103.買い出し
〜前回のあらすじ〜
タウとの戦いから逃れて魔物討伐をしていたイッシュ。
魔王と呼ばれるほどのことをしたタウは、今どうしているのだろうか。
生きていてよかった、そう言われた次の日。
私たちは普通に街を歩いていた。
買い出しのためだ。
「まずは食料品でしょ、あとは武器も新調したいし」
イッシュは、歩きながら予定を立てている。
私はその横をちょこちょことついていっていた。
その時だった。
「よぉ、久しぶりだなぁ。イッシュ」
前に現れたのは、タウだ、魔王だ。
ちなみに、タウが歩いてきたであろう道は、きれいに切り開かれていた。人がこんなにいるのに。きっと、そういうことだ。なんらかの方法で、殺して…。
「久しぶりだね。なんで必要ない殺しを?」
イッシュは、タウが歩いてきた道を見て、言う。
「大丈夫だ。殺してはいない…たぶん。上昇気流を発生させて、遠くまで飛ばしただけだ…あっちから仕掛けてきたし」
呆れるように言う。
「そっか。それで、用は?」
まさか、だけど。イッシュに用がある、とかではないだろうか。そんなことはないと信じたい。
私の心臓は音を立てる。思い出すのは、師匠の敗北を知った、あの日の光景。
「買い出しと…お前だ」
嫌な予感がする。私のその予感は、当たっていた。
「タウは何を買いに?」
私たちは一緒に街を歩き、店を回っていく。
…お尋ね者の魔王と何をしてるんだか。
「パンと野菜。あと肉もだな」
「なにもないね」
つい私は言っていた。だって、本当に何もないんだもん。まさかそこまで食料が尽きることがあるなんて。
「引っ越したてだからな」
わ。初耳。それはものがないだろう。少し納得する。
「いつ?」
「一週間前」
めっちゃ最近。
もしかしたら、不法な城を建てたってことも指名手配のうちだったのかも。城は王にしか建てる権利がない、とかそんなのもあるのかもしれない。
というか、さっきからイッシュの生暖かい視線が気になる。
「イッシュ、何?」
タウも、不快そうな表情を隠しもしない。
「いやぁ、君たちが同年代みたいで可愛いなぁって…」
直後。タウから殺気が発せられる。
イッシュのとは、レベルが違う。
私は文字通り、背筋が凍った気がした。
心臓が鷲掴みにされるかのような、そんな殺気。
「殺すぞ?」
辺りの人は、こぞってどいていった。
ちなみに、私は一歩も動けない。
イッシュもだ。
「……まあ、後で、だな」
意味深な言葉を吐いて、その場は収まった。
いろいろな買い出しも終わり、帰ろうとしたところだった。タウは雰囲気を変えた。
「本題だ。用はお前だ、と言っただろう?」
ついに、来てしまった。イッシュは、私をかばうようにタウの前に立った。
「何?なんかあった?」
「とぼけるな。昨日のあれはなんだ?イッシュのようだったが、なにか違う」
式神のこと、勘だったのか。それで殺されたって、なかなかに短絡的ではないだろうか。
「まあね。戦いたくなかったから」
「そんなのっ…!……まあ、そうなるか」
一瞬声を荒らげた。
「俺はお前と戦いたかったな…」
そう言って、刀を抜く。
師匠が危ない!
私はそう思って、さっと剣を振り抜く。
そして、刀を押さえた…と思ったのだが。
違う。私が押さえたんじゃない。
私の剣は折られていた。イッシュの剣によって、私は守られていた。
「お前から仕掛けてくるとは」
呆然としているとタウから発せられた言葉は、これだった。え、タウが仕掛けたのでは……?
そう思いながらイッシュを見ると、魔導具を用意している。
「だって、今がチャンスじゃん。野放しにしたら、きっと後に……」
「そうか。仕留め損なった、それの意味はわかっているな?」
「もちろん。リゼ、半径5m以内に人が近寄れないよう規制を。あと応援をお願い」
イッシュは魔法をすぐに用意し始めた。
私は思考が追いついたと同時に声を張り上げる。
「ここで乱闘が始まります。半径5mは離れて」
そう言うと、まわりから人が消える。
ある者は帰り、ある者は見物する。
そうやって円形の闘技場ができた。
「死なないよう私が援護しますが、自衛を頼みます」
主にタウの知名度のおかげだろうか。
わかりやすく人がいなくなった。
これで、イッシュの懸念は減っただろうか。




