↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/76

まだ。

二日目。


いつもの朝。


「おはようございます」


「おはようございます」


「…………」


佐伯さんは、何も言わずに参拝を済ませる。


「…………」


聞く?


聞かない?


「…………」


聞きたい。


「まだです」


「……え?」


思わず顔を上げた。


佐伯さんが、こちらを見ている。


「結果」


「まだ来てません」


「…………」


「何も聞いておりませんが」


「顔に書いてあったので」


「…………」


「全く書いておりません」


「たくさん書いてありました」


「…………」


『いろは、最近わかりやすくなったね……』


結衣の言葉が、頭に浮かぶ。


「…………」


そんなに。


分かりやすいのでしょうか。


いつから……。


そうなってしまったのだろう。


「来たら、必ず伝えます」


「……え?」


「結果」


「…………」


「だから、そんなに気にしなくても大丈夫です」


「……はい」


◇


三日目。


まだ。


四日目。


まだ。まだ。


五日目。


まだ。まだ。まだ。


六日目。


まだ。まだ。まだ……まだ?


そして。


七日目。


◇


「佐伯」


「はい」


名前を呼ばれ、顔を上げる。


「これ、後ろ回して」


「あ、はい」


大学の講義室。


前から回ってきたプリントを受け取り、一枚だけ抜いて後ろへ渡す。


「…………」


今日で、一週間。


◇


「いらっしゃいませ」


夕方。


いつもの喫茶店。


「湊」


「はい?」


カウンターの向こうから、マスターがこちらを見る。


「例の結果、どうだった?」


「まだです」


「今日くらいじゃなかったか?」


「たぶん」


「そっか」


「…………」


「ダメなら、うちに就職しろ」


「……え?」


「アットホームな環境。年一、社員旅行。どうだ?」


「妥協……したくないんで」


「失礼だな。こんなやつバイト採用したの誰だ」


「……確か、マスター」


「だな、見る目あるだろう?」


「…………」


アットホーム……だな。


◇


「お疲れさまでした」


「おう、お疲れ」


店を出る。


「…………」


一週間……。


結局、何もなかった。


明日か。


それとも――。


「…………」


考えても仕方ない。


夜道を歩き、アパートへ向かった。


◇


アパートに着き、郵便受けを開ける。


「…………」


何通かの郵便物を取り出す。


玄関の鍵を開ける。


「ただいま」


「…………」


返事はない。


それでも、つい言ってしまう。


もう、習慣だ。


靴を脱ぎ、郵便物をテーブルに置く。


「…………」


何気なく、一通ずつ確認する。


そして。


「…………」


手が止まった。


見覚えのある企業名。


「…………」


来た。


「…………」


何度も。


開けてきたはずなのに。


「…………」


怖い。


「…………」


息を吐く。


「……よし」


封を切り、中の紙を取り出す。


「…………」


ゆっくりと。


文字を追う。


「…………」


時が、止まった。


『採用内定』


「…………」


間違いない。


ずっと。


手にしたかった文字。


「…………」


「よし」


「…………」


ついに。


決まった。


しばらく、その文字を見つめる。


「…………」


ようやく、胸の高鳴りが静まった。


そのとき。


『良いご縁がありますように』


「…………」


静まったはずの鼓動が、また速くなる。


水瀬さん。


「…………」


スマートフォンを手に取る。


「…………」


連絡先。


知らない……。俺。


「…………」


明日になれば。


会える。


「…………」


明日……。


◇


翌朝。


「…………」


堪らず、瞼を開けた。


時計を見る。


「…………」


まだ。


早い。


「…………」


もう一度、無理矢理瞼を閉じる。


「…………」


無理だ。


行こう。


◇


いつもより、少し早い朝。


着慣れたランニングウェアで家を出る。


「…………」


走る……。


あの場所へ。


「…………」


今日はなぜか、制御が効かない。


まるで……短距離のペースだ。


「っ……!」


靴紐がほどけてるじゃないか。


「……クソ」


足を止め、しゃがみ込む。


えっ。


結べない。


「…………」


こんな時に……。


指が、震えている。


「…………」


どうにか靴紐を結び直す。


止まった時間を取り返すように、走る。


心臓が張り裂けそうになった、その時。


石段が見えた。


「はぁ……はぁ……」


もう限界だ……。


一段。


とっくに……。


一段。


それでも。


もう止まれない。


「…………」


最後の一段を上る。


「はぁ……はぁ……」


顔を上げた。


「…………」


いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。