信じて、待つ
翌朝。
いろはは境内を掃いていた。
「…………」
箒を動かしながら。
時折、石段のほうへ目を向ける。
「…………」
まだ。
いない。
「…………」
昨日の面接。
無事、話せたでしょうか。
「…………」
そのとき。
「おはようございます」
「…………!」
顔を上げる。
石段を上ってきたのは。
いつものランニングウェア姿の佐伯さん。
「おはようございます」
「おはようございます」
「…………」
来た。
「…………」
いろはは箒を持ち直す。
「昨日は……」
「面接、どうでしたか?」
「うん……。」
佐伯さんが、ゆっくりと私の目を見た。
「言いたいことは、伝えられたと思います」
「…………」
よかった……。
「水瀬さんのお守り……効きました」
「私の……?」
「はい」
佐伯さんは胸元に手を添えた。
「面接の前に触ったら不思議と落ち着いて……。背中押されました」
「…………」
まだ。
持っていてくれている。
「まだ、持っていてもいいですか?」
「はい、きっと良い結果が出ると思います」
「ありがとうございます」
「…………」
結果……。
まだ、終わったわけではない。
「…………」
「いつ頃、分かるのですか?」
「たぶん、一週間くらいだと思います」
「一週間……」
「はい」
「…………」
一週間。
長い……。
「水瀬さん?」
「い、いえ」
「…………」
知りたい……。
でも。
怖い。
◇
大学。
「はぁ〜っ……」
今日、何回目だろう。
深いため息をつきながら、また窓の外を眺める。
「…………」
まだ、朝に聞いたばかり。
「一週間……。」
「はぁ……」
「いろは」
「…………」
「いろはってば」
「……はい?」
「さっきから、ため息ばっかり」
「…………」
「で?」
「……何でしょう」
「一週間って何?」
「…………!」
声に出てた?
「…………」
結衣の視線が、私の瞳を逃さない。
「な、何のことでしょうか?」
「佐伯さんね」
「…………」
「やっぱり」
こうなると、結衣からは逃げられない。
「昨日、最終面接だったんです」
「そっか」
「…………」
今朝の佐伯さんを思い出す。
胸元に添えられた手。
そこにある、私のお守り。
「言いたいことは、伝えられたそうです」
「じゃあ、結果が出るまでの期間のことね。いろはさ――」
「巫女としてです」
結衣の言葉を遮るように返した。
「はいはい」
「無論です」
「分かった分かった」
「…………」
絶対に。
疑っている。
「でも、よかったね」
「……何がですか?」
「佐伯さん。ちゃんと面接、終わったんでしょ?」
「はい」
「なら今はいろはが心配しても仕方ないじゃん」
「…………」
ぐっ……確かに……。
「結果が出るまでは、待つしかないよ」
「…………」
気づいている。
本当は。
気づいているけど……。
「良い結果だといいね」
「うん」
「…………」
もちろん、良い結果だと信じている。
でも……。
もし。
また……。
「…………」
そうなったら、佐伯さんは。
どんな顔をするのでしょう。
「…………」
いや。
信じて……。
待つ。
窓の外を見る。
朝と変わらない空。
「…………」
一週間。
まだ。
始まったばかり。
◇
恋愛経験ゼロ。
妄想の中では恋愛無双。
妄想の恋なら。
待つ時間なんて、いくらでも飛ばせる。
けれど現実は……。
一日ずつ。
信じて、待っている。




