良かった。
いつもより、少し早い朝。
「…………」
まだ。
佐伯さんが来るには、早い。
「…………」
はずだった。
「はぁ……はぁ……」
「……?」
石段へ目を向ける。
「…………」
「佐伯……さん?」
「はぁ……はぁ……」
「…………」
「俺、やりました」
「…………」
「……え?」
「内定……取ったんです!」
「…………」
頭が真っ白になる。
「…………」
聞きたかったけど、怖かった……。
信じていたけど、怖かった……。
「…………」
でも、本当に……。
良かった……。
「…………」
あれ……?
私、なんで……。
「水瀬さん!?」
「…………」
「ごめんなさい……」
頬を伝う涙が邪魔で、佐伯さんの顔が見られなかった。
「水瀬さん……」
「…………」
そんなにも本気で気にしてくれていたんだ。
「…………」
「水瀬さん、俺……」
「わかってます……」
「…………」
涙を拭う。
「本当に……良かったです」
「…………」
「ありがとうございます」
「……え?」
「あの日から、ずっと応援してくれたから」
「…………」
「だいぶ背中押されました」
「…………」
私が……。
佐伯さんの背中を……。
「…………」
「それなら……良かったです」
「…………」
「あの……少し、お時間よろしいでしょうか?」
「えっ?」
「…………」
「お茶でも……いかがですか?」
「お茶……?」
「…………」
え?
私、今……。
「いいんですか?」
「…………」
「は、はい……」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「…………」
本当に誘ってしまった……。
「…………」
「こちらです……」
佐伯さんを茶室へ招く。
「…………」
恋愛経験ゼロ。
妄想の中では恋愛無双。
何度も経験してきたはずなのに。
現実の世界では――
初めて、私から誘った。




