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外側からの景色

甘酒を手に。


佐伯さんと、

石段を少し下りる。


途中。


少しだけ、

開けた場所。


「ここ、座れそうですね」


「はい」


並んで、

腰を下ろす。


「…………」


境内から。


少しだけ、

離れた場所。


そこから見えるのは。


行き交う人たち。


楽しそうに走る、

子どもたち。


並んだ出店。


聞こえてくる、

たくさんの声。


「…………」


不思議です。


毎年、

見てきたはずなのに。


ここから見ると。


少しだけ、

違う場所のように見える。


「水瀬さん」


「はい」


「いいですね」


「え?」


佐伯さんは。


私ではなく。


境内を、

見ていました。


「水瀬さんの神社」


「…………」


私の。


神社。


「こうやって見ると」


佐伯さんが、

甘酒を一口飲む。


「ずっと残ってほしい景色だなって」


「…………」


ずっと。


「そう、ですか」


「はい」


「来年も」


「その次も」


「こんな感じだったら、いいなって」


「…………」


私は。


もう一度、

境内を見る。


毎年。


当たり前のように、

繰り返してきた秋祭り。


変わらないと、

思っていた景色。


「…………」


でも。


来年も。


その次も。


「…………」


なぜでしょう。


今日は。


この景色を。


もう少しだけ、

見ていたいと思いました。


「水瀬さん」


「はい」


「来年も、見に来ていいですか?」


「…………」


思わず。


隣を見る。


佐伯さんは。


変わらず、

境内を見ている。


「秋祭り」


「また、見たいです」


「…………」


来年。


その言葉を。


最近。


よく聞く気がします。


十五夜の夜も。


そして、

今日も。


「はい」


私は。


もう一度、

境内へ視線を戻す。


「ぜひ」


来年も。


この景色を。


佐伯さんと。


「…………」


そこから先は。


考えないことにしました。


しばらく。


二人で、

境内を眺める。


「…………」


隣から聞こえる。


佐伯さんが、

甘酒を飲む音。


境内から聞こえる。


誰かの、

笑い声。


太鼓の音。


呼びかける声。


全部。


毎年、

聞いてきたもの。


なのに。


「…………」


今年は。


少しだけ、

違って聞こえる。


「水瀬さん」


「はい?」


「そろそろ、戻りますか?」


「…………」


境内を見る。


まだ。


もう少しだけ。


「いえ」


「もう少し」


「ここにいても、よろしいですか?」


佐伯さんが、

笑う。


「はい」


「俺も、そうしようと思ってました」


「…………」


そうして。


二人で。


もう少しだけ。


同じ景色を、

眺めていました。


◇


「いろはー」


境内の方から。


母の声が、

聞こえた。


「!」


「呼ばれてますね」


「はい」


立ち上がり。


空になったカップを、

手に持つ。


「佐伯さん」


「はい?」


「ありがとうございました」


「甘酒ですか?」


「それも、ですが」


「…………」


もう一度。


振り返る。


少し離れた場所から見る、

水瀬神社。


「ここから」


「秋祭りを見たのは、

初めてでした」


「そうなんですか?」


「はい」


「毎年」


「私は、あちら側におりますので」


境内を、

指さす。


「…………」


「今年は」


言葉が。


少しだけ、

止まる。


「違う景色を、

見ることができました」


「…………」


佐伯さんが。


同じ景色を、

見る。


「俺もです」


「え?」


「去年までは」


「この景色自体、

知らなかったんで」


「…………」


去年までは。


知らなかった景色。


今年は。


二人で、

見ている。


「じゃあ」


佐伯さんが、

立ち上がる。


「戻りましょうか」


「はい」


二人で、

石段を上る。


少しずつ。


秋祭りの音が、

近づいてくる。


「…………」


振り返れば。


先ほどまでいた場所が、

少しずつ遠くなる。


「水瀬さん?」


「いえ」


前を向く。


また。


いつもの景色の中へ。


でも。


「…………」


きっと。


来年。


ここから秋祭りを見たら。


今日のことを、

思い出すのでしょう。


隣に。


佐伯さんが、

いたことも。


境内へ戻ると。


母が、

こちらを見る。


「休めた?」


「はい」


「それはよかった」


「…………」


なぜでしょう。


母の笑顔が、

少しだけ気になります。


「佐伯さんも、ありがとう」


「いえ」


「いろはに付き合ってくれて」


「お母様」


「なに?」


「休憩です」


「そうね」


「休憩です」


「分かったわよ」


「…………」


絶対に。


分かっておりません。


佐伯さんが、

隣で笑っている。


「佐伯さんも」


「はい?」


「笑わないでください」


「すみません」


「…………」


まったく。


せっかく。


少しだけ、

特別だった景色が。


いつもの母に、

戻されてしまいました。


「じゃあ、俺」


佐伯さんが、

境内を見渡す。


「そろそろ帰ります」


「もう、ですか?」


「…………」


言ってから。


気づく。


「…………!」


もう、ですか?


私は。


今。


「水瀬さん?」


「いえ」


「何でもございません」


「…………」


何でも。


ありません。


佐伯さんが、

少しだけ笑う。


「また明日、来ますよ」


「…………」


「はい」


また明日。


いつもの言葉。


なのに。


今日は。


少しだけ。


その言葉に、

助けられました。


「では」


「はい」


佐伯さんが、

石段へ向かう。


「水瀬さん」


「はい?」


振り返って。


「今日は」


少しだけ、

境内を見る。


「来てよかったです」


「…………」


「また来年」


「…………」


「はい」


「また来年」


佐伯さんが、

石段を下りていく。


その背中を。


見送る。


「…………」


また明日。


そして。


また来年。


少し先と。


ずっと先。


どちらにも。


佐伯さんが、

いる。


◇


秋祭りが、

終わる。


境内に残った人たちも。


一人。


また一人と、

帰っていく。


「…………」


片付けをしながら。


ふと。


石段の方を見る。


もう。


佐伯さんの姿は、

ありません。


「いろは」


「はい」


「今日はお疲れさま」


お父様が、

境内を見渡す。


「今年も無事に終わったな」


「はい」


今年も。


いつもと同じ、

秋祭り。


「…………」


そのはずなのに。


私には。


今までとは、

少し違って見えました。


来年も。


その次も。


この景色が。


続いていく。


「…………」


その中に。


私は……。


恋愛経験ゼロ。

妄想の中では恋愛無双。


ずっと、

当たり前だった景色。


少し離れて、

初めて見た景色。


この先も。


きっと――。

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