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第13章 - 天界には社会がある

いつも応援ありがとうございます!白石ソラです。

存在度1%超えたら存在税!?1.75%のタリエル、天界の行列に並ぶことに…でも書類課は30年探しても見つからないってマジ?w

嵐鳥に食われた継ぎ接ぎ天界と、灰色の見捨てられた区画…世界観が一気に広がる重要回です! Xもやってます→ @Sora_no_TENKAI

紙の音で目が覚めた。


一枚だけじゃない。何枚も。倉庫のどこかで、判子の山が押され続けていた。トン、トン、トン。勤務終了の目標がある者のリズムで。


ピイはまだ丸まって眠っていた。温かく、何も変なことなんて起きなかったという顔をして一日中眠る、あの眠り方で。


起き上がった。倉庫の扉まで行くと、外の廊下はもう行列になっていた。


本物の行列だった。天使が天使の後ろに並び、それぞれプランシェットか書類か、両方抱えていた。窓口では退屈そうな光輪が、目も上げずに判子を押し続けている。


「おはよう」

雲みたいなものを噛みながら現れたミカに言った。


「おはよう。存在税の行列だよ」


「存在税?」


「存在度1%以上の魂は、維持税を払うんだ。お金じゃない、ここにお金なんてないから。存在度そのもので。少しずつ、システムを動かすために」


「それって……存在することに課される魂の税金ってこと?」


行列の前のほうで、天使が窓口と揉めていた。両手を振り回し、光輪が怒りで点滅している。


「どういうことだ!?俺は三百年前に死んだんだぞ!」


「システムは遅延を許しません。お客様は存在度に対する三百年分の維持税を滞納しています。コミュニティ労働で相殺します。十年間、他人の光輪を磨いていただきます」


「十年間だと!?」


「期日内にお支払いいただければよかったのです」


天使は足を踏み鳴らしながら去っていった。もうどこにも現れない神様に、小声で悪態をつきながら。


その後ろから、光輪がまだ少し傾いた新人らしき天使の子が、同じ窓口に恐る恐る近づいた。四つ折りにした書類を持って。


「あの……請求に異議を申し立てたいのですが」


窓口の職員は目も上げなかった。


「受付番号は」


「番号は持っていません。誰も教えてくれなかったので」


「番号がなければ異議は受け付けられません」


「でも、番号が必要だなんて知りませんでした」


「それも書類が必要です。7-B番、『手続き不知』」


「その7-B番はどこでもらえるんですか」


「書類課で」


「書類課はどこにあるんですか」


職員は初めて、一瞬だけ目を上げた。日常の奥に隠れた本物の疲れを、ほんの少しだけ見せて。


「誰も知らないのよ、お嬢さん。書類課自体も、見つけてもらうための書類を書いている最中だから」


新人の子はその場に立ち尽くした。冗談なのか本当なのか分からないまま。たぶん、その答え方からして、両方だった。


ミカが隣で小声で言った。「大げさじゃないんだぜ、これ。書類課を三十年探し続けてる奴、実際に見たことある。あそこ、移動するって噂だ」


「課が、移動する?」


「それか、本当に見つかりたくない奴らが働いてるだけか。どっちの説にも支持者がいる」


行列を見つめていた。もう永遠に近い時間、そこに立っていそうな天使がいた。自分の運命をとっくに受け入れた顔で。


「俺も税金払うの?」

聞いてみた。


ミカは俺を上から下まで見た。


「お前は1.75%。まだ免税だよ。もうちょっと食べて、存在度の一部で払えるようになってから」


「よかった。進化する理由がまた一つ減った」


「そういう仕組みじゃないと思うけど、まあいいか」


廊下の流れに合わせて歩き出して、あの嵐の日からずっと気になっていたことを、ようやく聞いた。


「ミカ。なんで雲にこんなに穴があるんだ?天界って、もっと……完璧な楽園だと思ってた」


ミカは笑った。何度も聞かれた質問に、何度答えても飽きないという笑い方で。


「そのはずだったんだよ。最初の設計図じゃ、一枚布だった。継ぎ目のない、滑らかな雲が全部を覆う予定だった。紙の上では綺麗だった」


「それで、何があったんだ?」


「嵐鳥」


「……鳥?」


「嵐鳥。巨大で、灰色で、怒りっぽくて、固い雲をおやつと勘違いする奴。文字通り天界の食べ物で出来てる素材のすぐ隣に、そんな図体とそんな食欲の生き物を誰が作ったのか知らないけど、起きちまったことは起きちまった。だから完璧な床の代わりに、俺たちはこれを持ってる」


彼は廊下全体を指さした。近くで見ると頑丈そうなのに、よく見ると継ぎ接ぎの上に継ぎ接ぎ、傷跡の上に傷跡。雲の島々がくっつき合って、一つのものであるふりをしている群島だった。


「つまり天界全体が……これなのか。継ぎ接ぎだらけの島の集まり」


「天界全体が、継ぎ接ぎだらけの島の集まりに書類を乗っけたものだよ。永遠へようこそ」


歩き続けると、廊下は少しずつ静かになっていった。行列の天使たちが後ろに消えていき、やがて残ったのは俺たちの足音と、まだ塞がれていない古い穴を通り抜ける風の音だけだった。


「これ、全部でどれくらい広いんだ?」

終わりの見えない雲の地平線を見ながら聞いた。


「誰も正確には知らない。俺はここに二百年くらいいるけど、まだ時々新しい区画を見つける」

ミカは立ち止まって、光がやけに弱く、ほとんど灰色に見える遠くの一点を見た。「あの先には、光がほとんど届かない場所がある。見捨てられた区画。そこじゃ時間がもっとゆっくり流れるって言われてる」


「ゆっくりって、どんな風に?」


「なんていうか……日数を数えるのをやめちゃう魂がいるんだ。ほとんど全部に対してどうでもよくなる。ただ……座ってる。見てるだけ。しばらくすると、周りの景色と見分けがつかなくなっていくらしい。消えるわけじゃない。ただ……目立たなくなるだけ」


まだ新しいこの体で感じるはずのない寒気が、それでも背筋を走った。


「実際に見たことあるのか?近くで、って意味だけど」


ミカはしばらく黙ってから答えた。その沈黙自体が、もう答えだった。


「一度だけ。わざと間違った配達先に荷物を届けたことがある。自分の目で確かめたかったから、本当かどうか」

彼は腕を組んで、溶けかけた雲の水たまりに映る、歪んだ自分の顔を見つめた。「島の端に座ってる天使がいたよ。虚空を見つめて。俺が着いても顔を上げなかった。名前を三回呼んでも瞬きひとつしなかった。光輪はもう輝きが全然なくて、灰色の輪っかの影みたいなものだけが残ってた。肌も……もう周りの雲と同じ質感になりかけてた。ぼろぼろで、スカスカで」


「何か喋ったか?」


「一度だけ。すごく小さな声で、俺のほうを見もせずに。『もう、どれくらい経った?』それだけだった。俺にも答えようがなかったよ。あいつにとって、もう時間なんてどれくらい経ってもたぶん関係なかったから」


「それで、お前は帰ったんだな」


「帰った。急いで。臆病だって分かってる。でも……どうしろって言うんだよ。税金の行列まで引きずって連れ戻せばよかったのか?あいつは行列なんて望んでなかった。何も望んでなかった。ただ、止まりたかっただけだ」


「それは悲しいな」


「ああ。でも誰も見に行かない。存在してることを誰も覚えてない魂からは、取り立てる税金もないからな、誰も気にしない」

彼は凍った雲の小石を蹴った。小石は転がって、音もなく虚空に落ちていった。「実は俺も一度、あそこに送られかけたことがあるんだ。規模のミスでな。名簿の間違った欄に名前を書かれて。一週間まるまる怖がってたよ、壁になる想像をしながら」


「それで、どうなったんだ」


「ミスは訂正された。『悪い、別のミカと間違えた』って言われたよ」


「他にもミカがいるのか?」


「三百人のミカがいるんだよ。研修天使にありがちな名前なんだ。みんなが引く、ハズレくじの名前みたいなもん」


それはなぜか、思ったよりも胸に痛かった。三百人のミカがいて、それでも隣にいるこいつだけが、俺が本当に知っているただ一人だった。名前を、顔と、下手な冗談と、雲を噛む癖に結びつけられる唯一のミカ。


存在度が本当に意味するのは、もしかしたらこういうことなのかもしれない。システムの中で唯一であることじゃなく、誰かにとって唯一であること。


しばらく黙って、遠すぎてよく見えない灰色の地平線を見つめていた。


来た道を戻り、第7区の中心へ向かった。光がまた強くなり、位の高い天使たちが鏡のように磨かれた光輪で中央廊下を行き交う。皺一つないローブ、人生で一度も何かに追われて走ったことがないという歩き方。


その中の一人が近くを通った。下も横も見ず、まっすぐ進んでいく。三桁の存在度だけが買える、あの種の確信を持って。後ろには小さな従者の列がいて、巻物を抱え、雲の縁に触れるたびにローブの裾を直し、上司の冗談に大声で笑っていた。たぶんそんなに面白くもない冗談に。


一番若い従者が、ちゃんと塞がれていない穴の縁に軽くつまずいた。上司は振り返りもしなかった。ただ歩き続けた。部下のつまずきなんて、十分な存在度が身につけると聞こえなくなる、ただの背景音みたいに。


その廊下の奥、遥か遠くに、巨大なドームがそびえていた。他のどの建物よりも高く、丸く、白く、遠くからでも眩しいほどの光を放っていた。小さな雲がいくつも周りに浮かんでいて、まるで付き添うために呼ばれたみたいだった。


「あれは何だ?」

聞いた。


ミカは声を落とした。それ自体が妙だった。周りには俺たち二人と風しかいないのに。


「評議会議場。本当に大きな決定が下される場所。誰が上がるか、誰が下がるか、誰が何に変わるか。税金は書類だけど、法律はあの中で決まる」


「入ったことあるのか?」


「俺が?ない。区画の研修天使なんて、入口の敷居にすら近づけない。中じゃ時間の流れ方すら違うって言われてる。中での一時間の会議が、外では一世紀かかることもあるし、逆もある。誰も正確には知らない、外と中、両方同時に計った奴がいないから」


二人でしばらくドームを見つめていた。音ひとつしない。入口に行列もない。滞納税を叫ぶ天使もいない。ただそこに堂々と立って、誰が決められているかも知らない誰かの運命を決めていた。


「ぞっとするな」

言った。


「するな。でも、どこか妙な安心もある」

ミカは肩をすくめた。「あの中じゃ、誰かが全部をコントロールしてるつもりでいるわけだから」


俺たちは歩き続け、ドームを後にした。継ぎ接ぎだらけの天界の残り全体の中で、一人だけ輝きながら。


特に何もしなくても、俺は彼らの真ん中をすり抜けられることに気づいた。誰も見ない。誰も感じない。1.75%のバグである俺が、誰も存在すら知らない隙間を通って、天界の社会の歯車全体を横切っていく。ただ、誰もそんな大きさの隙間に気づくほど深く見ていないだけで。


自由というのとは少し違った。むしろ、時々役に立つ透明さだった。


「面白いと思うんだけどさ」

倉庫に戻りながらミカに言った。「ここの皆、やたら秩序を保とうとしてる。行列、書類、税金、磨いた光輪。でも床は文字通り穴だらけだ。土台全体が継ぎ接ぎだらけなのに」


「大きすぎる場所をちゃんとコントロールするって、そういうもんだよ」

ミカは肩をすくめて言った。「みんな、もうとっくに下でひび割れてるものの上で、全部うまくいってるふりをしてるだけさ」


倉庫に着いた。ピイはまだ眠っていて、今度はもっと小さく丸まって、静かに金色に光っていた。


隣に座った。ピイは身じろぎして、俺の気配を感じ、本当には目を覚まさないまま、もっとくっついてきた。生きた光輪にしかできないやり方で、俺の横を温めながら。


遠くの灰色の区画のことを考えた。どうでもよくなっていった魂たちのことを。周りの景色に似ていって、本当には消えないまま、景色の中に沈んでいった魂たちのことを。


俺にはあの行列のどれにも公式な居場所がなかった。税金も払わない、磨いた光輪もない、確信に満ちた歩き方もない。継ぎ接ぎだらけの床の上に築かれた、社会という歯車の隙間そのものだった。


でも、あの地図の灰色の底にいる魂たちと違って、俺はどうでもよくなっていなかった。


日数を数え続けていた。まだ新しい自分の顔の重さを感じ続けていた。隣にあるピイの温かさを。天界の忘れられた片隅の誰かが、もう一度だけ覚えていてほしいと願うたびに、胸で張るあの糸を。


遠くにいくつ灰色の区画があるんだろうと考えた。看板もない廊下の奥に隠れて、ただ手を挙げるのをやめてしまった魂たちの、それぞれの行列を抱えて。誰もそいつらから税金を取らない。誰も報告書に書かない。ただ……残っているだけだ。何年も誰にも気づかれなかった壁の染みが、やがて壁の一部になっていくみたいに。


俺も最初は、そういう染みの一つになりかけていた。0.01%、誰も呼ばない名前、顔もなく、消えたくないという馬鹿みたいな意地以外、何の理由もなく。


違いがあるとすれば、それはたぶん、誰も俺に「諦めていいんだ」とはっきり言わなかったことだ。運が良かったのか、馬鹿だったのか、俺は一度もそれを聞かなかった。


ミカが島の端で見たという天使のことを思い出した。「もう、どれくらい経った?」が、あいつにまだ形にできた最後の言葉だったのかもしれないということを。遠くで一人輝く白いドームのことを。自分の決定すら近くで見ることのない人々の運命を決めている、あのドームを。四つ折りの書類を持った、あの新人の天使のことを。見つかりたくないのかもしれない課を探している。


これだけの歯車。これだけの規則。それでもその真ん中で、誰も本当には足を止めて、島の端の天使に「一緒にいようか」と聞かなかった。誰も新人の天使に、間違える前にちゃんとルールを教えてやらなかった。


大きすぎる社会がいつも忘れてしまうのは、たぶんこれなんだろう。紙の上でどんなに綺麗な規則も、誰かが本当に気にかけることの代わりにはならないということ。ミカは島の端の天使を連れて帰ってはこなかったけど、何年も経った今も、1.75%の幽霊に向かってその話をするくらいには、あいつのことを覚えていた。それもまた、誰かを完全に消えさせないための、一つのやり方だった。


天界全体を直せるわけじゃない。税金すら払えない存在度で、継ぎ接ぎだらけのシステム全体を作り直すなんて無理だ。でも、俺は少なくとも、胸の糸が引っ張るときにちゃんと立ち止まって聞く幽霊で、居続けることはできる。


天界には社会があった。行列があった、税金があった、磨いた光輪の階級があった、振り返らない上司がいて、あちこちに三百人のミカが散らばって、それぞれ自分の滞納書類を抱えていた。


そしてその、書類だらけの巨大な継ぎ接ぎの歯車のどこかに、俺がいた。毎日毎日、選んで、存在し続けている。


意地でも。


第13章 終 - 存在度1.88%


【毎日2回更新中! 朝7:30 / 夜19:00】

お読みいただきありがとうございます!

1日2回のペースアップ連載、お楽しみいただけていますでしょうか?

タリエルの「存在確率」を巡る戦いは、ここからさらに奇妙な展開を見せていきます。


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