↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
46/76

止まぬ、警報音

◇


翌朝。


いつもの。


石段。


「おはようございます」


「おはようございます」


昨日も。


会った。


昨日は。


一日。


一緒にいた。


なのに。


「…………」


少し。


違う。


いつもの。


朝。


「昨日」


「はい」


同時に。


声が。


重なった。


「…………」


「…………」


「水瀬さんからどうぞ」


「いえ、佐伯さんから」


「いや」


「どうぞ」


「…………」


昨日まで。


こんなこと。


なかったのに。


「じゃあ」


「はい」


「昨日、ありがとうございました」


「…………」


先に。


言われました。


「こちらこそ、ありがとうございました」


「楽しかったです」


「…………」


「俺」


「…………」


また。


です。


何気なく。


そういうことを。


先に。


言う。


「私も」


「はい」


「楽しかったです」


「よかった」


「…………」


笑う。


佐伯さん。


「…………」


昨日。


別れた時。


もう少し。


時間が。


続いてほしいと。


思った。


でも。


こうして。


また。


会えた。


「…………」


それだけで。


少し。


嬉しい。


「そういえば」


「はい?」


「昨日の」


「…………」


嫌な。


予感。


「ゲームセンター」


「忘れてください」


「まだ何も言ってないですよ」


「忘れてください」


「無理ですって」


「…………」


朝から。


その話を。


する必要は。


ありません。


「あれ」


「はい」


「そんなに珍しいものだったんですね」


「…………」


「昨日、帰りながら聞いてて」


「はい」


「思ってたより、すごいものだったんだなって」


「…………」


佐伯さんには。


価値など。


分からないと。


思っていました。


いえ。


今も。


きっと。


分かっては。


いない。


「限定ですから」


「はい」


「通常販売もありません」


「聞きました」


「再販も未定です」


「それも聞きました」


「…………」


覚えている。


「でも」


「はい?」


「まあ」


少し。


間。


「水瀬さんが楽しそうだったんで」


「…………」


「見てるのは面白かったです」


「…………」


「忘れてください」


「そこに戻るんですね」


「忘れてください」


「無理です」


「…………」


やはり。


あれだけは。


失敗でした。


「じゃあ、俺そろそろ行きます」


「はい」


「また」


「はい」


「…………」


また。


「佐伯さん」


「はい?」


「昨日」


「はい」


「本当に、楽しかったです」


「…………」


「また」


口に。


出してから。


気づく。


「…………」


また?


「また?」


「…………!」


佐伯さんが。


聞き返す。


「いえ」


「…………」


「その」


何を。


言おうと。


したのでしょう。


「また」


「はい」


「…………」


行けたら。


「…………」


「また、行きましょう」


「…………」


先に。


言われた。


「はい」


「じゃあ」


「はい」


「また明日」


「また明日」


佐伯さんが。


石段を。


下りていく。


「…………」


また。


行きましょう。


「…………」


次は。


どこへ。


行くのでしょう。


「…………」


いけません。


また。


考え始めています。


◇


大学。


「…………」


また。


行きましょう。


「…………」


今朝の。


佐伯さんの。


言葉。


思い出すだけで。


緩む頬。


「…………」


いけません。


講義に。


集中。


です。


「水瀬さん」


「はい!」


「先ほど説明した部分ですが」


「はい」


「どういう意味か分かりますか?」


「…………」


意味。


「答えてみてください」


「はい」


立ち上がる。


「…………」


答え。


「また、行きましょう」


「…………」


「…………」


静かな。


教室。


先生が。


こちらを。


見ている。


「…………」


え。


「水瀬さん?」


「…………!」


今。


私。


何と。


「す、すみません!」


「大丈夫ですか?」


「はい!」


「では、もう一度お願いします」


「…………」


無理です。


何も。


聞いて。


おりませんでした。


◇


午後。


いつもの。


カフェ。


井上さんとの。


会話を終え。


俺も。


仕事に。


戻る。


グラスを。


下げる。


皿を。


重ねる。


いつもの。


仕事。


いつもの。


店内。


「…………」


なのに。


今日は。


少し。


違う。


昨日。


一日。


水瀬さんと。


一緒にいた。


俺の。


大切な場所。


いつもの。


定食屋。


アーケード。


ゲームセンター。


「…………」


楽しかった。


思っていたより。


ずっと。


そして。


今朝。


また。


会った。


『また、行きましょう』


「…………」


自分から。


言った。


考えて。


用意していた。


言葉じゃない。


自然に。


出た。


また。


行きたいと。


思ったから。


「…………」


水瀬さんと。


また。


「…………」


昨日。


あれだけ。


一緒にいた。


今朝も。


会った。


それなのに。


もう。


次のことを。


考えている。


「…………」


俺。


こんなだったっけ。


手元の。


グラス。


「…………」


また。


止まっていた。


「湊」


「はい?」


「それ、いつまで持ってる」


「…………」


「あ」


グラスを。


置く。


「すみません」


「珍しいな」


「何がです?」


「お前が仕事中にぼーっとするの」


「…………」


「してました?」


「してた」


「すみません」


「別にいいけど」


マスターが。


カップを。


拭く。


「なんかあったか?」


「…………」


なんか。


「昨日」


「うん」


「出かけてたんです」


「へえ」


「…………」


それだけ。


言って。


グラスを。


片付ける。


「楽しかったか?」


「…………」


「なんでです?」


「聞いただけ」


「…………」


楽しかった。


それは。


間違いない。


「まあ」


「うん」


「楽しかったです」


「そっか」


それだけ。


言って。


マスターは。


また。


カップを。


拭く。


「…………」


何も。


聞かない。


「…………」


逆に。


話しづらい。


「マスター」


「ん?」


「クレーンゲームって」


「…………」


手が。


止まる。


「何だ、急に」


「詳しいですか?」


「まあな」


「…………」


えっ?


「何だよ」


「いや」


「聞いたのお前だろ」


「そうですけど」


「…………」


意外。


あまりにも。


意外。


「やるんですか?」


「やるよ」


「…………」


「何だ、その顔」


「すみません」


「失礼だな」


「いや、だって」


「だって?」


「…………」


想像。


できない。


「結構やるんですか?」


「まあ、たまにな」


「一人で?」


「一人で」


「…………」


さらに。


想像。


できない。


「何だよ」


「いえ」


「趣味なんて人それぞれだろ」


「それは、そうですけど」


「で?」


「はい?」


「なんで急にクレーンゲームなんだ」


「…………」


昨日。


「一緒にいた人が」


「うん」


「やってたんです」


「何を?」


「アイドルのグッズみたいな」


「へえ」


「限定らしくて」


「うん」


「三千円くらい使って」


「…………」


「取れなくて」


「結構使ったな」


「はい」


かなり。


使っていた。


「どんなやつ?」


「どんな?」


「景品」


「…………」


思い出す。


「これくらいの」


手で。


大きさを。


作る。


「四角いやつで」


「アクスタ?」


「…………」


「何ですか、それ」


「アクリルスタンド」


「…………」


知ってる。


「多分、それです」


「多分かよ」


「俺、興味ないんで」


「ふーん」


「…………」


本当に。


価値は。


分からない。


でも。


水瀬さんが。


どれだけ。


欲しかったのかは。


分かる。


「最後は?」


「はい?」


「どこまでいった?」


「出口のすぐ近くです」


「落ちそうだった?」


「多分」


「置き方は?」


「…………」


「普通です」


「普通じゃ分からん」


「俺も分からないです」


「写真は?」


「撮ってません」


「じゃあ、何とも言えんな」


「…………」


ですよね。


マスターが。


少し。


考える。


「でも」


「はい」


「三千円使ってそこまで動かしたなら」


「…………」


「やり方次第じゃ、取れたかもな」


「…………」


取れた。


かも。


「やり方って?」


「景品による」


「はい」


「掴もうとするだけじゃ取れないのも多い」


「…………」


「押したり」


「はい」


「ずらしたり」


「はい」


「引っ掛けたり」


「…………」


そんな。


やり方が。


あるのか。


「昨日、その人」


「はい」


「ずっと掴もうとしてた?」


「…………」


思い出す。


何度も。


アームを。


景品の上へ。


「多分」


「じゃあ、沼ったかもな」


「…………」


沼。


「三千円」


「まあ、勉強代だな」


「…………」


本人には。


絶対。


言えない。


「マスターなら」


「ん?」


「取れます?」


「…………」


「見ないと分からん」


「ですよね」


「でも」


「はい」


「取れそうなら取る」


「…………」


さらっと。


言った。


「そんな簡単に?」


「簡単とは言ってない」


「…………」


「ただ」


マスターが。


笑う。


「三千円使う前には、店員呼ぶ」


「…………」


「なるほど」


水瀬さん。


三千円。


全力。


投入。


店員。


ゼロ。


「…………」


「湊」


「はい?」


「今、誰か思い浮かべただろ」


「…………」


「別に」


「そうか」


「はい」


「ならいいけど」


「…………」


カップを。


拭きながら。


マスターが。


続ける。


「取りたいなら」


「…………」


「まず、見てこい」


「見る?」


「まだ残ってるかも分からないんだろ」


「はい」


「置き方も分からない」


「はい」


「だったら、見なきゃ始まらん」


「…………」


見に。


行く。


「別に」


「うん」


「俺が取りたいわけじゃないです」


「そうか」


「はい」


「じゃあ、行かなくていいな」


「…………」


「…………」


マスターが。


何事もなかったように。


カップを。


棚へ戻す。


「…………」


なんか。


腹立つ。


「何時まででしたっけ」


「何が?」


「ゲームセンター」


「知らん」


「…………」


絶対。


分かってる。


この人。


◇


午後六時。


バイトを。


終える。


店を。


出る。


「…………」


帰り道。


少しだけ。


遠回り。


する。


だけ。


アーケード。


昨日。


水瀬さんと。


歩いた道。


「…………」


ゲームセンター。


店内へ。


入る。


昨日の。


筐体。


確か。


奥。


「…………」


あった。


近づく。


「…………」


景品も。


ある。


まだ。


残っていた。


「…………」


これ。


だったよな。


水瀬さんが。


欲しがっていた。


限定。


グッズ。


筐体の。


前へ。


「…………」


そして。


気づく。


小さな。


表示。


『残り1個』


「…………」


最後の。


一個。


一昨日。


取れなくて。


何度も。


振り返っていた。


あの顔が。


ずっと。


引っかかっていた。


「…………」


◇


翌朝。


いつもの。


神社。


「おはようございます」


「おはようございます」


佐伯さんが。


石段を。


上がってくる。


「今日は少し早いですね」


「そうですか?」


「はい」


「たまたまです」


「…………」


たまたま。


いつもの。


朝。


『また、行きましょう』


そう。


言ってくれた。


佐伯さん。


「…………」


思い出すだけで。


緩む頬。


「…………」


「水瀬さん」


「はい」


「そういえば」


「はい?」


佐伯さんが。


バッグに。


手を入れる。


「これ」


小さな。


袋。


私に。


差し出される。


「…………」


「私に、ですか?」


「はい」


「何でしょう」


「開けてみてください」


「…………」


受け取る。


袋の。


中。


「…………」


え。


「…………!」


手を。


入れる。


取り出す。


「…………」


嘘。


一昨日。


あれだけ。


追いかけて。


それでも。


届かなかった。


推しの。


限定。


アクリルスタンド。


「…………」


「佐伯さん」


「はい」


「これ……」


「昨日、バイトの帰りに寄ったんです」


「…………」


「まだ残ってたんで」


「…………」


「取ってきました」


「…………」


待って。


ください。


「取ったんですか?」


「はい」


「佐伯さんが?」


「はい」


「お一人で?」


「一人ですけど」


「…………」


一昨日。


私が。


あれほど。


欲しがっていたもの。


それを。


覚えていて。


昨日。


バイトの帰りに。


一人で。


取りに行ってくれた。


「…………」


この人は。


どうして。


こう。


何でもないことの。


ように。


私の。


想像を。


越えてくるのでしょう。


「…………」


手の中。


一昨日まで。


あれほど。


欲しかった。


推し。


「…………」


なのに。


今。


見てしまうのは。


推しではなく。


目の前の。


佐伯さん。


「…………」


非常事態です。


「水瀬さん?」


「はい」


「気に入りませんでした?」


「…………!」


「違います!」


思わず。


大きな声。


「ものすごく」


「はい」


「ものすごく、嬉しいです」


「よかった」


「…………」


また。


それだけ。


「佐伯さん」


「はい」


「本当に、いただいていいんですか?」


「もちろん」


「…………」


手の中。


推し。


限定。


アクリルスタンド。


「ありがとうございます」


「はい」


「大切にします」


「そんなに?」


「そんなにです」


「…………」


佐伯さんが。


笑う。


「じゃあ、取ってよかったです」


「…………」


取って。


よかった。


「…………」


いけません。


また。


頬が。


「…………」


「水瀬さん」


「はい」


「今日、なんかずっと笑ってません?」


「…………」


「気のせいです」


「そうですか?」


「そうです」


「…………」


気のせいでは。


ありません。


『また、行きましょう』


そして。


手の中の。


プレゼント。


「…………」


今日は。


朝から。


供給が。


多すぎます。


「じゃあ、俺そろそろ行きます」


「はい」


佐伯さんが。


石段へ。


向かう。


「あ」


「はい?」


「佐伯さん」


「何ですか?」


「…………」


もう一度。


手の中を見る。


「本当に」


「はい」


「ありがとうございます」


「…………」


「すごく、嬉しいです」


「…………」


佐伯さんが。


少し。


目を。


逸らした。


「なら」


「はい」


「よかったです」


「…………」


今度は。


佐伯さんの。


頬が。


少し。


緩んだ。


「じゃあ、また明日」


「はい」


「また明日」


石段を。


下りていく。


その背中。


見えなくなるまで。


見送る。


「…………」


手の中。


推し。


目で。


追うのは。


佐伯さん。


「…………」


やはり。


非常事態です。


◇


恋愛経験ゼロ。


妄想の中では恋愛無双。


一度は。


諦めた。


だからこそ。


余計に……。


でも。


今。


想うのは。


手の中ではなく。


視線の先でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。