102.魔王討伐の代わりに魔物討伐
〜前回のあらすじ〜
タウが指名手配されたため、イッシュはタウの討伐に行かなければならなくなったが、イッシュからスキルを得たリゼは式神を代わりに出すことを提案した。
明日になった。
今日は、イッシュが本来死ぬ気でいた日。
でも、私がそれを変えた日。
「イッシュ!ここが森だよ!」
討伐に行く人に会わないよう、朝早くに出た。式神はすでに準備している。私たちは、森にやってきた。
「わかってるって。いいじゃん。最高記録、出しちゃおう」
デイリーの、取引額のことだ。つい最近記録が更新されて、注目されたばかりだったから、やりたいと思ったのだろう。師匠がそう言うのならば私はそれに従おう。とにかく、稼ぐぞ!
ひたすら魔物を倒した、昼頃。
「お腹すいたね〜。ご飯持ってきた?」
イッシュに聞かれる。
「もちろん!はい、これ」
サンドウィッチだ。かごの中にたくさん入っている。
「ありがとー。準備万端だね〜」
「でしょー……あっ」
私は、スキルが反応したことに気がついた。
「どうかしたの?」
イッシュが笑顔で振り返ってくる。
でも、それどころじゃない。
「式神が…帰ってきた」
「うん。そっか。わかってた」
仕方のないことだ。
でも、悲しいものは悲しい。
「ご飯食べよ?ほら、美味しそうじゃん」
イッシュに励まされ、私は気を取り戻した。
よし、考えても仕方がない。式神に、痛覚はない。
私はサンドウィッチを手に取り、食べだした。
午後。もう、帰る時間だ。
とても魔物を倒した気がする。最高記録、自信がある。楽しみだ。
「はー、楽しかった。あ、私の扱いってどうする?」
イッシュに言われて気がつく。そういえば、タウの討伐にはイッシュが行ったことになっているんだ。
「元からの作戦ってことで行こう。冒険者だって、有志の集まり。イッシュだけでしょ?強制だったの」
イッシュだけが生き残ったと迫害される心配はないと思う。きっと。
「買い取り額、楽しみだね」
ギルドに帰ってきた。
カランコロンと、ベルが音を鳴らす。
「いらっしゃいま…あ、リゼさん…」
職員の人が、悲しい顔をする。
「残念ながら、イッシュさんは…」
「私がどうかした?」
イッシュが、ギルドに入ってくる。
「えっ…えっ……どういうこと!?真っ先にあの魔王にやられたって…」
「あれは作戦。私がそんな簡単に死ぬわけないでしょ?というか魔王って。あいつ、すげぇな」
「あはは…話、聞きます?」
職員の人は、考えることをやめたようだ。
まあそういうものだろうと腑に落ちたようでよかった。だが、その話は後がいい。
「それより、買い取りして!たくさん狩ったの!」
「わぁ…合計金貨138枚です…」
職員は別の意味で唖然としていた。
よし。これで…。
「最高額を大幅に越しましたね……」
とにかくたくさん狩ったからね。計算していなかったから、大幅更新でも違和感はない。
質より量という作戦は強い。
「よし、目標達成。じゃあ、もう、いいね。話を聞こう」
私は頷いた。満足する結果だし、文句はない。
「私も、後から聞いた情報ですので、正確ではないかもしれませんが…」
その前置きの後で語られた話は、到底受け入れられないような、幻のような話だった。
曰く、昼頃にタウの住処……城に突入したんだとか。少し前に城を建てていたらしい。なぜ城なのだ。
それは置いておこう。城には、罠が大量に巡らされていたらしい。入った途端に罠。それはそれは凶悪な罠。火で炙り、氷で突き刺し、果てには闇魔法で捕らえる。ほとんどの冒険者がこれにやられたそうだ。
タウがいたのは、入ってすぐそこだったというのに。
目の前の廊下の、突き当たり。罠にかかりながらも、見ることが可能だっただろう。でも、近づけない。
罠をかわした人々も、ほとんどが殺気に当てられている。というか、罠のところら辺で叫びまくって不興を買ったそうだ。それで殺気を使われた、と。
ご愁傷さまでしかない。
歩けたのは、式神と、指揮官だけだった。
指揮官は、冒険者の中では一番強かったらしい。
だから、ふたりで倒そうと動いたらしい。
「よく来たな。だが、お前は偽物だろう?」
タウは、笑ってイッシュ、いや、式神に迷いなくそう言い張った。
式神も、満面の笑みだったそうだ。
そういうところが、イッシュと似てる。挑戦的な感じが特に。私の感覚が反映されていたのだろうか。
そうして、秒で式神は殺されたらしい。
一応、戦えたはずなのに。
諜報活動ができる程度には、だ。
私と同程度には強かっただろう。
ちなみに、そこでぎりぎりで生き残っていたのが指揮官。そいつが、ここまで噂を広めたらしい。
あいつはまさに、魔王だった、と。
「…驚愕な話だね」
「ほんと。イッシュが行かなくてよかった」
心の底から、思った。
「うーん、多分だけどさ、指揮官を生かしたってことは、情報は流すつもりだったわけじゃん。おそらくまた討伐隊が来たら面倒だからだけど。それなら、私は生き残ってたかもね」
そう言われてみれば、たしかに。
「まあ、生きていてなによりです。お二人共、お疲れ様でした」




