脳内崩壊
朝食。
「…………」
『続いては、仙台のおすすめスポットをご紹介!』
テレビから。
聞こえた声に。
箸が。
止まる。
「…………」
おすすめ。
スポット。
『まずやってきたのは――』
画面を。
見る。
「…………」
ここ。
「いろは」
「…………」
佐伯さんと。
二人で。
「いろは」
「…………」
でも。
初めて。
二人で。
行く場所としては。
「いろは」
「はい!」
「箸、止まってるぞ」
「…………」
お父様。
「すみません」
「珍しいわね」
母が。
テレビを見る。
「そんなに気になる?」
「地元の情報ですので」
「何を今さら」
「…………」
ごもっともです。
『こちらはカップルにも人気で――』
「…………!」
カップル。
画面を。
もう一度。
見る。
「いろは」
「…………」
「また止まってるぞ」
「食べています」
「止まってるじゃない」
「今から食べます」
「…………」
ご飯を。
口へ運ぶ。
テレビでは。
楽しそうに。
街を歩く。
二人。
「…………」
昨日までなら。
何も。
思わなかった。
でも。
今は。
違う。
『行きたいところ、考えておいてください』
「…………」
行きたいところ。
◇
考えて。
みれば。
あります。
たくさん。
水族館。
行きたいです。
映画館。
行きたいです。
遊園地。
もちろん。
行きたいです。
動物園。
買い物。
カフェ。
「…………」
佐伯さんと。
一緒なら。
きっと。
どこでも。
楽しい。
だからこそ。
困るのです。
初めて。
二人で。
出かける場所。
その。
最初の一つ。
「…………」
どこを。
選べば。
いいのでしょう。
全部。
一緒に。
行きたいのに。
◇
「いろは」
「…………」
水族館。
「いろは?」
「…………」
映画館。
「いろは!」
「はい!」
顔を。
上げる。
「やっと気づいた」
「小宮さん」
「さっきから何してんの?」
「何も」
「嘘」
「…………」
大学。
講義が。
始まる前。
机の上には。
ノート。
その端に。
水族館。
映画館。
遊園地。
動物園。
買い物。
カフェ。
「…………」
小宮さんが。
覗き込む。
「何これ」
「見ないでください」
ノートを。
閉じる。
「デート?」
「違います」
「早っ」
「お詫びです」
「…………」
小宮さんが。
私を見る。
「お詫び?」
「はい」
「何の?」
「それは……」
「…………」
説明するには。
少々。
複雑です。
推し。
嫉妬。
メッセージ。
来なかった。
寂しかった。
そして。
お詫び。
「…………」
無理です。
「色々です」
「何それ」
「色々、あったのです」
「ふーん」
「…………」
なぜ。
少し。
楽しそうなのでしょう。
「で、そのお詫びで」
「はい」
「二人で出かけるの?」
「…………」
二人で。
「はい」
「デートじゃん」
「違います」
「何が?」
「お詫びです」
「二人で?」
「はい」
「男と女で?」
「…………」
「いろは?」
「お詫びです」
「押し切る気だ」
「事実です」
「じゃあ、どこ行くの?」
「…………」
それが。
分かれば。
苦労は。
していません。
「まだ決まってないの?」
「はい」
「行きたいとこないの?」
「あります」
「じゃあ、そこ行けばいいじゃん」
「全部です」
「…………」
「全部?」
「水族館も」
「うん」
「映画館も」
「うん」
「遊園地も」
「うん」
「動物園も」
「うん」
「買い物も」
「うん」
「カフェも」
「…………」
小宮さんが。
私を見る。
「全部行きたいの?」
「…………」
考える。
水族館。
佐伯さんと。
映画館。
佐伯さんと。
遊園地。
佐伯さんと。
「…………」
「はい」
「じゃあ、全部行けば?」
「一日で、ですか?」
「なんで一日で行くの」
「…………」
え。
「次、水族館」
「…………」
「その次、映画」
「…………」
「その次、遊園地」
「…………」
次。
その次。
さらに。
その次。
「…………」
「いろは?」
「少々お待ちください」
「また?」
私は。
なぜ。
一度で。
終わると。
思っていたのでしょう。
「何回でも行けばいいじゃん」
「…………」
何回でも。
「顔赤いよ」
「赤くありません」
「赤いって」
「気のせいです」
「ふーん」
「…………」
小宮さんが。
笑っている。
絶対に。
楽しんでいます。
「でも」
「はい?」
「最初は一回しかないです」
「…………」
「初めて二人で出かける場所は」
一つだけ。
だから。
悩んでいるのです。
「やっぱデートじゃん」
「お詫びです」
「はいはい」
「小宮さん」
「分かったって」
「分かっていません」
「めんどくさ」
「なっ……!」
「授業始まるよ」
「…………」
逃げました。
やはり。
相談相手を。
間違えたかもしれません。
◇
大学の。
帰り。
「…………」
本屋。
別に。
最初から。
来るつもりだったわけでは。
ありません。
ただ。
通りかかっただけです。
「…………」
その。
はずでした。
目の前。
並んでいる。
情報誌。
仙台。
おでかけ。
休日。
最新スポット。
そして。
「…………」
デート。
「…………」
参考資料。
です。
あくまで。
参考資料。
一冊。
手に取る。
ページを。
めくる。
『王道デートなら――』
「…………」
水族館。
やはり。
定番。
大きな。
水槽。
青い光。
佐伯さんと。
並んで。
「…………」
いけません。
次。
『雨の日にもおすすめ!』
映画館。
「…………」
暗い。
隣。
近い。
同じ。
ポップコーン。
伸びる。
手。
触れる。
指先。
「…………!」
次。
『一日楽しめる定番スポット』
遊園地。
「…………」
観覧車。
二人。
密室。
頂上。
『水瀬さん』
『はい』
『俺――』
「…………!」
閉じる。
「…………」
危険です。
どこも。
危険です。
「…………」
いえ。
違います。
行きたくない。
わけでは。
ありません。
むしろ。
行きたい。
全部。
行きたい。
だから。
困っているのです。
「…………」
別の。
情報誌。
開く。
動物園。
カフェ。
ショッピング。
公園。
「…………」
こちらも。
いい。
戻る。
最初の。
情報誌。
「…………」
やはり。
水族館。
でも。
映画館も。
捨てがたい。
「…………」
もう一度。
別の本。
「…………」
決まりません。
気づけば。
同じ。
二冊を。
行ったり。
来たり。
していました。
「…………」
ふと。
顔を上げる。
少し。
離れたところ。
店員さん。
「…………」
目が。
合う。
「…………」
軽く。
頭を下げられる。
私も。
頭を下げる。
「…………」
もしかして。
迷惑。
でしょうか。
さっきから。
ずっと。
立ち読み。
しています。
しかも。
同じページを。
何度も。
「…………」
店員さんが。
こちらを。
見ている。
ような。
気がします。
「…………」
気のせい。
でしょうか。
もう一度。
情報誌を見る。
「…………」
買います。
参考資料。
なのですから。
必要経費です。
一冊を。
手に取り。
レジへ。
向かう。
「…………」
まさか。
初めて。
二人で。
出かけるだけで。
情報誌まで。
買うことに。
なるとは。
思いませんでした。
◇
本屋を。
出て。
少し。
歩く。
「…………」
カフェ。
窓際の。
席。
テーブルには。
先ほど。
購入した。
情報誌。
「…………」
コーヒーを。
一口。
ページを。
開く。
水族館。
映画館。
遊園地。
動物園。
「…………」
やはり。
決まりません。
情報が。
足りないのでしょうか。
「…………」
いえ。
情報誌は。
十分。
詳しいです。
では。
何が。
足りない。
「…………」
実例。
ふと。
顔を上げる。
斜め前。
男女。
二人。
「…………」
カップル。
でしょうか。
楽しそうに。
話しています。
「…………」
これは。
参考になるかも。
しれません。
「…………」
いえ。
盗み聞きでは。
ありません。
たまたま。
聞こえてくる。
会話を。
参考にするだけです。
『このあと、どうする?』
「…………!」
来ました。
知りたい。
情報。
まさに。
それです。
『んー、どうしよっか』
「…………」
『もうちょっとここいる?』
『うん』
「…………」
終わり?
『これ、一口食べる?』
『食べる』
『はい』
『おいしい?』
『おいしい』
「…………」
そうでは。
ありません。
私が。
知りたいのは。
そこでは。
ありません。
「…………」
別の。
席。
男女。
二人。
こちらも。
おそらく。
カップル。
『このあと、どっか行く?』
「…………!」
今度こそ。
『どこでもいいよ』
「…………」
『じゃあ、適当に歩こっか』
『いいよ』
「…………」
なぜ。
決めないのですか。
「…………」
こちらは。
朝から。
ずっと。
悩んでいるのですよ。
「…………」
いけません。
勝手に。
腹を立てては。
コーヒーを。
一口。
飲む。
「…………」
もう少しだけ。
『今日ずっと一緒にいたい』
『私も』
「…………」
場所。
『次いつ会える?』
『来週かな』
『長い』
『私も』
「…………」
場所を。
『手、冷たい』
『ほんとだ』
『温めて』
「…………」
場所を。
教えてください。
「…………」
情報誌を。
閉じる。
参考に。
なりません。
まったく。
なりません。
「…………」
世の中の。
カップルは。
行き先について。
もう少し。
真剣に。
話し合うべきでは。
ないでしょうか。
「…………」
いえ。
余計な。
お世話です。
そもそも。
私は。
何を。
しているのでしょう。
本屋で。
情報誌を買い。
カフェで。
知らない人たちの。
会話に。
耳を澄ませ。
「…………」
ただ。
佐伯さんと。
初めて。
二人で。
出かける場所を。
決めたい。
それだけ。
なのですが。
「…………」
コーヒーを。
飲み切る。
結局。
答えは。
見つかりませんでした。
◇
夜。
「…………」
湯船に。
浸かる。
今日。
一日。
考えました。
朝。
テレビ。
大学で。
小宮さん。
帰りに。
本屋。
そして。
カフェ。
「…………」
情報誌まで。
買いました。
知らない。
カップルの。
会話まで。
参考にしました。
「…………」
それなのに。
決まっていません。
水族館。
映画館。
遊園地。
動物園。
買い物。
カフェ。
「…………」
どこも。
行きたい。
「…………」
佐伯さんと。
「…………」
お湯に。
少しだけ。
深く。
沈む。
考えてみれば。
おかしな話です。
今まで。
水族館に。
行きたいと。
ここまで。
思ったことは。
ありません。
映画館も。
遊園地も。
同じ。
「…………」
なのに。
佐伯さんと。
二人で。
そう考えると。
全部。
行きたくなる。
「…………」
もしかして。
大切なのは。
どこへ。
行くかでは。
なく。
誰と。
行くか。
なのでしょうか。
「…………」
誰と。
「…………」
佐伯さんと。
「…………!」
顔が。
熱い。
「…………」
お風呂です。
お湯が。
熱いだけです。
「…………」
きっと。
そうです。
ですが。
それなら。
なおさら。
困ります。
どこでも。
いいのなら。
どこを。
選べば。
いいのでしょう。
「…………」
初めて。
二人で。
出かける。
その。
最初の場所。
一度しか。
ない。
最初。
「…………」
どうせなら。
特別な。
場所に。
したい。
「…………」
特別。
「…………」
何を。
考えているのでしょう。
これは。
お詫びです。
デートでは。
ありません。
「…………」
お詫び。
「…………」
なのに。
どうして。
私は。
こんなにも。
楽しみに。
しているのでしょう。
◇
翌朝。
いつもの。
境内。
「おはようございます」
「おはようございます」
佐伯さんが。
走ってくる。
「…………」
昨日。
一日。
考えました。
朝から。
夜まで。
考えました。
それでも。
答えは。
出ませんでした。
「水瀬さん」
「はい」
「行きたいところ」
「…………」
来ました。
「決まりました?」
「…………」
正直に。
言うしか。
ありません。
「すみません」
「はい?」
「まだ」
「…………」
「決められていません」
「そうですか」
「明日まで」
「え?」
「明日まで、お時間をいただけませんか」
「…………」
佐伯さんが。
少し。
目を丸くする。
「そんなに悩んでるんですか?」
「…………」
情報誌まで。
買いました。
カップルの。
会話まで。
聞きました。
「少し」
「それ、少しですか?」
「…………」
なぜ。
分かったのでしょう。
「でも」
「はい」
「そんなに悩むなら」
佐伯さんが。
少しだけ。
考える。
「もしよければ」
「はい」
「俺に、付き合ってほしい場所があるんですけど」
「…………」
付き合って。
「…………」
付き合って。
ほしい。
「…………!」
「水瀬さん?」
「少々お待ちください」
「はい?」
違います。
場所。
場所が。
ついています。
「…………」
危険でした。
場所を。
消すところでした。
「どちらですか?」
「それは」
「はい」
「行ってからでもいいですか?」
「…………」
行ってから。
「遠い場所でしょうか」
「そんなに遠くないです」
「何か、準備は?」
「特には」
「服装は?」
「普通で大丈夫ですよ」
「…………」
普通。
また。
新たな。
難題が。
増えました。
「じゃあ」
佐伯さんが。
スマホを。
取り出す。
「いつにします?」
「土曜日なら」
「俺も大丈夫です」
「…………」
決まりました。
「待ち合わせ、駅でいいですか?」
「はい」
「十時くらいで」
「はい」
「じゃあ、土曜日」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「…………」
佐伯さんが。
走り出す。
その背中を。
見送る。
土曜日。
十時。
駅。
二人。
行き先は。
まだ。
知りません。
◇
恋愛経験ゼロ。
妄想の中では恋愛無双。
悩んだ結果。
全ての先に。
あなたを。
見過ぎてしまい。
出せなかった。
答え。
でも。
あなたの選んだ。
その場所へ。
ついて行きたい。




