王都−36
雑談で自分を見直しつつやって来たのは、今日最後の予定地である孤児院。
今日は様子見の予定ではあるが、状況次第なのでとりあえず管理者を探す事に。
扉を開けると女性の職員らしき人が掃除をしているところで、聞いてみると院長がいるそうなので話を聞く事に。
奥の部屋の扉を開けて入って行く女性、ノックをしないのかと思っていると女性が振り返り、入るように促され中へ。
部屋の机には誰もおらず、案内の女性はそのままソファとテーブルの方へ。
「こちらでお話しましょう。お座りになって」
と言われこの人が院長だったと気が付いた。
「ありがとうございます。マスタと言います、よろしく」
と自己紹介をした。
「私はこの孤児院の院長をしています、レイナと言います。どうぞよろしく。それで今回はどういった用件でしょうか?」
レイナ院長の言葉や顔には警戒の気持ちが強く出ていた。
「俺はこの国に来たばかりで詳しくは無いんだが、この孤児院では子供の数や寄付金の集まりはどうなのかと気になりまして」
「そうでしたか。今はかなり厳しいです。子供の受け入れも止めざるを得ない状況です。昼間は大人が他の仕事をして凌いでいます」
「では、今日はこれを寄付していきますので、お使いください」
そう言って10枚の金貨をメルトに出してもらった。
「こ、こんなにですか?!ありがとうございます」
院長は深く長く頭を下げた。
「これはとりあえずですよ。近いうちにまた来ますがその時はもっと価値のある物を持って来ますので、昼間他で働いている人などいてもらいいっしょに話を聞いてもらうと助かります。」
「よくは分かりませんが、他の大人もいる方が良いのですね?」
「そうですね。大人も子供もいるほど価値がありますから。なにせ子供でも出来る事のある、孤児院で今後出来る商売と仕事の説明会ですから」
「…分かりました。この寄付のおかげでしばらくは昼間働きに出なくてもやって行けますので、数日間なるべくここに集まっているようにします」
「よろしく。損はさせませんから。そうだ、これも置いていきますからみんなで食べて下さい」
そう言って孤児院に来る前に買い足した食材を金貨の横に置いた。
「こんなに…ありがとうございます。何かお返し出来るわけでもないのですが」
「いえ。ではまた後日に」
もう少しで赤く染まりそうな空の下、扉の前で頭を下げ続ける院長を背に孤児院を後にした。
なんとか夕暮れ前に馬車に戻ってこられたマスタ達は一路王城へ。
「マスタ様。今日の事で思ったのですが、マスタ様の言葉は心に響きますね。何か他に例え話などお話いただけませんか?」
「それは気のせいだって。同じ言葉でも人によっては感じ方も違うんだから。たいした事は言ってないよ」
ダイアナの大袈裟に感心したと言うような話し振りに否定するマスタだったが
「私もそう感じましたし、もう少しだけ何かありませんか?」
メルトにまで言われ、ちょっと照れて耳が赤くなりつつ考えるマスタ。
「ん〜そうだなあ。じゃあこれはどうかな?自分と他人が全く同じ物を同じ様に見ている事って言い切れると思うかな?」
「どう言う事でしょうか?」
「同じ物なら同じに見えますよね」
「それならメルトには目の前にこの色付き紙を持ってもらって」
そう言ってマスタは無限倉庫から薄く黄色く色の付いたフィルムを出して渡した。
続けて木で出来た色付きのブロックを取り出すと2人に聞いた。
「このブロックの形は?」
「「四角です」」
「今度のは?」
「「三角です」」
「じゃあ、これは?」
「「丸です」」
「色の濃い順番に言ってみて」
「「四角、丸、三角です」」
「メルトはダイアナよりも全てが少し黄色く見えているはずだろ?でも同じ意見。さて、実は他の人は自分より色が濃かったり薄かったりして見えているかも知れない可能性は分かったかな?」
「でもそれじゃあ、どうやって同じだと言えば…」
「他人の目と見比べることなんて出来ませんから、無理です」
「元の世界で厳密に計測すればわかることもあるけど、する人はいなかったな。みんな同じという事として生活していたから。」
「みんな見え方が違うかも知れないのにですか?」
「生活に支障がなければ困る事も少ないからね」
「確かに私がこの紙を目の前に置いて生活しても出来るとは思いますが」
「ん〜何かもどかしいですね。」
「ありゃ、悩ませちゃったかな?人によって同じ物を見ても見え方や感じ方の深さや濃さも違うかも知れないよって、事だったんだけどね」
結局馬車が王城に着くまで1人もどかしがるダイアナだった。




