王都ー61
「綺麗になっていくのが楽しくて、つい夢中になってしまいました」
時間にするとたいしてたってはいないのだが、魔力に余裕があったせいか試しの筈の汚れ落としを延々と続けていたメルトだった。
ダイアナに声をかけられて自分の有様に気が付いたようだ。
片付けた通りの半分はすっかり綺麗な石畳になっていた。
「「「おおお〜」」」
(これは、さっそくアレの出番かな。)
「メルト、お疲れ様。準備しておいた例のやつ直ぐ作るからさっそく使ってくれ」
「ありがとうございます。マスタ様、楽しみです」
「じゃあ、子供達も連れて来ますね〜」
ダイアナが満面の笑みで走って行くのを見送りながら、マスタは気合を入れて作業を開始した。
「な、なんですか、これ!」
アビィとシルシルと手を繋いだ王妃達が綺麗になった通りを見回し、驚きながらも辿り着いたそこは見慣れない模様の描かれた建物だった。
入り口らしい場所から出てきたマスタに集まり質問攻めになった。
「この建物は 風呂屋 だ。これの良さは中に入りながら説明するよ。男女で分かれているから男の説明は俺が、女の説明はメルトとダイアナに聞いてくれ。先ずは中に入ろう!」
興味深々で眺めているみんなをマスタは手招きしつつ暖簾を潜った。
「女性はこちらですよ〜。男性はむこうです!」
「男はこっちに来てくれ。女の方に行くと叩き出されるぞ〜」
「それでは中に入ります。段差で履き物を脱いで下さい」
メルトが入り口で履き物を脱いで見せて、靴を持って中へと入って行く。
(向こうは任せて良さそうだな)
「木箱の前に並んで立ってくれ。その正面が自分の場所だから覚えておくように。とりあえず今回だけの場所だからな。まず、下の箱に履き物を入れる。その一つ上の箱は着ている服を入れる場所で、1番上は着替えや拭き布用だ。子供達は履き物の箱の縁に足を乗せて踏み台にしてくれ」
「着替えなんて持ってきてないよ〜」
「おれも」
「私も無いですが…」
「今回は使い方の説明だから、とりあえず上の箱にあるシャツと洗い布を使ってくれ。拭くものは後で渡すよ」
みんなで履き物だけ入れて浴室内とトイレの説明を一通りすませ、脱衣所に戻って服を脱ぎ、ぞろぞろとマスタに続いて洗い場に行き見よう見まねで体を洗い始める。
「しみる〜、目が〜」
「ほら、お湯で洗い流せ」
「このお湯美味えぜ」
「兄ちゃんみたいに泡でない」
「確かに出ませんね。泡」
「……あ〜、初めての時は2回洗うと良いぞ。頭は違う薬液で2回だな」
説明を聞かずに身体用の石鹸で頭を洗うヤツに、綺麗なお湯に喜んで飲むヤツ。軽く突っ込みつつ洗い終わったマスタは一足先にお湯に浸かる。
「ふい〜…ああ〜…少しぬるいけどこれも良いな………」
「おおお〜泡出た!」
「俺もすっげえ出たぞ!ほら」
泡ではしゃぐ子供達と2回洗い終わって浴槽に入ってくる大人達。
人数が増える度に溢れたお湯が縁から流れて行く。
「全身湯に浸かるのは初めてですが、良いですね〜…」
「ぷふ〜。ふあ〜…これはいい…」
大人も子供も予想通り喜んでいるのを見て、銭湯の計画をして良かったと改めて思うマスタだった。
「ここは、しっかり設備を整えたら商売として客を呼べるようにしても良いと思ってね。ただし、汚れたまま浴槽に入らないようにきちんと説明しないといけないし、荷物の盗難防止も考えないと。木箱横積みだけじゃな」
「…マスタ様。商業ギルドでお手伝いしますので、是非ともよろしくお願いします」
(さっき毎日入りたいって呟いてたし、相当気に入ったんだな)
のぼせさせないように周りを見つつ、また全員で脱衣所まで戻り取り出した バスタオル に大騒ぎになり、慌ててここだけの内緒にしてくれと宥めて周る事になるのだった。




