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第490話 終幕

 頭の裏に、柔らかく、温かい感触。

 「……ここは」


 「おはようございます。ルリさん」

 「おはよう。ルリ」

 天井よりも先に映り込む、安堵した様な、二人の優しい表情。


 「……これはどう言う状況だ?」

 いや。成長した姿のスイレンに膝枕をされている事は分かっているのだが……。


 「これか?これはお前がこれ以上無茶をしない様に縛り付けているんだ、よっ!」

 事も無さげに呟きながら、声を力ませながら、俺を布団ごと縛り上げて行くカナメ。


 どこから突っ込むべきなのか。

 そもそも、何があって、何故この様な状況になっているのか。

 何一つ、分からなかった。


 「……残念ながら、私達にも思い出せません」

 こちらの顔色を察してか、スイレンが答えてくれる。


 「ただ、貴方はその身を挺してまでこの世界と私達を守り抜き、疎まし力から解放してくれた。その事だけは、そこはかとなく覚えております」


 「……その自己犠牲が、私達を深く傷つけた事実もな」

 こちらに視線も向けず、俺を簀巻きにする作業も止めないまま、不満そうに付け加えてくるカナメ。


 「そう言われれば、そんな気も……」

 本当にその程度で。

 こうなるに至った経緯どころか。

 二人の事は確かに知っている筈なのに、その関係性すらあやふやな状態で。


 「それは一度、皆さんの魂が修復不可能に近い程、メチャクチャになったせいですね」

 視界外から、これまた聞き覚えのある声。


 「やっと目覚めましたね」

 不自由な視界に映り込む見知った顔。

 

 「……なんで月夜がここに?」

 その姿に驚きと。それ以上にこの場に彼女がいると言う安心感と。


 「月夜が助けてくれたのか?」


 「そうですね……。まぁ、少しばかり後始末のお手伝いを」


 「そうか……。それは助かった。ありがとう」

 残念ながら、そのお手伝いや後始末にも心当たりは無かったが。きっと、今こうやって、この世界が丸く収まっているのも彼女のお陰なのだろう。


 何にせよ、彼女がこの場に居る。その事実だけで、心の波が和らぎ、心理的余裕を与えてくれて。その事実だけで、お礼には十分だった。


 「……悪いが事の顛末を聞いても良いか?」

 彼女に聞くことでは無いのかも知れないが。当事者3人がこれでは、他に頼れる当てもない。


 「そうですね……。取り敢えず、そこのお二人が取り扱いに難儀していた力は、予定通りこちらで回収させて頂きました」

 すんなりと返してくれる月夜。

 有耶無耶にされるのは元より、話し出してくれるとしても、それまでに一揉みされると思ったのだが。


 いや、当然、話がスムーズ進むのは決して悪い事では無い。悪い事では無いのだが……。


 「今は貴方の未熟を突く時間も惜しいので」


 「……そうか」

 どうやら彼女には、何か急ぐ用がある様で。


 その言葉を全て鵜呑みにする事はできないが、彼女から俺への興味が失われた可能性を少しでも排除出来て、安堵する。


 「向こうの世界で何かあったのか?」

 自身でその可能性を口にして改めて気付く。落ち着いているなと。


 それだけ彼女の存在は強大で、偉大で。

 余裕のある彼女を目の前に出来ているだけで、本来なら。俺一人なら取り乱しかねない可能性にも難なく言及できた。


 それだけ彼女と言う存在が、俺の心の支えになっていると言う事だろう。


 ……そんな彼女に見放されては、正気も世界も維持できる気がしなかった。


 「いいえ。何も」

 月夜はそう呟くと、顔を上げて二人の方へ視線を向ける。

 

 「少しルリさんをお借りしても?」


 「はい」

 「あぁ」


 俺が気を失っている間に、二人との関係もある程度構築していたのか、俺は素直に月夜へ引き渡される。


 「では、こちらへ」

 瞬間、本能的な冷や汗が頬を伝う。


 不思議パワーで簀巻きにされた布団ごと、宙を浮遊し始める俺。


 不可視ではあるが、大きな魔力の手に掴まれている様な感覚で。

 本気で握られれば勿論。今、布団越しに感じる魔力の圧にすら、押し潰されてしまいそうだった。


 「「っ……!」」

 ほら、あの母子だって顔を青くして引いている。


 「っと、すみません。これでも強すぎましたか……?でも、出力をこれ以上下げると力加減が……」

 その感覚には俺も苦しめられているし、肉体をすり抜けた魔力に精神体を直接握り潰されても堪らないので、文句は無いが。


 「大丈夫だ、俺なら問題ない。が、力を失った二人には毒だろうし、行なら早く行こう」

 

 「そうですね……。それでは失礼します」

 柔らかい笑顔で小さく手を振ると、俺を連れて踵を返す月夜。

 不意に、あの部屋にあった、月夜と、まだ小さかった頃の、蛍と呼ばれていた少女が笑顔で、自然な表情で写った幾つかの写真が思い起こされた。


 あの二人の表情は、関係性は、本当に上辺だけの物だったのだろうか。

 二人が歳を取れば取る程に蛍の笑顔や、二人一緒に映る写真は減って行っては居たが。真剣な表情で実験に取り組む月夜を見上げる様に写した、拙い写真。それが一番大事そうにモニターの横に飾られていたのは、彼女の"勘違い"からだったのだろうか。

 

 今の彼女も表情は余所行きの顔なのか、本心からの物なのか。俺には判断出来なかった。

 ……ただ、100%の嘘にも見えなかった。嘘であって欲しく無いと願ってしまった。例えそれが、彼女達にとって、どんなに残酷な事であったとしても。


 「……この辺りにしましょうか」

 どうやら俺が寝かされていたのは、スイレン達が住むお屋敷の一室だった様で。

 廊下を出て、暫く歩いた後に辿り着いた縁側へ腰と俺を下ろす月夜。


 生垣の向こうからは村の喧騒が響いて来る。どうやら彼らも無事だったらしい。


 (ま、月夜が手を貸してくれたなら当然か)

 なんて。


 もう一人の俺の為に、リミア達やその世界を守るのは理に適っているとして。

 この世界の住人を助ける事は、彼女にとって手間でしか無いどころか、面倒事を増やすだけの筈なのに。


 例えこの世界の維持が俺の精神を守る為の行動で有ったとしても、その精神体を自由に弄れる彼女にとっては、どちらの方が手間になるかなんて明白だ。

 

 だから俺は感謝すると同時に。彼女と触れ合った端々で生まれた淡い期待が、明確に形を成して行くのを止められなかった。

 

 「お祭りの準備をしているらしいですよ」

 遠い目で生垣の見つめる彼女。

 多分、スイレン達の力を取り込んだ今の彼女には、その向こう側に広がる風景所か、この世界全体をも見通せているのだろう。

 

 「なるほど、道理で騒がしいわけだ」

 名目は解放祭と言った所だろうか。

 スイレン達が提案した物なのか、村人達から提案された物なのかは知らないが。

 俺が目覚めない中、村全体を暗い雰囲気にならない様に気を回して始めた事なのだろうなと言う事は、容易に予想が付いた。


 「一緒に行ってみるか?」

 幼い蛍と彼女が祭りで取ったであろう写真を思い出しながら、呟く。


 「いえ。先程も申しましたが、私には時間がありませんので」


 「そうか……。それは残念だ」

 

 「「…………」」

 そう言う割には話し出さない彼女。

 忙しいと言う割には、何時に無く静かで。


 こんな時間も悪くない。

 そう思うと同時に、何処か不穏な物を感じてしまって。


 「……なぁ」

 「お話をしましょうか」


 「……あぁ」


 「この世界には、スイレンさんとカナメさん。二人を守ろうとする存在がしました」

 静かに。生垣の向こうを見据えたまま、話し出す月夜。

 

 「村人か……。いや、カナメの声を使って喋っていた、謎の存在の事か?」

 そのまま聞いていては、話も、彼女も何処かに流れて行ってしまう気がして。その話にしがみ付く様にして、相槌を挟む。


 「……そうですね。その二つの存在もそう願ってはいましたが。片方は力その物が、もう片方にはその圧倒的な力を振るう権利がありませんでした」


 「それに……」と続ける彼女。


 「その片割れ、貴方に接触してきた上位者は、あの人達の幸せを真に願っていた訳では無く、今回の首謀者。もう助けられないと悟った、ある男の願いを叶えようとした結果の行動です」


 あぁ、それじゃ、まるで……。


 「安心してください。私の件は手遅れでも何でも無いですし、彼女の真の願いも叶えました。今頃、向こうの世界で感動の再会を果たしている筈です」


 「そうか……」

 純粋なる安堵。


 「対価として私は彼女の権能も得ました。今では貴方の目の前に現れただけでも確実に、貴方も、この世界も壊してしまう程の力を得ています……。この体もホログラムの様な物ですしね」

 

 きっと、カナメ達の使っていた夢に姿を持たせる能力と似た様な物を使っているのだろう。


 ……夢に姿を持たせる?


 「うっ……」


 「切羽詰まっていたとは言え、中途半端な仕事をしますね……」

 彼女の掌が俺の頭部を透過して、痛みの原因を攫う様にして薙いで、去って行く。

 

 「はい、これでどうですか?」


 「……助かった」

 何を書き換えられたのか、気にならなくは無いが。


 「書き換えてはいませんよ。喰らっただけです」


 「そうか……。それでも助かった」

 弄られた訳でも、封じられた訳でも無く、喰らわれたと言う事は、もう、戻る事も無いのだろう。


 「それで、何の話でしたっけ……?」

 とぼけた様に彼女が言う。


 「しらん。最後に聞いたのはお前が、上位者とやらの願いを聞いて、更なる力を得たと言う所辺りだ」


 「そうでした、そうでした」

 ワザとらしく胸の前で手を打つ月夜。

 

 気が抜ける様な。いや、ワザとそう振舞ってくれているのだろうが。

 そんな昔の彼女からしたら不自然な、人間として自然な立ち振る舞いと気遣いに心が温かくなって。


 「それでは、話の続きを」

 同時に、忙しいと言いながら、ワザと話しを引き延ばしている様な、矛盾した彼女の姿に不穏な物感じずには居られなかった。

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