#25 胸の使い方②
ギルドの重厚な扉を押し開けると、そこは戦場のような騒がしさだった。
魔物急増の噂は本当らしく、掲示板の前には冒険者が群がり、怒号のようなやり取りが飛び交っている。
私はその少し後ろから、そっと掲示板を覗き込んだ。
(……うわ、物騒)
討伐。討伐。討伐。
魔物の名前と、危険度と、血なまぐさい注意書き。
(これは無理。完全に無理)
でも、掲示板に貼られた依頼は、討伐だけじゃなかった。
商隊護衛。旅人の同行。
(……護衛、多くない?)
文字を追っていくうちに、自然と理解する。
この街の外は、安全じゃない。
城壁の内側は平和でも、一歩外へ出れば魔物が徘徊している。
街から街へ移動するだけでも、護衛か戦闘力がなければ命が保証されない世界。
そして、目に入る報酬額が、どれも高い。
(……報酬が高いってことは)
依頼主が支払っている費用も、それだけ高額だということだ。
護衛を雇うにも、魔物を討伐してもらうにも、命の値段がそのまま金額になる。
(なるほど……だから)
王都で私専用の防具を特注するなんて、現実的じゃないんだ。
こんな世界で“安全を金で買う”のは、想像以上にコストが重い。
(私が勇者するためには……時間、距離だけじゃなくて、費用もかかるんだ)
魔物を倒す者と、魔物から守る者。
この街は、その両方で成り立っている。
……でも、これ全部、もし“勇者”が魔王を討伐したら、解決する問題なんだ。
魔物は減って、護衛はいらなくなって、街道は安全になる。
報酬も、依頼費用も、今みたいな異常な高騰は収まる。
そうなったら、王都で私専用の防具を特注することだって、きっと現実的になる。
でも、その時には、もう防具いらないじゃん。
……私には世界を変えることはできそうにない。
自然と戦闘系の依頼を視界の端に追いやり、比較的地味な依頼だけを拾っていく。
その中で、ひとつだけ、妙に目を引く紙があった。
《材料運搬依頼》
フレイン郊外農場→教会
取扱注意
報酬:金貨○○枚
(……ん?)
運搬。戦闘なし。
しかも距離は街の外れから教会まで。
一見すると、完全に初心者向けだ。
それなのに、報酬額が明らかにおかしい。
(……討伐依頼と同じくらいの金額、ない?)
思わず、紙に顔を近づける。
小さな文字で書かれた注意書きが目に入った。
《※内容物は軽い衝撃で破損・爆発の恐れあり》
……あ、なるほど。
(誰もやりたがらないやつだ)
簡単そうに見えて、失敗したら即アウト。
戦闘力はいらないけど、神経を使う。
しかも護衛をつける余裕もない。
(だから残ってるし、報酬も高い、と)
私は依頼書から視線を上げ、受付のほうを見た。
……いた。
よりにもよって。
私の視界に、最悪の、あるいは運命的な人物が飛び込んできた。
(……コリン!)
受付の列の先にいたのは、私の勇者除名の通知に立ち会っていたギルド職員、コリンだった。あの時、勇者登録却下の現場にいた、余計な一言製造機。




