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このおっぱいで勇者は無理でしょ  作者: りむ


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22/27

#22 欲求不満④

無職の朝は、早い。肩が軽い。


目覚ましは、ない。出勤時間も、ない。

だが、やることはある。


「朝食だ」


地味で、誰にも評価されない仕事。

しかし、それを疎かにすれば、一日の流れは確実に崩れる。


無職・白川瑠璃(20)。

彼女は今、自らに課された役割と向き合っている。


布団を出る。迷いはない。

セクシードレスのまま、台所へ向かう。


家の中は静かだ。ノエルは、まだ眠っている。

この時間が勝負だ。


短い時間で、それっぽいものを仕上げる。

豪華さはいらない。

焼いたパン。簡単なスープ。昨日の残りを少し整えて、皿に盛る。


(随分と手際がいいですね?)


脳内のナレーションが、プロフェッショナル無職の私に質問を投げかける。


「ええ、この世界に来てから、一度見たものや口に入れたものは、自分でも再現できるようになりましたね」

「もちろん純白のドレスをケチャップの染みで汚すようなこともありませんよ」


ドヤ顔の無職。勇者のチートスキルのお陰である。

元々は満足な料理なんてしたことがない。


……ふと冷静になり、脳内プロフェッショナルごっこを終える。


(それにしても、こんなところで勇者のチートが役に立つとは……)


戦闘じゃなくて、家事。

ステータスの無駄遣いにもほどがある。


鍋を火から下ろし、食卓を整えたところで、背後から足音がした。


「おはようございます」


振り返ると、ノエルが立っていた。

寝起きの、少しだけ気の抜けた顔。


「おはよう。ちょうどできたよ」


そう言って、皿を並べる。

ノエルは一瞬、目を丸くした。


「もう朝食を!?」

「うん。簡単だけど」

「ありがとうございます」


その言い方が、相変わらず丁寧すぎて、少し笑ってしまう。


「そんなに改まらなくていいって」

「いえ、その……」


ノエルは言いかけて、ふと視線を横にずらした。


干してある洗濯物。

昨日洗った、ノエルのシャツ。


(……あ)


ブラジャー。


朝の光に照らされて、布がはっきり見える。

この世界では見慣れない形。紐と布と、立体的な構造。


ノエルは一瞬、視線を留めて――すぐに逸らした。


(……見たな)


少しだけ、胸がむずっとする。

でも、嫌な感じじゃない。


(まあ、この世界にない概念だし……。気になるよね?)


谷間とか出し続けてるし、今さら隠すほどのものでもない……はず。

一緒のベッドで寝ても、何も起きない健全な関係だからね!


そうやって納得するふりをしながら、胸の奥が少しだけざわつく。

理由は、よく分からない。


「……その……」

ノエルが、少し遠慮がちに口を開く。


「洗濯も、してくださったのですね」

「うん。ついでだから」

「ルリ様ばかりに、やらせてしまって……」

「大丈夫だって」


私は、スープを器に注ぎながら答える。


「ノエルは仕事で外に出てるし」

「私は……無職だし」


言った瞬間、ノエルの動きが止まった。


「……む、無職」

なぜか、深刻そうな顔をする。


「い、いえ……その、家のことは、私もやりますよ?」

本気で言っているのが分かるから、余計に可笑しい。


「いやいや」

「ノエルが家事までやったら、私ほんとに何もしなくなるから」

「それは……」


ノエルは少し考えてから、困ったように眉を下げた。

「確かに」


(納得するんだ……)


朝食を並べ、向かい合って座る。

短い時間だけど、ちゃんと“朝”をしている感じ。


食べ終わると、ノエルは身支度を整え始めた。

鎧はまだ着けない。軽装で、槍だけを確認する。


「では、行ってきます」


玄関まで見送る。


「いってらっしゃい」

「気をつけてね」


ノエルは少しだけ立ち止まって、振り返った。


「ありがとうございました」

「朝食も、その色々と……」

「どういたしまして」


自然に、そう返す。扉が閉まり、足音が遠ざかる。


静かになった部屋。

私は、ひとりで食器を洗いつつ、ふうっと息を吐いた。


(私、新婚かよ!)


思わず、心の中でツッコミを入れる。

誰に言うでもなく。


(……勝手に、ドキドキしてるし……)


何も起きてない。触れてもいない。ただ、朝ごはんを作って、見送っただけ。

それも、無職としての引け目から。


なのに、胸の奥が、少しだけ騒がしい。

それに、欲求不満も解消できていない。


浴室に向かうと、扉を閉めた瞬間、胸の奥がふっと緩んだ。

張りつめていた糸が切れたみたいに、安堵と一緒に、抑えていた何かが弾ける。


ドレスを床に落とす。

支えを失った胸が、重みを取り戻す。


(……はあ……)


湯気もまだない浴室で、私は一度、深く息を吐いた。

静かだ。誰もいない。


ベッドの上で、胸を求められている自分の姿を、ほんの一瞬だけ想像する。

熱が、腹の奥に集まる感覚。


……その瞬間だった。

よりにもよって、脳裏に浮かんだのは、リリアの顔。


胸に触れた後の、恥ずかしそうな表情。

「私が、その重さを全部、受けとめてあげるから」と言った声。


(えっ!? なんでここでリリアが!?)


一気に、熱が引く。

身体だけ前のめりになって、頭が完全に置いていかれる。


(……違うでしょ……)


私は小さく息を吐いて、洗面台に手をついた。

自分でも分かるくらい、呆れた顔をしている。


(発散しようとして、思い浮かべるのがリリアって……)


それはもう、そういうことじゃないか。


私は何事もなかったふりをして、ブラジャーとチュニックを手に取る。

袖を通し、布に包まれると、さっきまでの衝動が嘘みたいに遠のいた。


(……リリアにブラジャーの代金を支払うためにも、収入源を見つけないと……)


そう自分に言い聞かせて、浴室を後にする。

発散できてないのに、賢者タイムになってしまった。


(……仕事探しのついでに教会にも行こうかな)

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