表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/48

技を食らう覚悟の牙

「技がない……か」


くるくると双牙をもてあそび、オウム返しに返事をしてみる。


「そうダ、技がナイ。我とお前のサはそこだ」

「へぇ、じゃあ、お前は技があるんだ」

「当然」


ヒュン、と傍らの木を大鎌で切り刻む魔獣。

一瞬後には、その木は綺麗な丸太として地面へと転がった。

枝は払われ表皮は剥かれ、一本の綺麗な丸太材へ。


「我らハ、この世界ノ記憶にアクセスできる。一部だがな。そこから技も読みトレル」


つまりは世界に刻まれた技の一部再現。

歴史に存在する実際の技の体現という事。

なんとつまらない。


「なんだ、つまりは自分で習得したわけじゃない、猿真似ってわけだ。虫だけど」

「……ナニガ言いたい」

「わかるだろ?」


地面を爆発させるほどの踏み込み。

片腕とは思えない力で振り下ろされた右の牙。

受けた鎌が軋むほどの一撃。


「借り物の力おおいに結構! だがやっぱりロマンがないよ、お前」


夢の中で出会った”彼”も自分より技があった。

しかし、あの技はどっかの誰かの技ではない。

イノシシ時代の動きをブラッシュアップした、自身の戦闘経験に裏打ちされた技だった。

血の通った技だった。

だから夢の中ではアツくぶつかり合えたのだ。

対してこいつはどうだ。

その技に、いったいどれほどの血が通っている?


「この程度、ウケ流して!」

「どんどんやってみろ、ほらどうした」


流されたそばから切り返して叩きつけ、隙を付かれたら素手で迎撃し、フェイントを仕掛けてくればブラフごと叩き潰す。


「薄い、薄っぺらい、それが技か!!」


確かに義昭には技はない。

格闘の経験も、剣の心得もない。

だが、それがどうした。

義昭には技はない。しかし経験と覚悟がある。

狩人として獲物と命のやり取りをする覚悟。

命を奪う、それを頂く、自然で生きる、人が生きる、その本質を覗いた経験がある。

自分の力で、自然を相手にした経験と覚悟がある。


「クゾ、何故だ! ワレの技のほうが優れているハズ!!」


三本の大鎌が、ばらばらに、しかし絶妙に連携して切り込んでくる。

それを義昭はシンプルにより早く、剣を三振りすることでしのぐ。


「なぜダ!!」


なんの武の技も持たない義昭に、世界の記憶から取り出した技が通用しない。

魔獣の知識には、この事態は想定されていない。


「くそくそクソ!!」


ほんとうに、この相手は薄っぺらい。


「我のホウガ優れている! 異界のサルより余程、よほど! 我らが侵略を、支配を受け入れろ現地人。この地の無知なサルドモに、ワレガ後れを取るわけがない!」


何度も振るわれる大鎌の連撃。

しかしそれらは義昭をかすめるものの、真っすぐ当たることはない。

かすめた攻撃も奏の守りの前には傷を与えるに至らない。

通じない、攻撃が。

通じない、技が。

ただの直感と動体視力で避けている義昭に、届かない。

その現実がさらに魔獣の怒りをあおる。

角持ち三匹の中で、最も強力で、最も優れた知性をもって生まれた。

それゆえに、自分が後れを取るなんて許せない。

誰かに見下されるなんてユルセナイ。

なまじ生まれたときから強力な力を持っていただ故に、挫折を知らない精神性。

角を砕かれプライドを刺激された。

同胞を殺され怒りを抱いた。

それでもこう考えていた。

自分が本気でやれば、誰も及ばないと。


「クソクソクソが!!!」


それが蓋を開けてみたらどうだ。

甲虫の姿だと小回りも手数も足りないから、最適な姿を取った。

実際、それであのメスは手も足も出なかった。

自分には勝てない。そう確信した。

しかしこの人間が出てきてからは違った。

攻撃が通らない。

一発一発が痛い。

腕が切られた。

半分にまで減らされた。

本気で切っても生き延びている。

その人間は無事なのに、自分だけ追い詰められている。

認めない、認められない。


「我の大鎌を受けろニンゲン!!」


だから魔獣はこう考えた。

コイツは避けるのが上手いだけだと。

実は追い詰められているのは人間のほうなのだと。

それは一種の逃避だったのかもしれない。


「当たりさえスレバ、キサマは終わりだ!!」

「ほう、それで勝てるって?」


だからその人間が、いきなり抵抗をやめたときも、やっと諦めたか程度にしか思わなかった。

やっと身の程をわきまえたか。自らを知って命を差し出したか。

ならば、自分には及ばないものの必死に抵抗した「魔力無しの」人間への敬意として自分の鎌で仕留めてやろうと。

その大鎌を義昭の肩口へと振り下ろした。


「ハハハ、最後は潔かったナ!!」


森に一つ、血の花が咲く。

飛ぶ血液は地面を濡らし、魔獣の死力を失った左顔に紅の化粧を施した。


「義昭くん!」


離れた場所からそれを見守っていた奏の悲壮な声がする。

そうだ、人間はそうやって自分たちに恐怖し、震えているのが分相応なのだ。


「あやつも我を相手ニ頑張ッタ方ダ。敬意をモッテ殺し、喰らって」

「おい、これで終わりか?」


そうやって調子に乗っていたから気が付かなかったのだ。

自分の鎌が、抜けないことを。


「ナッ……」


肩口に食い込み、肉を裁ち……しかし骨を断つ前に万力のような左手に受け止められた鎌の一撃。

血は出ている、確実に大きなけがは負わせている。なのに。


「どうした、これで倒せるんじゃなかったのか?」


どうしてこの人間からの圧は、弱まるどころか強まっているんだ。


「だから言ってんだよ。お前はつまらない。薄っぺらだ。言っていることも、攻撃も」


鎌を掴む左手に力がこもる。動かない鎌に、ひびが走る。


「この前仕留めたイノシシ野郎。あいつには少なくとも覚悟があった。自分も喰われるリスクを当たり前に受け入れていた」


ビキビキと亀裂は広がり、鎌の一部が喰い千切られたように握りつぶされる。


「あれはお前の仲間か? だったら残念だ。お前には”彼”にあったものが、何もない」

「いったいなんだ、何の話をシテイル!!!」


刃の部分のほとんどを「喰い千切られた」鎌を引き、慌てて距離をとる魔獣。

しかし義昭は急いで追うこともせず、切れた左肩を眺めている。

肉を切られ、血が流れ、刃の破片も残る傷跡。

だが、その程度でしかない。


「お前が薄っぺらいって話だよ。だから避けなくてもこの程度しか切り裂けない」

「ナラバ次コソ!!!」

「次はねーんだよ」


右腕一本で振られた右の牙。

刃が食い破られた鎌腕が肩口から宙を舞う。


「お前に次はねぇ」


続いて振るわれる左の牙。鎌腕がまた一本、宙を舞った。


「次があっても俺は殺せねえ」


身をひるがえして逃げようとする魔獣。その熊の足を一本切り飛ばす。


「マテ、ヤメロ!」

「待たない、見逃さない」


振り下ろされる右の牙。

熊の胴を半ばから断ち切った。

響き渡る魔獣の絶叫、命乞い。

それらも義昭の耳には入らない。


「盗んだ借り物の力を声高に自慢した時点で、お前に覚悟がないことは分かった。この自然で生きていく覚悟がな。そんな動物にこの場で生きる資格はない」


覚悟なき現代の人間が、身一つで大自然に放置されたら、生き延びられず食われるように。

覚悟のないこの魔獣も、この自然には受け入れられない。


「お前が今までいた場所には居場所があったのかもな。でも、ここにはソレはない」

「マテ、コロスナ、マッテクレ!!」


片方しか残っていない鎌腕、前足分しか残っていない下半身。

立つことすらできず地面に転がる無様を晒してなお、口にするのは命乞い。

なんと、見苦しい。


「あの世に行くならあのイノシシに謝罪しろ。覚悟なき自分の無様さを。元の世界に戻るなら伝えろ、今この状況を」

「やめ……」

「覚悟なきものは、この世界で生きられると思うな」


まるで鋏のように、交差して振るわれる双牙。

それがかつての同胞が勝者たる義昭に託した力であると、宙に舞う生首は最後まで気が付くことはなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ