↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
64/79

願う、ご縁

小樽。


菓子店を離れた二人は、近くの公園へと向かっていた。


冷たい風が、木々の枝を揺らしている。


「……それにしても、驚きました」


宗一郎が、隣を歩く女性に言った。


「何がですか?」


「まさか、飛行機でお会いした方と、こんなところで再会するなんて」


「ふふっ。私もです」


女性は、小さく笑った。


「それに、お財布まで落とされるなんて」


「……面目ないです」


「見つかってよかったですね」


「本当に。助かりました」


宗一郎は、苦笑した。


◇


公園のベンチに腰を下ろす。


少し離れた場所では、子どもたちが遊んでいた。


「北海道には、観光でいらしたんですか?」


女性が尋ねた。


「……いえ。実は、人に会いに来たんです」


「そうなんですね」


「札幌に、昔からお世話になっている方がいまして」


「お友達ですか?」


「いえ。神職の先輩です」


「……神職?」


女性が、首を傾げた。


「神社の?」


「はい。実家が神社なんです」


「そうだったんですね」


女性は、少し驚いたように笑った。


「それじゃあ、将来は神主さんに?」


「…………」


宗一郎は、すぐには答えなかった。


「……そのつもりだったんですけどね」


「……?」


女性は、宗一郎の顔を見た。


「何か、あるんですか?」


「……まあ、少し」


宗一郎は、視線を落とした。


「昔から、いずれは自分が継ぐものだと思っていたんです」


「はい」


「でも、最近になって……本当に、それでいいのかなって」


女性は、黙って聞いていた。


「ほかの道を考えたこともないのに、決めてしまっていいのかと」


「…………」


「今日も、その相談をしに来たんです」


宗一郎は、小さく笑った。


「せっかく北海道まで来たのに、まだ答えは出ていませんが」


◇


「……難しいですね」


女性が、静かに言った。


「そうですね」


「でも……」


彼女は、少し考えてから続けた。


「神社を継ぐかどうかって、ご自分で決めていいことなんですよね?」


「……え?」


宗一郎は、顔を上げた。


「だって、宗一郎さんの人生ですから」


「…………」


「あ、すみません。何も知らないのに」


女性は、少し慌てたように笑った。


「いえ……」


宗一郎は、首を横に振った。


「今日、同じことを言われました」


「同じこと?」


「はい。相談した先輩に」


女性は、目を丸くした。


「そうだったんですね」


「……でも、まだ実感が湧かなくて」


宗一郎は、遠くの木々を見つめた。


「ずっと決まっていたと思っていたことを、自分で決めるって……難しいですね」


「……そうかもしれません」


女性は、穏やかに頷いた。


◇


「そういえば」


宗一郎は、女性に目を向けた。


「客室乗務員のお仕事は、長いんですか?」


「まだ、数年です」


「そうなんですね」


「はい。でも、ずっと憧れていた仕事なんです」


女性は、少し嬉しそうに笑った。


「小さい頃から、飛行機が好きで」


「……飛行機が」


宗一郎は、思わず苦笑した。


「僕とは正反対ですね」


「ふふっ。そうですね」


女性も笑った。


「でも、空を飛ぶのって、素敵じゃありませんか?」


「……そうですね」


宗一郎は、空を見上げた。


飛行機の窓から見た、白い雲。


あの景色は、確かに綺麗だった。


「大変なこともありますけど」


女性は、続けた。


「今のお仕事が、大好きなんです」


その表情には、迷いがなかった。


宗一郎は、少しだけ羨ましく思った。


自分の選んだ道を。


こんなふうに、まっすぐ好きだと言えることが。


◇


しばらくして。


二人は、公園を後にした。


「今日は、ありがとうございました」


宗一郎が頭を下げる。


「こちらこそ。楽しかったです」


女性は、微笑んだ。


「……あの」


宗一郎は、少し迷ってから口を開いた。


「僕、仙台から来たんです」


「仙台?」


「はい」


「いいところですよね。何度か行ったことがあります」


「そうなんですか」


「でも、ゆっくり観光したことはなくて」


宗一郎は、少し考えた。


「……もし、また来ることがあったら」


「はい?」


「よかったら、案内します」


女性は、目を瞬かせた。


そして。


ふわりと笑った。


「じゃあ、今度仙台を案内してください」


「……はい」


宗一郎も、笑った。


◇


別れ際。


二人は、連絡先を交換した。


「それじゃあ、また」


「はい。お気をつけて」


女性が、軽く手を振る。


宗一郎も、手を振り返した。


その背中が、少しずつ遠ざかっていく。


「…………」


今日、札幌で聞いた言葉。


自分で決めなさい。


そして。


小樽で聞いた言葉。


宗一郎さんの人生ですから。


どちらも。


まだ、答えにはなっていない。


けれど。


一つだけ。


自分で決めたことがあった。


また、あの人に会いたい。


その気持ちだけは。


誰かに決められたものではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。