60.ドラゴン討伐1
目を開くと、一面が木。きちんと森の中だ。
「現在地は…ここっぽいな。よし、成功」
「成功でいいんだね!?」
「ああ、いいと思うよ」
シンのお墨付きをもらえた。よかった。
「で、この場所にいるのはもちろんドラゴンなんですよね…?」
「そうだけど、ドラゴンといっても弱いタイプかなぁってところ。きっと大丈夫だよ」
私の質問には、リゼが答えてくれた。
そしてその後にシンも情報を付け足した。
「ドラゴンの中でも、魔法は使えるけどこれを魔法と呼ぶのは魔法に失礼だよね、ってレベルだと思うよ。ほら、魔力の反応が弱い」
それってどれくらいなんだろう。よくわからないが、この人たちは基準が狂っていそうだから、怖い。
私は、シンについて歩いていった。向かう先は、明らかに魔物の数が少ない、そこだ。
魔力の濃度というか、そのようなものでわかる、とシンは言っていた。ドラゴン一体よりも弱い魔物40体のほうが魔力の総量は多いはずだから、ドラゴンがいるところの魔力の濃度は下がるのだ。
まあ、強いやつは例外だけどね、と追加でシンに言われた。
最初の私は、どうやって探すのかも知らなかった。
魔法はまだまだわからないことがたくさんある。
「ここだ」
ここの木のさらに奥に、ドラゴンがいるらしい。
ふたりは向かおうとするが、私には勇気がない。
「えぇ…心の準備が…」
でも、ひとり取り残されるのも怖いため、ついていくしかなかった。
2分後。近くまで歩いていくと、
「わぁ、いるね…」
はい。ドラゴンいます。
圧もそこまでないし、甘党先生よりは倒せそうな雰囲気を感じるが、それでもドラゴンだ。大きい。
「うーん、今回は様子見も兼ねて私がいくよ。サポートお願い」
リゼが勇敢にも立ち向かってくれるようだ。
黄色の巨体、ドラゴンに向かうは、金髪ヒト。なんか最終局面みたいだけど、これが今日は9回あるらしい。
「よし、最初は…」
エフェクトの色からして毒魔法だろうか。
毒は甘党先生に効いたっけ……と思った瞬間だった。
ドラゴンがひれ伏せた。
…言い方が悪いかな。ドラゴンが倒れたのだ。
つまりは、
「勝ってる…」
ということだ。
思わず呆然としてしまうことも仕方がないだろう。
いや、10秒経ってないからね!?
「まあ、毒の解析に回復。そんなことがこいつにできるわけないよねって話。弱めの毒だったのになぁ」
毒魔法の解除。言うは易しだが、実行するのは難しい。付与された毒の成分を解析して、それの逆の成分である毒を作る。そうすれば回復だ。
「よし、これで一体。次行こー」
リゼの掛け声で、私たちは手をつなぎ、転移した。
次の場所は、街のすぐ横だった。
森と街の中間地点だ。
「この森の中かな。アミが今回倒す?」
こういうのは真ん中が一番いい。なんとなく。
「やる!」
3分ほど歩いて見つかったのは、薄黄色のドラゴン。これもさっきとそんなに気配が変わらない。ということはそこまで強くないだろう。
「ちゃちゃっと終わらせますか〜」
とりあえず氷魔法で氷柱を作り、5本ほど落とす。
これだけでいけるかと思ったが、されどドラゴン。
まだ生きているようだ。
私はクナイを作り出し、木にさして足場とする。そして、ドラゴンに向かって飛んだ。
「いけっ」
クナイに火魔法と風魔法を付与し、ドラゴンの首元を狙って飛ばした。そうすれば通った。
ドラゴンは光となって消えていく。
私たちは転移の準備を始める。
「やっぱ時間かかっちゃうな〜」
ここは反省しないと。
「これから頑張っていこう!」
次の場所に転移する。
海。海だった。目を開けたら、海が広がっていた。
波の音がまさに海だ。入りたくない、絶対に寒い。
奇跡的に岩の上に乗れてよかった。
「じゃあ次は僕がいくよ」
シンは身体強化をして、岩から岩へ飛び移りながらドラゴンの元へ向かった。
身体強化。魔力を体に纏わせて、強化する。攻撃力の上昇や、防御力の上昇。また脚力なども増加させられるし、回復も少し早くなる。
…こんなに知識あるのは、実はタウのおかげだったりする。魔法学院では身体強化について聞かなかった。
「あー、シン行ったね。で…あれなんだろ。火…っぽいなぁ。あ、ドラゴンごと高火力で燃やしてるのか。紫のドラゴンだし、いいね、その作戦。鱗が溶ける温度まで上げてる」
リゼが解説を始めた。私は質問をしていこう。
「それって何度なの?」
「5000℃」
あ、なかなかやばい。
普段より圧倒的に高火力だ。私はいつもなんとなくものすごく魔力を注いでいたが、結界が必須だった理由がよくわかった。人間に耐えられる温度ではない。
というか、炎魔法にかかるレベルだと思う。
そんな魔法を知っているシンはやはり強いのか。
「シンってそんなに戦えたんだ」
「なんでも器用にできるタイプだから」
強すぎだろ。1番嬉しいやつじゃん。
「倒したよ〜」
そんな話をしていたらすぐに帰ってきた。
「早かったね。次行こ!」
スピード感重視なのか、というくらい素早く、リゼ→私→シンの順でもう一周してきた。いろんなところを回ったのかもしれないけれど、ほぼ歩いて移動をしていないから感覚がない。
「じゃあ次は…ここだね」
「はいはーい」
いつも悲惨なことは、油断した頃にやってくる。
ちょっとだけ、油断していた。
だから、事件は起きた。




