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このおっぱいで勇者は無理でしょ  作者: りむ


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23/27

#23 欲求不満⑤

酒場へ向かう道は、昼間でも少し騒がしい。

人の声、木靴の音、どこかで金属がぶつかる音。露店の呼び込み。荷車を引く男の怒鳴り声。

それらが、絶え間なく耳に入ってくる。


でも、いま最も騒がしいのは、間違いなく私の脳内だった。


(……わからない)


自分のことなのに、答えが出ない。


まず第一の問題。私は、女の子が好きなのか?

自分の“好き”の向きが、わからなくなっている。


前世を振り返れば、オタ友の女子と一緒に推しの美少女キャラを囲んで「尊い……」「付き合いたい……」と呻いていた記憶はある。けれど、それはあくまで“趣味”の話で、現実とは別のものだと思っていた。


 仮説A1:単に3次元(現実)に興味がなかっただけ。

 仮説A2:実は男全般に興味がなかった。

 仮説A3:リリアとの至近距離と体温で、脳がバグっただけ。

 仮説A4:リリアの可愛らしさ、柔らかさ、いい匂いには、ガチ百合として抗えない(迫真)。


自分が男好きか女好きか確かめる方法なんて、今の私には分からない。

もし、ノエルが私に迫ってくれたなら、わかるはずなのに。


そして、それが第二の問題。なぜノエルは手を出してこないのか。

昨夜、あれほど隙だらけのセクシードレスで、同じベッドというチェックメイトに近い状況になったのに。


(私、もしかして女としてカウントされてないの……?)


そんなバカな。すれ違う男たちの視線は、それこそ刺さるほどに私の胸に集中している。

いや。視線は、肯定とは限らない。


ふと、前世の記憶がよぎる。


『あそこまで大きいと俺は無理だわ〜』

軽いノリで言われた陰口。それに、すぐ別の声が重なる。


『いや、俺は大歓迎だけど?』

『お前それただのおっぱい星人だろ』

笑いが起きる。


『俺もアリだけどさ、明らかに胸目当てだと思われるの、普通に恥ずかしくない?』

その一言で、空気が少しだけ落ち着いた。


(……ああ、そういう扱いなんだ)


冗談みたいな会話。誰も評価なんて求めていないのに。

でも、あれが“本音の平均値”だった気がする。


(じゃあ、ノエルはどう思ってるんだろう?)


 仮説B1:大きすぎて引いている

 仮説B2:それなりに好意的ではあるけど、胸目当てだと思われるのは恥ずかしい

 仮説B3:本当にただの聖人君子

 仮説B4:ルリちゃんガチ勢だけど、眩しすぎて近寄れない(少数説)


ぐるぐるする感情に、小さく息を吐いた。


(……もしかしたら)


勇者としてノエルから求められたにも関わらず、それに応えられていない私は、無意識にノエルを選ばないようにしているのかもしれない。

それを、ノエルから手を出されないと論点をすり替えて、別の方向に逃げてるだけなんじゃないか。

その結果、年下の女の子として可愛いってだけのリリアを、性的に見てしまっている。


(……ありそうで嫌だな、それ)


自分の中の“それっぽい理屈”に、納得しそうになる。



酒場の前で、私は足を止めた。

そして、脳内で展開していた会議を、そっと終わらせる。


看板の木が、風に揺れて軋む音。

昼間なのに、酒と汗と油の匂いが混ざった空気。


酒場の前で、私は一度、深く息を吸った。


ここに来た理由は、仕事探し。

建前は、ちゃんとある。


でも本当は、それだけじゃない。外に出るため。誰かと関わるため。

そして、仕事を見つけた私が、何を選ぶのかを知るためでもある。


覚悟を決めて、私は酒場の扉を押し開けた。

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