと同じ種類の評価だが、彼女の場合にあった愛情の一切なしで。「三週間前に予約したわ。領主の四半期行動評価よ」


「もう四半期評価?先週やった気がするんだが」


「三ヶ月前よ、ケイル。時間は誰にとっても同じように流れるの。流れないふりをしてる人にとってもね」


彼女はバインダーを開いた。ページをめくる効率の良さに、一万の悪魔の領主であるケイルですら visibly 肩をすくめた。


「項目一」彼女は始めた。「行政時間中の公式玉座の不適切な昼寝使用。十四件記録」


「あれは戦略的熟考の――」


「項目二。『マイナー』カテゴリーのペットによる、警備員三名に対する『休息時間中の過剰騒音』を理由とする正式な訴訟の許可」


「彼女は個性が強くて――」


「項目三」リリスはバインダーから目を上げ、初めて完全に俺に焦点を当てた。「事前文書なし、リスク評価なしでの未承認の天界訪問者の受け入れ。そして警備記録によると、衛兵三名が『部隊にとって感情的に不安定にさせる』と表現した公的な愛情表現を伴う」


ケイルは赤くなった。彼の肌の元々の赤さが許す以上に赤くなった。


「あれは……技術的には誤解で――」


「文字通り三つの独立した情報源によって『玉座の間の床で天使を抱きしめて泣く領主』と記述されてるわ」


「分かった、それは起きた、でもコンテクストが――」


「コンテクストを聞きたいわ」リリスは、実際には許可を求めているのではなく、気に入ろうが入るまいが聞くのだということを絶対的に明らかにする声で言った。


ケイルは俺を見た。あまりにも必死な無言の助けを求める目で、緊張の瞬間にもかかわらず俺は笑いそうになった。


「タリエルは俺が人間だった時の親友だ」彼はやっと言った。声は少し緊張を失い、より誠実なものを帯びた。「一緒に死んで、選ぶことなくシステムに引き離されて、俺は彼がまだ俺を覚えているほど存在しているのか何年も分からなかった。昨日、そうだと分かったんだ。『部隊の感情を不安定にした』のは悪いと思うが、どうでもいいふりをするつもりはなかった」


リリスは長い間沈黙し、初めて現れてから初めて、表情の端が少し柔らかくなるような目で彼を見た。


「それは」彼女はやっと言った。ゆっくりとバインダーを閉じながら。「記録になかったわ」


「今はある」


彼女は素早く何かを書き込んだ。唇を結ぶ仕草が、良いサインなのか悪いサインなのか俺には分からない。


「評価を更新するわ」彼女は言った。「本物の感情的コンテクストは行政違反の重大性を軽減する。でもそれは結果がないって意味じゃないわ、ケイル。事前文書はやっぱり事前文書よ」


「分かってる」


「それと、玉座での昼寝はやっぱりダメ」


「それも分かった」


彼女は俺の方を向いた。読書用眼鏡を直し、初めて、ほとんど優しさに近いものが表情を横切った。


「あなたがタリエルね」


「そうだ」


「リリス。魔界の人事。この玉座が今の形になる前からやってるわ」彼女は手を差し伸べた。この城の他の全てと完全に不釣り合いなフォーマルな仕草で。「私の一番問題のある領主に、少し人間性を返してくれてありがとう。彼には必要だったの」


彼女の手を握った。丁寧な握手の裏に驚くほどの強さを感じて。


「彼も自分を律してくれる人が必要だったみたいだな」俺はケイルを横目で見ながら言った。ケイルは彼女の後ろで無言の顔芸をしていた。


「本当にね」リリスは、笑顔と呼べそうなもので同意した。「二人でこの再会した友情を続けるつもりなら、次回からは強く事前文書を勧めるわ。私の仕事がすごく楽になるし、都合よく、あなたたちの小さなケルベロスが調停しなきゃいけない訴訟の量も大幅に減るし」


そう言って、彼女は廊下の向こうへ歩いて行った。ヒールが石に正確なリズムを刻んで。ケイルを安堵のため息と共に残して。あまりにも大きなため息で、彼は壁をずり落ちて床に座り込むほどだった。


「あれは」彼は言った。「客観的に、この役職についてから戦ったどんな戦いよりも怖かった」


「有能そうだった」


「恐ろしいんだ。一度、自分のケルベロスの病欠届の更新を忘れただけで領主を降格させたことがある。階級が戻るまで百年かかった」





小さな上昇を感じた。静かで、ほとんど優しい。誰かが本当の自分でいる隣に存在すること自体が、どんな大きな戦いと同じくらい、微妙な形で価値があるかのように。馬鹿げた人事への恐怖を抱えたままでさえ。


肩で寝ていたピイは、このタイミングで起きることを選んだ。あくびをして、周りを見回した。完全に文脈を失ったが、とにかく幸せそうな顔で。


「凄いシーンを見逃したぞ」俺は彼に言った。


彼はただ光った。無関心に。また寝た。


第25章 終了 - 存在度36.00% - 領主の一番正直な恐怖

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