お祝いの一服。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
佐伯さんを茶室へ通す。
「…………」
私も中へ入り、襖を閉める。
「…………」
二人きり。
「…………」
えっ。
二人きり……?
「水瀬さん?」
「っ!」
「どうしました?」
「い、いえ……」
「…………」
落ち着いて。
お茶。
そうです。
お茶を飲むだけ。
「…………」
いつも通りにすればいい。
「…………」
いつも……?
佐伯さんと二人でお茶なんて。
いつも通りも何もない。
「少々、お待ちください」
「はい」
「…………」
お茶を点て、小さな皿を添える。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「…………」
「これ……なんですか?」
「水無月です」
「みなづき?」
「六月にいただく和菓子です」
「へぇ……」
「…………」
佐伯さんが、水無月を一口食べる。
「……うまい」
「ふふっ」
「……?」
「私のおすすめです」
「そうなんですね」
「はい」
「…………」
「以前、佐伯さんにおすすめをいただきましたから」
「……あ」
「今度は、私からです」
「…………」
「ありがとうございます」
「はい」
「…………」
佐伯さんが、もう一口。
「…………」
「やっと、就活から解放されます」
「本当に、お疲れさまでした」
「長かった……」
「ふふっ」
「…………」
「落ち着きますね、ここ」
「はい。私も心を整えたい時に、ここでお茶を点てているんです」
「整える?」
「はい。最近……前より、ここにいる時間が増えたような気がします……」
「そうなんですね」
「はい」
「…………」
「いい場所ですね」
「ありがとうございます」
「…………」
「じゃあ、そろそろ」
「はい」
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ」
「…………」
「また明日」
「はい。また明日」
◇
翌朝。
いつもの時間。
いつものランニングウェア。
「…………」
家を出る。
いつもの道を走る。
「…………」
水瀬神社へ。
「…………」
いつもの石段が見えてきた。
「…………」
あれ?
「…………」
待てよ。
「…………」
俺、今日……何を祈るんだ?
◇
境内を掃く。
「…………」
ふと、石段へ目を向ける。
「…………」
いつもの時間。
「…………」
あれ……?
「…………」
そういえば。
もう、就職祈願は……。
「…………」
内定が決まった。
ということは――
「…………」
「もう……来ない?」
「…………」
口に出してから、気づいた。
「…………」
私、今……。
「…………」
石段へ目を向ける。
「…………」
「あ……」
見慣れた姿が、石段を上ってくる。
「…………」
いた。




