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視線の先

日曜日。


「…………」


鏡を見る。


「…………」


違う。


「…………」


着替える。


もう一度、鏡を見る。


「…………」


これも……違う。


「いろはー?」


「…………」


「まだー?」


「もう少しお待ちください!」


「さっきも聞いたー」


「…………」


小宮さん……。


少しくらい待ってくれてもいいではありませんか。


「もう入るよー」


「えっ」


「失礼しまーす」


「ちょ、小宮さん!」


扉が開く。


「…………」


「何着散らかしてんの?」


「これは、その……」


「バーベキューでしょ?」


「そうですけど……」


「別になんでもよくない?」


「…………」


なんでも……。


「そういうわけにはいきません」


「なんで?」


「…………」


「佐伯さんがいるから?」


「っ!」


「…………」


「な、なぜそこで佐伯さんが出てくるのですか」


「誘ってきたの、佐伯さんなんでしょ?」


「それは……そうですが」


「じゃあ合ってるじゃん」


「…………」


「で?」


「何がですか」


「どれ着てくの?」


「…………」


それが決まらないから、


困っているのです。


「じゃあ、これ」


「えっ」


「これ着て」


「…………」


小宮さんが一着を手渡してくる。


「これですか?」


「うん」


「…………」


「何、その顔」


「いえ……」


「嫌?」


「嫌ではありませんが……」


「じゃあ決まり」


「そんな簡単に……」


「簡単でいいの」


「…………」


「どうせ佐伯さん、何着てても――」


「小宮さん」


「はいはい」


「…………」


まったく……。


「ほら、早く着替えて」


「分かりました」


「佐伯さん待ってるよ」


「っ!」


「ふふっ」


「…………」


やはり。


小宮さんを誘ったのは、


間違いだったかもしれません。



     ◇



「では、行ってきます」


「お邪魔しました」


「二人とも、気をつけてね」


「はい」


「ありがとうございます」


「…………」


母が私を見る。


「いろは」


「はい?」


「よく似合ってるわよ」


「……ありがとうございます」


「ほんと、可愛いですよね」


「小宮さん……」


「佐伯さんもびっくりするんじゃない?」


「っ!?」


「…………」


「小宮さん!」


「あ」


「…………」


母を見る。


「…………」


母も私を見る。


「……佐伯さん?」


「…………」


「どなた?」


「…………」


「えっと……」


「小宮さん」


「ごめん」


「…………」


「朝、よく来てる方?」


「っ!」


「…………」


なぜ。


それだけで分かるのですか。


「行ってまいります!」


「あら、いろは」


「小宮さん、行きますよ!」


「はいはい」


「ふふっ」


「…………」



     ◇



「佐伯」


「はい?」


「炭、足りないぞ」


「今持ってきます」


「あと椅子も出しとけ」


「はいはい」


「返事は一回」


「はい」


「…………」


なんで俺が働いてるんだ。


「主役だからな」


「主役が一番働いてますけど」


「そういうもんだ」


「…………」


絶対違う。


「そういや、友達何人来るんだっけ?」


「二人です」


「女の子?」


「はい」


「…………」


「お前、意外とやる事やってんな」


「…………」



     ◇



「佐伯さん……」


「…………」


聞き慣れた声。


振り返る。


「お待たせしました」


「…………」


水瀬さん……。


「こんにちは」


「あ、こんにちは」


「…………」


いつもの巫女装束じゃない。


「…………」


私服……。


「佐伯さん?」


「あ、いや……」


「?」


「…………」


可愛い……。


「…………」


「こちら、友人の小宮結衣です」


「小宮さん……あぁ、前一緒に店に来てくれた。改めまして、佐伯です」


「こんにちは。いろはから色々お話は聞いてます」


「え?」


「こ、小宮さん!」


「何?」


「余計なことは言わなくて結構です」


「まだ何も言ってないけど?」


「…………」


小宮さんを誘ったのは、


間違いだったでしょうか……。


「じゃあ、こっちです」


「はい」


「…………」


「佐伯」


「はい?」


「その二人か?」


「あ、はい」


「…………」


マスターがこちらを見る。


「初めまして。水瀬いろはと申します。本日はお招きいただきありがとうございます」


「小宮結衣です」


「どうも。いつも佐伯がお世話になってます」


「なんでマスターが言うんですか」


「保護者だからな」


「いつから俺の保護者になったんですか」


「採用した日から」


「…………」


「ふふっ」


「…………」


水瀬さんが笑っている。


「佐伯、何してる」


「え?」


「肉焼け」


「俺、今日の主役ですよね?」


「そういうもんだ」


「…………」



     ◇



「焼けたぞー」


「いただきます」


「いただきます」


「佐伯、肉」


「はい」


「野菜も焼け」


「はい」


「飲み物」


「自分で取ってください」


「…………」


「佐伯」


「嫌です」


「まだ何も言ってないぞ」


「どうせ何かやらせる気でしょ」


「成長したな」


「誰のせいですか」


「ふふっ」


「マスターと佐伯くん、いつもこんな感じなの?」


「大体こんな感じです」


「仲いいんだね」


「どこを見たらそうなるんですか」


「ね、いろは。仲良しだよね?」


「はい。とても」


「水瀬さんまで……」


「ふふっ」


「…………」


よく笑うな。


「…………」


神社では、


あまり見たことなかったかも。


「いろは、これ食べる?」


「いただきます」


「はい」


「ありがとうございます」


「…………」


「あっ」


「ん?」


「小宮さん、それ……」


「これ?」


「私が育てていたお肉です」


「…………」


「肉、育ててたの?」


「焼いていたという意味です」


「じゃあ、いただきます」


「あっ」


「おいしい」


「…………」


「小宮さん」


「何?」


「私、そのお肉ずっと見守っていたのですが」


「同じじゃん」


「…………」


「ふふっ」


「…………」


水瀬さんが、


少し頬を膨らませている。


「…………」


こんな顔もするんだ。


「…………」


神社では、


見たことなかったな。



     ◇



「佐伯さん」


「はい?」


「何かお手伝いさせてください」


「え?」


「先ほどから、ずっと焼いていらっしゃるので」


「ああ……」


「俺は大丈夫ですよ」


「ですが……」


「水瀬さんは食べててください」


「…………」


「せっかく来てくれたんですから」


「…………」


「では……」


「はい」


「佐伯さんも、ちゃんと食べてくださいね」


「え?」


「先ほどから、ほとんど召し上がっていません」


「…………」


見てくれてたんだ。


なんか、嬉しいな。


「…………」


「分かりました」


「ふふっ」


「…………」


水瀬さんが戻っていく。


「…………」


俺も、


いつの間にか、目で追ってる……。


「…………」


水瀬さんのこと。


「佐伯くん?」


「っ、小宮さん……な、何?」


「いや、こっち見てたから」


「…………」


「あ、いや……」


「?」


「食べてるかなって」


「みんな食べてるよ」


「そっか、ならよかった」


「…………」


小宮さんの視線が俺を逃さない。


「…………」


なんなんだ?


「いろは」


「はい?」


「飲み物取ってこよ」


「あ、はい」


二人が歩いていく。


「…………」


小宮さんの視線がまた一瞬俺に。


「…………」


なんだろう……。



     ◇



「いろは」


「はい?」


「佐伯くんさ」


「佐伯さんが、どうかしましたか?」


「…………」


「あ、いや」


「?」


「なんでもない」


「…………」


「何ですか、それ」


「ふふっ」


「小宮さん?」


「飲み物、何にする?」


「…………」


なんなのでしょう……。



     ◇



「そろそろ腹いっぱいだな」


「マスター、あれ出してもいいですか?」


「あれ?」


「水瀬さんが持ってきてくれたフルーツです」


「おお、忘れてた」


保冷バッグを開ける。


「…………」


「水瀬さん」


「はい?」


「これ、出しますね」


「あ、佐伯さん。少しは休んでいてください」


水瀬さんが俺からフルーツを受け取る。


「…………」


ん?


「…………」


今、一瞬……。


「…………」


ふわりと、


柔らかい香りがした。


「…………」


水瀬さん……?


「佐伯さんもいかがですか?」


「っ」


「?」


「い、いただきます……」


「どうぞ」


「…………」


冷たい。


「…………」


なんか……


少し落ち着いた。


「ふふっ」


「…………」


「何かありましたか?」


「いや……」


「?」


「水瀬さんの手作りフルーツ、美味しくて」


「…………」


「冷やしただけですが……」


「…………」


少し、むすっとしてる。


「…………」


こんな顔も……


「…………」


可愛いな。


「…………」


佐伯さん。


「…………」


先ほどから、


よくこちらを見ているような……。


「…………」


気のせいでしょうか。


「…………」


ちらりと、佐伯さんを見る。


「…………」


目が合う。


「っ」


「…………」


佐伯さんが目を逸らす。


「…………」


やはり……。


「…………」


いえ。


「…………」


私が見ているから、


そう感じるだけでしょうか……。



     ◇



「そろそろ片付けるぞー」


「もうこんな時間か」


「楽しかったね」


「はい」


「…………」


楽しかった……。


「…………」


思っていたより、


ずっと。


「水瀬さん」


「はい?」


「今日は来てくれて、ありがとうございました」


「いえ。こちらこそ、お招きいただきありがとうございました」


「…………」


「楽しかったです」


「本当ですか?」


「はい」


「…………」


佐伯さんが笑う。


「…………」


また。


「…………」


目が合った。


「…………」


やはり、


よく目が合うような……。


「…………」


いえ。


「…………」


私が、


佐伯さんを見ているから……?


「…………」



     ◇



「今日はありがとうございました」


「こちらこそ、来てくれてありがとうございました」


「楽しかったです」


「俺もです」


「…………」


「じゃあ、いろは。行こっか」


「はい」


「小宮さんも、ありがとうございました」


「こちらこそ。ごちそうさまでした」


「…………」


「では、佐伯さん」


「はい」


「また明日」


「…………」


また明日。


「はい。また明日」


「…………」


二人が歩いていく。


「…………」


水瀬さんが振り返る。


「…………」


目が合う。


「…………」


小さく会釈して、


また歩き出す。


「…………」


また、


目が合った。


「…………」


「佐伯」


「っ」


「何いつまでも見てんだ」


「…………」


「片付けるぞ」


「……はい」


「…………」


また見てた……。



     ◇



「楽しかったね」


「はい」


「いろは、結構食べてたし」


「…………」


「小宮さんが私のお肉を取るからです」


「まだ言ってる」


「ずっと見守っていたのですよ?」


「はいはい」


「…………」


「でも、来てよかったでしょ?」


「…………」


「はい」


「…………」


楽しかった。


「…………」


本当に。


「…………」


「いろは」


「はい?」


「佐伯くんのこと、結構見てたね」


「っ!?」


「…………」


「な、何をおっしゃっているのですか」


「見てたじゃん」


「それは……」


「…………」


私が、


佐伯さんを見ているから……?


「…………」


「別に、深い意味はありません」


「ふーん」


「…………」


「何ですか」


「何も?」


「…………」


小宮さんは、


やはり誘うべきではなかったかもしれません。



     ◇



恋愛経験ゼロ。


妄想の中では恋愛無双。


現実の世界でも


何度も目が合った。


私が見すぎていただけでしょうか。

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