101.出陣依頼
〜前回のあらすじ〜
リゼは自分の師匠、イッシュが、彼女の幼馴染のタウに負けたことに悔しく思い、訓練を頑張った。その半年後のお話。
師匠の敗北から、半年ほどが経った。
私は、ただただギルドに来る依頼をこなしていた。
ある日、
「リゼ、ちょっといい?」
とイッシュがやって来た。
「何かあったの?」
あの日以来、私たちはあまり会わなくなった。7歳でも、自立はできる。だから、今回の訪問は意外だった。
「来てから、全部話す」
そしていつになく、真剣だった。
ギルドに行き、奥のほうの、密会をするための部屋に歩いていく。少しスピードが速い気がする。
「ねぇ、イッシュ、何が…」
「まだ、何も言えない。あの部屋でしか、言えない」
本当に、内密な話っぽい。
部屋の扉を開ける。
シャンデリアに赤いカーペット。
まさに豪華な部屋だ。
「リゼ、座って。話すから」
イッシュが席を進めてきた。
「それから、これ…」
取り出したのは、魔術具だ。
契約が使われているのだろう。
「この範囲の外に音は聞こえない」
そう言って魔術具を起動させる。
辺りに、魔力のベールのようなものがかかる。
「それで…本題」
イッシュが、ここに呼んだ理由を話し出した。
「私の幼なじみ、タウは覚えてるよね」
もちろんだ。だから私は、頷く。
「うん。そっか。それで、そのタウに、指名手配が出た」
何があったの?え、指名手配?
「あはは、疑問みたいだね。えーと、どこから話そう。まあ、少しでいっか。どうせ後でわかるし。…タウはね、人を殺した」
まあ、あいつなら簡単だろう。
少しの納得と、多量の疑問が私に押し寄せる。
イッシュは話し続ける。
「別にさ、私は問題だと感じない。だって、人だって魔物だって似たようなもんだし。種族内で殺し合うなんてよくある話」
たしかに、そうなのかもしれない。
「でもさ、国全体で見れば違う。私の感性は、特殊だ。国の1割にも満たないだろう。国からの指名手配書だったんだ。どうしようも…なかった。殺したのが要人じゃなければ…まだ何かあったかもね」
後に聞いた話だと、殺した理由は、逆らったから、気に触ったから、だそうだ。
イッシュは、なぜそんなやつをかばおうとしたのだろうか。
「よって、討伐部隊が組まれることになった。これが大事なとこ」
私は一度、姿勢を正す。
「私は、死にに行く」
一瞬、頭の中が真っ白になった。
意味わかんない。
死ぬって…。いかなきゃいいのに。
「なんで…」
困ったように、
「うーん、国王直々に出陣依頼が来ちゃって。義務、なんだ。ギルドに、依頼が来たんだからさ。仕方がない。ここからが問題で…」
「止まって、1回!だって…」
すると、辺りの空気が一瞬、凍ったように思えるほど、冷たくなった。殺気だ。イッシュの目は、冷たい。何が何でも進めなければならない、覚悟を決めたような顔をして、私を見つめている。
「リゼ、わかって。私だって、こんなゴリ押しはしたくなかった。でも、これは私の義務だ。ここまで、被害を大きくした、私の」
イッシュの、感情に触れた気がした。
「……生きて帰って来てね」
「…できたら、ね」
薄っすらと笑って、そう言った。けれど、諦めているようにしか見えなかった。
「それで、言いたいことなんだけど」
しばらく経ってから、イッシュが切り出す。
「私は、スキルっていうのを持ってるんだ」
なにそれ?
「それを、君に渡す」
………?
「よし、完了。これで使えるよ」
意味がわからない中で終わっていた。
「えっ……どういうこと?」
「まあまあ、意識の中ではわかるはず…」
そうだ。スキルの説明が、頭の中に刻み込まれている。これは…。
「道理で勝てないわけだ…」
情報の解析、蓄積。それに、式神。イッシュは、式神が透明になるように契約していたみたい。でも、私なら式神の見た目を変えられるっぽい。
つまり……。
「イッシュ、この式神ってやつ、どうやって使うの?」
消費魔力と、大まかな説明しかなかったため、イッシュに聞くしかなかった。
「えーと、紙を媒体にして、顕現させる感じ。大抵はなんでもさせられるよ」
なるほど。
「じゃあさ、イッシュの代わりに行ってもらおうよ。タウの討伐」
イッシュは葛藤しだした。
さっき言っていた。これは、タウをここまで放置した責任だ、と。その理論からすると、許せないだろう。
「たしかに…。うーん、どうしよう」
これなら、王に咎められることもない。
ただ、タウが止められなくなるだけだ。
でも、死ぬと思って行くぐらいなのだ、きっと、どっちでも変わらない。
「……よし、決めた!その案で行こう。私たちの身に危険が迫ってからでいい。しかも今回行くのは冒険者が主。シンとか王様がいないのに勝てるわけない」
覚悟を決めたようだ。
「じゃあ、式神をイッシュみたいに設定して…戦うのっていつ?」
「明日。ちなみに、式神は一度壊れても大丈夫だよ。痛覚も働かない」
よかった。でも、性急すぎるでしょ。
「完成した!出してみるね。行けっ、式神!」
紙を投げる。
すると、辺りに光をばらまいたかと思えば、そこにはイッシュが立っていた。…いや、式神が立っていた。
「おぉ…これなら」
「ね!明日は一緒に森の探索に行こ!」
もう、心配事はない。
「そうだね。行こう」
心配事はない。今の時点では。




