95.襲撃の犯人
〜前回のあらすじ〜
ウェツギに観光に行ったら、アーヴェキニスアに訪れる予定の国王が襲撃に遭いました。その犯人は、アミの知人だった。
「なんで先輩たちが……?」
私は問いかける。だが、逃げられた。
彼らが向かうのは、スイウのところ。
混乱の最中、剣を持って走っていった。
「あ、危ない!」
追いかけようとしたところで、ふと立ち止まる。
ここで殺されれば後味が悪い。
……何がだろう。
スイウを助ける意味はあるのか。
私は、スイウに会わなければ、今に至ることはなかった。それが意味することは何か。
もし彼に会っていなかったのならば、私はきっと。
きっと、あそこの孤児院で、職員に文句は言いながらも、ラゼイと一緒に暮らしてたのかな。
そして、職員になってたりして……文句を言われる立場になってたのかも。それもそれで、友達となら悪くなかったんじゃないかな。
でも、彼に会っていなかったら、私はシンにも、リゼにも、そしてタウにも会えなかっただろう。
……たしかに、出会いを私は彼からもらった。
だからといって、これからの彼の未来を助けようと思うことにはつながらない……?
私は、追いかける足を止めた。
もうすでに、ウリイもミコリアも、スイウの前に着こうとしている。ミコリアは周囲の足止めのために闇の魔法陣を描き、ウリイは剣をスイウに振ろうとしている。
その間わずか3秒。止められる人は、私以外にいなかったと思われる。
思われていた。
『〈闇縛〉』
タウの声が聞こえた、その瞬間に、ウリイとミコリアは黒いモヤモヤとしたものに捕らわれた。身動きは取れなくなっている。
シンは驚いたように剣をしまってから、魔法陣を消しに走る。
周囲の人々は、何が起こったのかわからずに逃げ出した。
『タウ、なんで!』
私は見捨てたというのに、彼は見捨てなかった。
人殺しすら厭わないであろう、彼が。
『俺には、王との密約がある。それだけだ』
みつ、やく……?
疑問に思い、いくら聞いても、彼が答えてくれることはなかった。
「アミ、よくやったよ!まあ、僕も止められたけど」
魔法陣を消し終わったシンは、私のところにやってきた。この時、スイウはすでにアーヴェキニスアに向かって歩き出していた。
「いやぁ、驚きましたね」とか言いながら。この国の王様は腰を抜かしていたが。
「シン、私は……」
言ったほうが良いのだろうか。
今回、私は王を見捨てようとした。
……必要ないか。
「なんでもない。それよりさ、観光の続きに行こうよ」
私はシンを動くように促すが、彼はウリイたちの方向へと歩いていく。
闇による呪縛は、解けていない。
「ねぇ、なんで君たちは強襲を?」
シンは、転がされている彼らに問う。
「……言わない」
ミコリアが、答えた。
すると、シンの周りの空気が一気に重くなる。
殺気、だろうか。魔力を使った威圧だ。
「「っ……!!」」
ウリイとミコリアは固まった。
その顔には怯えすら浮かんでいる。
「いい?君たちは反逆者。僕に捕まった以上、抗う余地はないよ。さぁ、答えて」
先に諦めたのは、ウリイだった。
「……国王は、魔王様との密約を…守らなかった。だから強襲しようと…」
また出た。密約。
タウは教えてくれなかったが、この人たちなら教えてくれるだろうか。
「密約って何なんですか?」
私が口を挟むと思っていなかったのか、少しばかりウリイは驚いた顔をしてから、答えようとする。
「みつや……っ!」
その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
闇の縛りはさらに力を増し、シンはウリイの首筋に剣を当てた。
「言う事は許さない。…まあ、僕も内容は知らないけど。でも、ろくでもないものだ、ということだけは知っている。だから、言うな」
ウリイは顔面蒼白で頷く。
「わかったならいいや。ま、処分は王にお任せしよう。呪いを使って精神干渉、そこから情報を引き出すもよし、殺すならそれでもいいし」
精神干渉って、後遺症が大きいからあまり使われないはずでは…?しかも、殺すって……。
私は焦って止めに入る。
「シン、一応この人たちは、私の先輩で……だから、ちょっとだけ、慈悲をさ…」
すでに人殺しの私が言うことではないだろうか。
ないだろうな。でも、それを決めるのは誰かであって、私には関係ない。私は、彼らと楽しいひとときを過ごした。それが事実だ。
「アミ、それは甘いよ。……ただ、多少ならいいかな。どうせ、こいつらは捨て駒だろうし。本当の目的は知らないけど、裏に誰かいる気がする。密約を知っているのは一握りだからね」
その後、まぁいろいろあり、なんとか情報を聞き出した。私の知っている名前が出てきた、その情報を。




