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第496話 状況整理

 酷い揺れと共に突如山を割り世界を覆った謎の物体。

 外の皆を混乱させない様、洞窟の外に退避させたカーフ達の手によって、精霊様の住処、或いは真の姿として存在を広められ、名付けられた世界樹の中。


 俺は別世界に派遣されて居た俺からの情報を受け取り、静かに思考を巡らせていた。


 (揺れが収まって、双方の事態がある程度収束したタイミングを狙っての連絡だったんだが……。どうやら、向こうの揺れは直近だったみたいだな……)


 加えて言うなら、俺達が突然の事態に。あちらの世界の動向から目を離した隙を突く様に、月夜が姿を現していたらしいが……。

 彼女に限って、それが偶々だと言う可能性は限りなく低いだろう。

 

 (と、なると、やはり狙って事を起こしたんだろうが……)

 その狙いが分からない。……そもそも、そんな手間を掛けてまで、彼女が俺の分体に接触する理由が見当たらない。

 それに、後半の釘差しは兎も角、前半の馴れ合いには彼女らしさが微塵も見て取れなかった。


 ……理由が無いなら、俺の方でも……。と、少しでも自身の分体に嫉妬してしまう俺は、まだ正常なのだろうか。

 

 ……それはさて置き。彼女の事だ。きっと別世界の分体が選ばれた事にも理由が有る筈。と、なれば一番の候補は新しく庇護者役を務めてくれる事となったカナエさんの思考や存在を誘導する為だろうか。

 前半の雑談も誘導に対する違和感の払拭や、タイミング調整を狙いとしたモノと考えれば辻褄も……。

 

 (……いや、それは無いか)

 なんせ分体にもスイレン達にも、カナエさんにも、月夜が直接記憶を弄った形跡……。


 ヨイチが俺の分体へと行った、思い出しただけで怖気と寒気と吐き気が同時に走る様な……。リミア達の存在をスイレン達へ置き換える様な記憶の改変。

 それに伴い辻褄の合う様に行われた、スイレン達の依存先をヨイチから俺へと移す様な記憶の改竄。

 その始終を目撃し、事の全てを把握して居たはずのカナエさんまでもが、月夜の手によって、その記憶を当たり障りない内容へと変化させられている様だった。


 そんな事が出来るのなら、わざわざ月夜がそんなシチュエーションを用意しなくとも、全てを記憶の改竄で都合の良い様に合わせてしまえば良いだけの話で。


 (……その結果がこれなのか?)

 にしては、余計なものが多く、歪な形もするが。ある意味その歪さが自然の記憶に見える事もある……の、か?


 (……止めよう)

 受け取った記憶が正しいモノなのかも、俺自身の記憶が改竄されていない確証すらすらない以上、この件に関して考え続けるのは不毛だ。

 少なくとも、今優先して考えるべき事項ではない。

 

 (今優先すべき事は……)

 今後の事だ。


 まず前提条件として、月夜の支援を当てにしない方が良いだろう。

 今までもそうだったが、心の何処かで月夜がどうにかしてくれる……。そんな思いがあった事は否めない。その為の釘差しであったのだろうし、加えて、彼女の代替えとなる存在の派遣……。


 多分、月夜は本気だろう。

 彼女は本気で自身の夢を叶えに行った。


 ならば、今まで面倒を見て貰って来た俺がその足に縋り、引っ張り続けると言うのは不義理以外の何物でもないだろう。

 それは彼女の好感度以前に、自身で自身に嫌悪感を植え付けるような行為だった。


 そんな自我の崩壊を誘い、魔力に付け込まれる様な隙を生む行為は、この世界の自殺と言っても過言では無いだろう。

 そしてその自殺は確実に周りを、世界を、大切なモノを巻き込んでしまう……。だから、俺は彼女を、月夜を頼ってはいけないのだ。……絶対に。


 (だったら、それこそ、あの時に記憶ごと消してくれれば……)

 なんて、弱音を吐いて、その全てを。彼女を求めてしまう己の心の弱さを彼女のせいにしてしまいしたくなる。絶対にそんな事、望んで無い癖に。


 それに、彼女がそうしなかったのは、向こうの世界の分体の記憶を消した所で、残りの本体と、数十体の人格を保存、保有した分体の記憶も同時に処理しなければいけなかったのが原因であり、お陰だろう。

 慢心は出来ないが、元々、分体達は記憶の改竄や汚染対策の為に作り出したモノではあるので、その目論は間違っていなかったと言う事なのかも知れない。


 逆を言えば、この対策を取っていないで、現在と同じ状況に陥っていた場合……。それこそ"俺が望んでいた通り"の展開になっていたかもしれない。


 ……恐怖で目が眩んだ。

 言い訳をも許してくれない彼女の陰に安堵した。

 同時に、これから先、誰が俺の道を正しく指し示してくれるのかと不安になる。


 (ふっ……。これじゃ、まるでガキだな……)

 分かってはいたが……。分かってはいるが。


 (……取り敢えず、月夜には頼れない)

 思考を割って。そう自分に言い聞かせて。


 (こいつも何を考えているか分からない)

 本体であった筈の俺を、この世界維持システムの根幹をなす、厳重なプロテクトの掛かったコアに触れ愚痴る。


 (せめて、まだ中身が本当に俺なのかどうか……)

 いや、それを教えて貰った所で、その言葉が本物かどうかの区別も付かないのだから、意味が無い、か。


 (せめてもの救いはコイツが暴れずに、月夜の抜けた穴まで埋めて、未だに世界の維持に努めてくれていると言う点と、俺に、比喩でも無く世界中に張り巡らせた世界樹の糸を使わせてくれていると言う点か……)

 

 勿論、世界中に伸ばした糸を借りれた所で、世界樹と対比して考えれば矮小で、大した権限など持たない俺が出来る事等、高が知れているが。


 (それでも、俺はここを動けない……)

 世界樹の監視。これは絶対に必要だ。

 暴走されたら何が出来る訳でも無いかもしれないが、それでも場合によっては何かできるかも知れないし、弱点や動きの兆候が見えるかもしれない。


 何より、世界がちゃんと回り続けている事を、世界中に張り巡らされた糸で以って監視し続けなければならない。

 ここに居れば、世界の何処で変化が起こっても感じられて、場合によっては糸を使って補助や対処が出来る筈だ。

 そう言う意味でも、俺は絶対に、この場を離れる訳には行かなかった。


 (しかし、そうなると……)

 本体の時もそうだったが、この巨体とパワーでは如何せん、繊細な魔力や体の制御、或いは微細な魔力や環境の変化等を探知できない。


 この体にとっては探知できない程の変化でも、リミア達には有害になる場合があるし、感知できないほどの小さな変化が、その後の大きな災害につながる恐れもあるだろう。

 リミア達を守るにしても、近距離で力を振るうのは、俺の身体が纏う魔力濃度的にも、座標や力加減を間違った際の被害を考えた場合にも、不適格だし、繊細な研究やリミア達の目線にあった感覚を忘れない為にも、出力の弱い自律思考型分体は必要だ。


 (先の世界樹膨張で殆どの分体が世界樹に食われっちまったしな……)

 少なくとも記憶保存用と調査用に、それなりの数の分体を作り直さなくてはいけないだろう。

 

 (向こう側の世界……。いや、もうこっちに統合された訳だし、織部村って言ったか……?あっちの監視監督はあの分体に任せれば良いだろ。後は聖都と信都に自律思考型それぞれ一体ずつ配置して……)

 

 コグモ達に自身のコピーを使い捨ての様に使っているのがバレたら面倒な事になる……なんて事はもう言っていられない。

 なんせ、月夜が居なくなって、世界の根幹を支える世界樹ですら信用ならないのだから、コグモ達には一つの心理的試練だと思って乗り越えて貰うしなかない。

 

 (ま、確信は無くても可能性を提示した時点で半分バレてた様なもんだしな)

 それに、生憎、一番酷い初期の実験場は世界樹が飲み込んでくれたし……。ミル達の記憶経由でバレる可能性も無くは無いが、まぁ、バレたらバレたで、それも試練の範囲内だろう。

 

 (どうせ、これからもリミア達の身を守る為に使う為の素材生成や、実地試験に使う事は決まってるんだしな)

 いつかバレる事だし、最終的には自身の身を効率的に成長させ、守っていく方法として知って貰って置かなければならない事を考えると、良い機会でもある気がした。


 (最悪、試練の突破に"失敗"しても、俺が居る内ならいくらでも"直して"やれるしな)

 

 そうと決まれば分体作成に、織部村に居る分体への連絡。やはり世界樹からは目を離せないし、世界やリミア達の今後も考えて……。


 (ん~……。そうなると、織部村に居た分体の魔臓も良い感じに成長してきている筈だから、一回バラして新しい個体と入れ替えるのも有りか……?)

 

 世界の隅々まで監視し、片手間に新しい分体(いのち)を捏ね繰り回しながら、一人考えに耽るのであった。

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