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このおっぱいで勇者は無理でしょ  作者: りむ


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#28 胸の使い方⑤

「あら、ギルドからの使者かしら?」


声をかけてきたのは、一人のシスターだった。

修道院の静謐な空気には不釣り合いな、しっとりとした暗く青いロングヘアが、陽光を弾いてわずかに揺れる。


「はい……“震生薬”を、お届けに……」

「そう、ご苦労様。デリケートな薬だから、無事で何よりだわ」


ふと目が合う。琥珀色の垂れ目が、射抜くような、それでいて甘く誘うような不思議な光を湛えてこちらを見つめていた。

年齢は、おそらく二十代の後半だろうか。若すぎる聖職者にはない、酸いも甘いも噛み分けたような余裕が、その立ち振る舞いから滲み出ている。


……うわ、この人、絶対強い(確信)。


ゆったりとした修道服の上からでもわかる、洗練された大人の色気。160センチそこそこの身長ながら、すらりと伸びた背筋と、衣服の布地を押し上げるような豊かな曲線は、男受けを狙ったわけではないはずなのに、見る側の理性を狂わせる。


シスター・シャリーは、どこか計算高い光を瞳に宿して私に問う。


「それで? 荷物はどこかしら。大きなカバンも持っていないようだけど」

「あ、えっと……その……」


(……出すの? ここで? この人の前で?)

(……ていうか、なんで私、あらかじめ抜いておかなかったの!?!?!?)


今さらすぎる後悔が、頭の中で絶叫になる。

人に渡す可能性なんて、少し考えれば分かったはずなのに。


(バカでしょ私!? ほんとにバカでしょ!?)


しかもよりによって、この人だ。

落ち着き払ってて、絶対いろいろ分かってるタイプの人に、わざわざ“そこから取り出す”ところを見せるとか。


(最悪のタイミングで最悪の判断してるんだけど!?)


胸の奥に意識が集中する。

さっきまで安全な収納場所だったそこが、急にとんでもなく“見せてはいけない場所”に変わる。


「……どうしたの?」

穏やかな声に促されて、肩がびくりと跳ねた。


「い、いえ……その……ちゃんと、出します……」


(落ち着け、私……これは仕事……仕事だから……)


自分に言い聞かせながら、私はおそるおそる、チュニックの襟元に手をかける。

指先が布をつまむだけで、心臓がうるさい。


(見られてる……絶対見られてる……!)


視線を上げられない。でも、見られている気配だけは、はっきり分かる。


「……っ」


意を決して、布を少しだけ引き下げる。

ひやりとした空気が、肌に触れた。


(うわ、無理……無理なんだけど……!)


私は視線を逸らしたまま、ぎこちない動きで胸元に手を差し入れ――

谷間の奥から、ぬるりとフラスコを引き抜いた。


「……っ、ふ……」

解放感と同時に、どうしようもない羞恥が一気に押し寄せる。


(最悪……絶対変な人だと思われた……)


顔が熱い。視線を上げられない。

それでも、差し出した手だけは、かろうじて仕事を全うしていた。


「……っ、ふぅ。……はい、これです」

解放感に吐息が漏れる。


差し出されたフラスコを見て、シャリーは一瞬だけ、表情を固めた。


「……あなた。……まさか、そこに?」

「ここが一番、安全なので……」

「……なるほど。その聖域こそ、最も揺るぎない台座というわけですね。神の恩寵とは、時にこれほどまでに実用的な形を成すものなのですか」


シャリーは受け取ったフラスコを光にかざし、そして……。


「……あら」

彼女はフラスコを握ったまま、ふふっと妖艶に笑った。


「ずいぶんと、生温かいわね。まるで、体温がそのまま移ったみたいに……熱い」

「――っ!!」


羞恥心が、一気に沸騰した。

そうだ。密着していた。私の心臓の鼓動を、直接ガラス越しに伝えていたのだ。


「中身は無事よ。お見事。……でも、次は私に相談して。もっと刺激的な使い方を教えてあげられるから」


そのまま彼女は私の隣に座り、自らの(それなりに立派な)胸元に手を当てた。

修道服の奥、私と同じように――いや、それ以上に“慣れた動作”で。


そして、フラスコを指先でなぞりながら、私の胸元を値踏みするように、そして慈しむように見つめた。

そこには、フラスコにより濡れて肌に吸い付いた布地があった。淡い色の生地が透けて、歪んだブラジャーの不格好な柄が、はっきりと浮き彫りになっている。


「これは《震生薬》ね。回復薬の基材になるもの。即効性を高めるために、あえて不安定な状態で保存されている……扱いを誤れば、毒にもなる」


淡々とした口調。

だが、その言葉の端々から、ただの知識ではない“実体験”が滲んでいた。


「回復薬、毒薬、媚薬……成分は似ているの。違いは、配合と量、そして“扱う人間の覚悟”だけ」


「例えば、これ」

指先が布越しに何か小さな硬質のものを押さえる。

形は見えない。でも、確かにそこに“瓶”があると分かった。


「護身用の毒。即死性じゃないけど、皮膚から吸収される。掴まれたら、相手の人生が数分で終わる」

さらりと言ってのけるその表情は、冗談でも脅しでもなかった。


(……胸に、毒薬……?)


私が爆発物を守るために胸を使ったのに対して、この人は生き延びるために最初からそこを選んでいる。


「……ふふ」

シャリーが小さく笑った、その声が妙に耳に残る。


「あなた、面白いわね。あれだけ大胆な運び方をしておいて……」

「え?」

「その身体、まだ、誰かに見せたり、触れられたりしたことはないみたいね」

「……っ!?」


図星だった。心臓が跳ね上がる。シャリーは私の顔を見ることすらなく、ただその肉体の佇まいだけで、私のすべてを見抜いていた。


「興味はある。でも、経験で裏打ちされていない。知識と想像だけが先に膨らんでる」

シャリーは、自分の胸元に軽く指を添えながら、淡々と続けた。


「……」

「あなたは、ずっと“外側”にいる。触れられる側の想像はしても、踏み込まれた後の現実を知らない」


断定だった。疑問でも、推測でもない。私は、何も言い返せなかった。

否定できない。肯定する勇気もない。

ただ、心の奥を正確に指でなぞられた感覚だけが残る。


「大丈夫。悪いことじゃないわ」

シャリーはそう言って、少しだけ声の温度を下げた。


「むしろ、今のあなたは、薬に例えるなら“未精製”。扱い次第で、回復にも、毒にも、媚薬にもなる」


その言葉を聞いた瞬間、背筋がぞくりとした。


この人は、知っている。身体も、心も、そして“その先”も。

その瞬間、私ははっきりと理解した。


(この人……私より、ずっと上だ……!)


報酬の金貨を受け取った私の手は、まだ少し震えていた。

無職脱出の第一歩。その代償は、あまりにも高い“女としての尊厳”へのダメージだった。

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