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剛造の孫だから(以下略

夏の下がりの縁側にて。

風鈴の雅な音を背景に、麦茶の氷がコロンとなる。


「ププププっ……義昭を、のぉ」


友とするのは瑞々しいスイカ。味塩を添えて。

しゃくりと食べれば優しい夏の甘みが口に広まる。


「プププププッ……らしいよ。はむっ」

「わうっ」


剛造と義昭の口元から綺麗な放物線を描き種が飛ぶ。

そんな息の合った男二人を尻目に、ティッシュに種を出しながら奏が書面を義昭に渡した。


「そう。で、これが書類です」

「うーん……え、文字こまかっ」

「じじいには優しくないのぉ」


流れのままに始まり、そして終わったお昼ご飯。

もうタイミングだ何だと言ってたら何も始まらないと悟った奏は、東野家の方々に「ちょっとお話がありまして……」と意を決して切り出した。


すると佳乃から、スイカ切れたから縁側で食べながら話してきたらと提案された。


そんな流れから後片付けをする佳乃をキッチンに残して、剛造と義昭、奏の三人プラス一匹で、こうしてスイカを食べながら本題を話していたのだが……。


あーこれは分かってない顔だぁ……。

奏にはそう手に取るように分かった。


「あーえっと。さっきも言いましたが、義昭くんを私たち魔法少女……魔獣対策室、特別執行員と同等の立場を用意するというものです。当然、見合った報酬と権限を付与いたします」

「権限って?」


首を傾げる義昭に、奏は指折り説明する。


「まずは、公共交通機関の利用無料」

「はぁ……」


この村には公共交通機関はバスしかない。足腰の悪い人と、都会に出るときに使うもの。

普段使いしない義昭などは無縁の話だ。

剛造はこの時点で早々に飽きたのか、すこし離れてスイカをすごい勢いで食べている。


「次に国の保証する身分証の発行。けっこう信用あるよ?」


剛造が離脱したからか、ラフな話し方になる奏。

しかし義昭からは微妙な反応しか返ってこない。


「ん~」


身分証と言われてもピンとこないのだ

お互いに顔で覚える田舎の繋がり。

ある意味どこも顔パスなので身分証を使ったことはない。

なんなら顔だけで名前や住所まで把握されている。

剛造なんかほぼ確実に顔パスだ。過去の黒歴史まで周知の事実である。


「……そして、学校の登校免除」

「学校かぁ……まあ、面倒ではあるけども」


ぼうっと青空を見上げて種を吹く義昭。

落下地点ではワンコが種を弾いて遊んでいる。


「学校、嫌い?」

「んー嫌いじゃないですよ。でも、単純に面倒。登校に毎朝一時間とかダルい」

「あの速度で一時間!?」


驚きのためか、隣で劇画調になり驚く奏をスルーして、義昭は自分の手に視線を落とした。


(まあ、今ならもう少し早く登校できると思うけどね)


一週間前に見た夢、もしくは現実。

もう一人の自分との喰らい合い。

それ以降、劇的に身体能力が向上しているのを義昭は自覚していた。

近所の人は剛造の孫だからと変な理解をしているが、義昭自身、人の枠から外れてきてやしないかと、すこし気にはなっている。


(怪我の治りも異様に早いし、これも喰った影響かね)


あれほどの魔獣を喰らったんだ。そのくらい影響はあるだろう。

そう思い義昭は気にすることを保留しているのだ。

何かあれば、その時はその時。そう無理に割り切って。

そんなことを考えていたからか、何気なく目をやった先で義昭は、庭で遊ぶワンコがどこか遠くを見つめているのに気が付いた。

その方向は東野家の狩り小屋がある方向。


「そっちに何かあるのか?」

「……ウゥ」


問いかけるも、ワンコは視線を逸らして、剛造の作る種のアーチと戯れに走っていってしまった。


「どうしたんだ?」

「さぁて、どうしたんでしょうねぇ」


そんなワンコの様子に首をひねっていると、いきなり目の前に奏の整った顔が迫ってきた。

じとっと、不機嫌ですと言わんばかりの表情で。


「さっきから説明続けてるんですけど。聞いてた?」

「……全然」

「はぁ……自分の事なんだから、ちゃんと聞いてほんと」

「んーでもピンと来なくて。権利やなんやと難しいし、興味もわかないし」

「なんで俺が? とは聞かないんだ」

「そりゃ、魔獣ぶっ飛ばしたからでしょ?」

「自覚はあるのね……」


呆れたとばかりに肩をすくめる奏は、そのまま縁側にあるつっかけを履いて庭に立ち、くるりと縁側に座る義昭に向かい合った。


「はっきり言うとね、私、弱いの」

「そんないきなりカミングアウトされても」

「黙って聞く」

「はい」


余計なこと言わないようにスイカへかじりつく義昭。


「スイカ……まあいいわ。で、私は補助とか後衛ばかりで単体戦闘力はその、他の魔法少女と比べて弱いわけ。で、誰かと組むのが多いんだけど、魔法少女以外の人だと命の危険が大きくて、気が進まないし危険度も一人の時と劇的に変わるって

わけじゃないの。だから同じ魔法少女と組むほうが安全なんだけど」


それじゃ、魔法少女が同時に対処できる場所は増えない。


「だから悩んでたのよ。一人で戦うか、どうしようかって。そんな時に現れたのが義昭くん、君だった」

「ふぁう?」

「返事は飲み込んでからでいいよ。君ならさ、しっかり前衛出来るかなって。そこはウチの上司も同じ意見みたいで、こうやって国から正式にオファーがくる感じになったの」

「……ングッ。ぷはぁ……そういう事か」


つまり、先日の戦いで義昭が魔獣と正面からやり合えるのが分かったから、奏のパートナーとして取り込みたいと、そういう事らしい。

そうすれば日本にいる魔法少女はそれぞれ独立して魔獣の対応に当たることができるという訳か。


「でもそうなると……ここを離れなきゃいけないわけか」


世情に疎い義昭でも知っている。魔法少女の活動域は全国に及び、ひと所で留まれるものではないと。

あぁ、だから登校免除か、と。義昭は変なところで納得した。


「ん……そう、なるね」

「そっかぁ……」


ぼうっと見上げる空には、高く高く二羽の鳥が舞っている。


「わり、ちょっと考えさせて」

「分かった。いいよ、ゆっくり考えて。私も怪我が治るまでは休職扱いだし。というか義昭くんも怪我凄かったよね? あんな走って大丈夫だったの?」

「ん? ああ肩の奴か。それならもう治ったよ」

「……今更だけど、ほんとに人間?」

「失礼な」


怒っては見せたが、正直義昭自身にも自分がどうとは確信が持てない。

自分の体が人よりすこーーーーーしばっかり頑丈なのは、義昭も自覚しているのだ。

まあ幸い、村の人は剛造の孫で納得しているので不審には思われないが。

いや、それもどうなんだ?


「そう考えると、ウチのじいちゃんって、何なんだろうな」


食後の運動とばかりに氷を纏ったワンコの突進を軽々避けている祖父を見て、義昭はそうぽつりと呟いた。




一方、佳乃が家の奥で。


「ひ孫の顔、やっぱり見たいわよね~」


などと不穏なことを言いながら、来客用の布団を取り出しているのに。

この時点では誰も気が付いていなかった。







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