105.事後処理
〜前回のあらすじ〜
タウと戦って死にかけのイッシュ。ちなみにタウはトボトボと帰っていきました。そんな中、イッシュはどう動くのか。
残ったのは、私とイッシュとシンだけだ。
「シン、私の回復ってできる?」
イッシュは血を吐きながら話している。
もう話さないほうがいいんじゃないか。そんな制止は聞かなかったことにされてしまった。
「……ごめん。僕も魔力残ってなくて。ほんと、ごめん」
無力。それが最も表すのにふさわしい言葉だろうか。
「回復薬とか…」
私の辛うじての提案も、意味をなさないことを知っている。
「使い切っちゃった。ギルドに買いに行く間に死ぬと思う」
やっぱり。
「やだよ…まだ一緒にいたいよ…」
私の、心の底からの言葉だった。
「ごめんね…ほんとごめんね…」
贖罪、悲しみ、いろいろ、混ざっているシンの言葉だ。
「大丈夫。選んだのは私だよ?」
イッシュは明るい。明るく見える。
でも、さすがに私でもわかる。
これはから元気だ。
「私に、ひとつ、案が……あるんだ」
一瞬、苦しそうにした。
まだ10代。されど10代。
そんなイッシュに何ができるのか。
「リゼ、私が生きるために巻き込んでもいい?」
急に、呼ばれた。
そりゃあ
「もちろん。師匠が生きられるなら、代わりに死んでもいい」
覚悟はある。
「ははっ……そんなことないよ。でも、契約をしよう」
イッシュが告げたのは、一生の鎖だった。
「スキル情報解析、これを、私たちの間でしか譲渡できないようにする。死んだときに、もう一人に渡るような状態ね。これがマイナス。だって、情報が増えないんだもん。そして、私は今死ぬ。それもマイナス」
ぎりぎりの寿命をさらに短くするらしい。
というか、スキルをずっと持っていられるだけプラスなのでは……?いや、そんなことないな。
私は知っている。スキルは、持っているだけでも魔力を少しずつ吸っている。スキルという後付のモノを体内に取り込んでいるんだ。魔力が必要だ。
ならば、マイナスと見ることもできる……かも?
「私たちは、25歳までしか生きられない契約を結ぶ。そして、ふたり同時に死んだら終わり。これで、マイナスは終わり」
なかなかに、多い。
よほどの契約内容なのだろうか。
「転生、できるようにする。お互いの元に。魂に自分の情報すべてを刻んで、それを転生できるようにするんだ。死んでも、何回でも。こうすれば、また会える」
なるほど。
実質、無限に生きられるのだ。
ただ、一回でも失敗したら終わりなだけだ。
「あ、まだ条件が足りない。……お互いを、お互いで殺すことでしか転生は成り立たない。これでいこう」
イッシュは、とても残酷なことを言った。
私に師匠を殺せというのか。
「そんなのっ…!!」
「リゼ、私と二度と会えないのと、今も未来も、私を殺すこと。どっちがいいの」
そんなこと言われたって…。
「失敗するかも…」
「でも、やらなくても私はすぐに死ぬ。だからさ、殺して」
イッシュは儚い笑顔で言った。
「うっ……」
いやだ。でも、会えないのはもっと嫌だ。
殺すしか…ない。
「いやだよぉ…」
視界が、水…いや、涙に覆われる。
それでも、やらないと。
「……いきます」
私は震える手で剣握る。
「ありがとう。これで」
「ずっと一緒だよ」
切ない、笑顔だった。
ただただ、ひと思いに殺すことしか、私にはできなかった。
イッシュにもらった剣で、イッシュを殺すことしか。
「リゼ……」
シンが、なにか言いたげだ。
「しばらく、家事手伝ってもらってもいい?」
私には、時間が必要だった。
心の傷を、埋めるための時間が。
「そうだね。僕も、ひとりだと狂っちゃいそうだ」




