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第495話

 「っ……!屈め!」

 突然の衝撃とも言える地面と空気の振動に動揺しつつも、軋む屋敷を見て、その真下にいた3人の体を触手で強引に引き寄せる俺。


 足元に引き寄せた皆の体を、分厚い肉を纏った触手で押さえ付け、屈ませる様にして抱え込むと、肉付けした触手の分、密度と背丈を失った俺は屋敷の倒壊と、新しい脅威を警戒して辺りを見回す。


 「っ!おい!お前はまたそうやって!」

 「カナメっ!今は大人しくしていなさいっ!外に出ても今の私達では……」

 状況判断の出来るスイレンが暴れるカナメを諫めてくれる。


 「っく……。……長いな。外は大丈夫そうか……?」

 「村の方は大丈夫でしょうか……。ルリさんも、どうか無理だけは……」

 カナメは悔しさを滲ませた声で、スイレンは心配の色を隠せぬ声色で呟く。

 初めの衝撃程では無いモノの、常人では立って居られない程度の揺れが不規則に続いていた。


 「ったく、アタシまで保護しなくても……。こちとら死にたくても死ねねぇ不死身体だって言うのに……」

 カナエさんの言う事も尤もだが、咄嗟に体が動いてしまったのだから仕方が無い。


 「……それと、警戒している所悪いが、さっきの衝撃はお前の世界とこの世界が無理矢理に同期させられた際の衝撃だな……。やったのは完全に向こうさんだよ。今は少しずつ時間の流れや、色々なルールがお前の世界の法則に書き換えられている最中だ」

 カナエさんはその身を世界に溶かし出しながら呟く。

 

 「……なるほど」

 操作は出来なくとも、その身を溶かせばかなりの事が"見える"らしい。

 その事実はその力を借りられる俺にとって、かなりの朗報だった。


 「後は、お前の本体がその根や枝をこちらの世界に伸ばしてきている影響だな。地中は見えねぇだろうが、向こうの山や空でも見上げてりゃぁ一発で分かんだろ」


 そう言われ、空中に目を凝らしていると、山の向こうや地平線の彼方から白い糸の様なモノが空を覆い尽くす様に伸ばされ始め、目に見える地表と言う地表にも一瞬にして白が駆け巡った。

 

 空と地表の境が白によって拡張され、判別できなく行き、最後は世界の中心である屋敷の上下で収束した。


 白一色の世界。まるで俺達しか存在しない様だった。

 揺れも止まり、風も止まり、喧騒も消え。自身の踏み締めている地面が存在しているのかすら、あやふやな世界。


 「大丈夫……。なんだよな?」

 俺が何とか声を振り絞って聞けば、カナエさんは「あぁ」と、事も無さげに答える。


 と、今度は世界が白に包まれた時とは逆に、世界の端から、空と地表の境界線から、世界が色を取り戻して行く。


 「完全に私の権限を使いこなしてるな……」

 彼女の権限。魔力以外のモノを正確に認識する能力と、自身の領域を自由に編纂する能力。

 本当に世界が作り変えられて行っているのだろう。


 「これは……」

 最後に残った白は、縁側と出入り口を残して屋敷を飲み込んで天まで伸びる幹と、地表に張り巡らされた大きな根。空を支える様に張り付く、幹から離れる毎に空の青へ染まって行く枝葉の数々。


 何処か見覚えの有る風景に、無意識に触手の拘束が緩んだのか、中からカナメが飛び出して来る。


 「…………」

 憎らしいモノを見つめるような視線でこちらを睨みつけてくる彼女。

 しかし何を言っても自身の弱さを棚に上げた八つ当たりにしかならないと分かってか、彼女は静かに白い大樹へ向かって視線を動かした。


 「……あれは何だ?」


 「…………」

 心当たりはあっても、断言はできない。

 体内に引っ込めた触手の下から姿を現したカナエさんへと、静かに視線をやる俺。


 「分かってんだろ……?アイツはアンタの本体の一部だよ……。新しい権限を得て、世界を二つ覆い尽くすぐらいの大きさになったってだけさ」


 「世界を二つ……。もう一つはリミア達の居る世界か?」

 俺の問いに「他に有るか……?」と答える彼女。

 なるほど。俺は本当に大きくなってしまったらしい。それこそ、世界を覆い尽くす程に。


 「……村の皆さんは無事なのでしょうか」

 スイレンが心配そうに呟く。


 「無事だよ。全員一発目の衝撃で気を失ってるが、こいつの本体が糸で包み込んでケガは無い筈だ……。

 と言うより、ルリはさて置きアンタらが一発目の衝撃を事も無さげに耐えられた方が驚きだね。ま、それだけ相手さんも気を遣って優しく改変してくれたって事なんだろうが……。

 なんせ、魔力に鈍感なこの体が衝撃を感じたレベルだったからね。この世界の常人に耐えられないのも無理ないさ」


 「優しく……」

 あれで優しくなのか。

 やはり、権限と図体が大きくなった分、更に繊細な力加減が出来なくなっているのだろう。


 「んで、どうする……?話途中だったけんども……」

 「「…………」」

 3人が俺を見る。


 「……取り敢えず、気を失った村人達を屋敷まで回収しよう。ガサツな俺の本体が行った保護じゃ、今一信用できないしな」

 「そうだね。アタシの"目"では魔力や魂なんてもんは見えないから、直接アンタらが見た方が良いかもね」

 

 「……わかりました。では、ここは手分けして……」

 「私は裏から荷車を持ってくる。……倉庫ごと潰れて無いと良いのだが……」

 「……大丈夫そうだね。潰れてないよ。行ってきな。アタシなら村人達の位置も分かるからルリを通じて位置を共有して……」


 言い出した俺よりも段取り良く話を進めて行く3人。

 こう言った瞬間に、頭の回転の悪さを自覚する。


 まぁ、そんな事、前世でも……。今世でも生後1年と経たないリミア達に負けている時点で、初めから分かっていた事ではあるが。


 なんて今更の事実を実感しつつ、割り振られた役割を熟すべく、カナエさんの了解をとって糸を繋ぐ。


 『あーあー。聞こえるか?』


 『あぁ』


 『おぉ!面白れぇ。本当に念じるだけで通じるんだな』


 『楽しんでいただけたなら何よりだ』


 『んじゃ、村の地図と村人達の居場所も……。これで分かるか?』


 『あぁ。問題ない』


 『ほえー。便利だな。アタシ達の居た世界にも似た様な技術はあったけど、もっと大掛かりな機械やシステムが必要で、ここまで気軽には繋げなかったぜ。……まぁ、あんまり気軽に頭ん中見せ合いっこしたくねぇって奴が居たせいかもしれねぇが』


 『それはあるかもな』

 

 『……んで、これならあの二人には聞こえねぇんだよな?』


 『ん……?あぁ……』

 

 『んなら、今の内にあっちの擦り合わせもして置くか』


 『あっち……?』


 『記憶だよ記憶……。アイツらには暈しといたけど、アンタはちゃんと把握しといた方が良いだろ?』


 『それは……。気を遣わせたな。ありがとう』


 『良いってことよ。こっちもアイツが命張って守ろうとしたもん、ぶっ壊すのも忍びねぇかんな……。んじゃ、行くぞ』

 瞬間、彼女の開放した回想が流れて込んで来る。


 『っ……!これは……』

 やはりと言うべきか。俺自身の記憶も所々欠落して居たり、改変されていた様で。

 してやられたと言うべきか。敗者の現実を思い知らされた様で。


 さっきだって一歩間違えば、俺は月夜の記憶まで……。

 いや、それだけじゃない。もし相手が敵対的だったり、悪意のある相手であればリミア達をこの手で滅ぼす様、操作されていた可能性だって……。


 彼女の最期が思い起こされ、体が振るえる。


 『な……?黙ってた方が良かっただろ……?』

 頭を押さえ俯く俺を見て勘違いしたのか、そんな言葉を掛けて来るカナエさん。

 残念ながら俺には他人を思いやる余裕など何処にもなかったのだが。

 彼女がこちらの深層心理を読み取れない事に安堵すると同時に、そんな自分が余計に嫌になる。


 『あ、あぁ……。カナメ達の記憶も後で探っては見るが、彼女達の認識次第ではあるが無暗に見せて良い物では無いな……。本当に助かった。ありがとう』


 『良いって良いって。ま、その情報はそっちで上手い事、使いこなしてくれや』


 『あぁ』

 と、糸を通じて会話をしている内に二人がそれぞれ一台ずつ荷車を引いて歩いて来る。


 「戻りました」

 「一応中に綿と織物を敷いては見たが……。人を乗せる際は揺れに気を付けてくれ」


 「あぁ、助かる……。それじゃぁ情報共有の為に糸を繋いでも良いか?」


 「あぁ……。ただし、余計な記憶は覗くなよ」

 「まぁ、多分、今の私達では覗かれても気付けませんけどね」


 警戒心MAXなカナメに、警戒しても仕方の無い事と割り切っているのか、或いは信頼していますよと言うポーズなのか、のほほんと付け加えてくるスイレン。


 ……勿論、そんな牽制を無視して、位置情報を共有しつつ、何食わぬ顔で俺は彼女達の記憶を覗く訳だが。


 (……やはり過去やヨイチに関する記憶は削られてるな……。ただただ崩壊しそうになった世界と、その世界の管理者である二人を俺が命懸けで救った事になっている……)


 俺の改ざんされた記憶とも噛み合う様になっているので、何事も無ければ……。

 いや?これではヨイチの望んでいた俺からの二人に対する絶対的な保護は得られないんじゃないか……?だって、現に俺の一番はリミア達で……。


 「どうだ?皆の居場所は分かったか?」

 思考半分。怪しまれない様に二人へ確認を飛ばす。


 「あぁ」

 「はい。問題ありません」


 「よし。それじゃぁ行く……」

 瞬間、足元から接続される感覚。

 見てみれば、地面から伸びた糸が足に絡まっていた。


 「引けっ!」

 俺の咄嗟の叫びを聞いたカナメがスイレンの身を抱えて飛びのくが、カナエさんはニシシッっと悪い笑みを浮かべたままその場に留まり続ける。

 やはり自滅願望のある彼女は俺が守らなければいけない様だった。


 『聞こえるか……?』

 しかしそこから聞こえて来たのは俺の声。

 いや、正確には研究所を管理していた俺の分体の声。


 俺は皆の方に掌を向け、来るな、とジェスチャーしたまま、どうするべきかと思案する。


 『……何だ?』

 結果慎重に。爆弾を解体する様にゆっくりとプロテクトを開放しながら言葉を返す俺。


 『こっちの俺が暴走した……。と言うより肥大化して世界を覆っちまった……。今は落ち着いて、世界に色も戻ってるんだが……。そっちはどうだ?』


 送られてくる映像記憶を慎重に開いてみれば、どうやら向こうの世界も、俺の本体が急に肥大化、成長し、洞窟や山を突き破って、ここと同じ様に世界を貫き包み込む白い大樹まで成長したらしい。


 それに伴い、地下の研究施設も飲み込まれ消滅。

 地下にいた分体は、同じく地下に居たミル達を逃がす為、肥大化する俺の本体の根の一部を利用して二人の肉体を洞窟の外へ避難させ。

 これまた世界中に張り巡らされた俺のオリジナルが張り巡らせた糸を利用して、俺への連絡を寄越してくれた様だった。

 

 『……本体から応答は?』


 『いや、ない。と言うより接続できない。完全に閉ざされている』


 『そうか……、乗っ取られている感じは有るか……?』


 『分からない……。少なくとも、この世界を破壊する気は無さそうだが……。相手がその気になったとして俺達が止める術があるか……?と言うより、月夜の力を借りたくて、居場所を知らないか連絡したんだが……』

 

 『あぁ……。成る程、理解した……。結論から言えば、知らない。少し前まで月夜の分体?がこっちに来ていたが、俺をおちょくって消えて行った』


 『何だって……?まぁ良い。その記憶、ちょっとこっちに寄越せ』


 『分かった。これまでの事も含めて纏めて送るから好きに分析してくれ』


 「…………」

 と、そこで暫く返答が途切れる。俺の送った記憶に目を通している最中なのだろう。


 「……大丈夫そうだ。向こう側に居る俺の分体からだった。向こうの世界も同じような状況になっているらしい……。悪いが通信を続けたいから一足先に村人達の回収に向かって貰って良いか?」


 「……私達を逃がす為の嘘じゃ無いよな?」

 俺の言葉を聞いたカナメは、俺では無く腕の中のスイレンに問う。

 

 「……魔力の乱れは見えませんね」

 魔力を宿して妖しく光るスイレンの瞳。

 俺が纏う魔力の流れに目を凝らしたのだろうが、当然俺もある程度隠蔽は出来るし、相手もそれを分かっていて断言はしてこない。


 「……分かった。お前を信じて行って来る」

 「ふふふっ。ルリさんにはそんな圧力を掛けても無駄ですよ。やると決めたらやる御方ですから」

 「五月蠅い。黙ってろ」


 そう言ってスイレンを地面へと降ろすと、荷車を持ち直し、カナエさんの方を向くカナメ。


 「あんた……、カナエさんはどうするんだ?」


 「ん~。アタシか~?アタシは~……。ん~……。この場に居ても暇そうだし、付き合おうかな。何気にこんな田舎町のマップを散策するのも、肉体を持って歩き回るのも久々だし」


 「そうか……。なら先導を頼んでも良いか?」

 「あいよー」

 「宜しくお願いしますね」


 トントン拍子で進む話。


 「では、行って参りますね」

 「行って来る」

 「行ってくんな~」


 三者三様。言葉を残しって去って行く三人。


 「あぁ。宜しく頼む」


 そんな三人を見送りつつ、俺はもう一人の俺の返答を待った。

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