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過去の目撃者 ―The Watchers of Yesterday―  作者: 柴犬ちゃすけ


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第七章 深淵からの目撃者

 月に到着しオヤジが秋元に言った。

「月のとある地点の、とあるってのはどこなんだ?」

「それがそのー、えっとどこだっけかな?」

 月と言ってもかなり表面積は大きい。数ある太陽系の衛星の中でも大きい方の星なので、さすがにしらみ潰しに探すなんてことは出来ない。「太平洋に一万円札を落としたから探せ」と言っているくらい無謀だ。

 秋元は、斜め上を見たりしながらブツブツと呟いている。

「地球から絶対に見えない場所って、どこかになかったっけ?」

 秋元の問いに、オヤジは

「月なんて同じ面しか見せていないので、半分みえないだろう。だとしても巨大な表面積だぞ」

 と首を傾げていたが、シュウはなんとなく、その場所に心当たりがあった。

「父さんと来た時に、永久影と呼ばれる、常に日陰になる場所を案内してもらった記憶がある。確か月の南極付近にあるはずだけど」

 シュウがそう言うと、秋元は目を丸くした。

「それだ、思い出した。その影に隠したんだった」

 自分が今まで地球の南極基地に監禁されていて、望遠鏡を隠した場所は月の南極なんてわかりやすいことを、この人は忘れてしまうのか?恐るべし五十代。

 しかし、オヤジらしからぬ鋭い突っ込みが炸裂した。

「違うだろう。動いているところに飛ばすと忘れてしまうので両極のどちらかならすぐ発見出来るって魂胆だろう。今必死で思い出そうとしていたのは、永久影は北だったか南だったかを忘れていたとかって落ちだろうに」

 なるほど。両極は自転していても動くことはないからな。言われるまで気付かなかった。

 それにしても、今までのオヤジと違って、秋元の前だとなんかしっかりしている気がする。

 地表温度零下二百三十八度という月の南極付近の大クレーター内、ここが永久影だ。しかし、そこに望遠鏡はなかった。

「ばれて、取られてしまったか?」

 シュウは不安がよぎった。

 とりあえず、その上空から撮影を行い、四人で手分けして探した。永久陰の場所を原点とし、四ブロックをそれぞれが担当し、拡大しながら探すのだ。

「第一象限担当 シュウ、見つかりません」

「第二象限担当 ナミ、見つかりません」

「第三象限担当 秋元、見つかりません」

「第四象限担当 巨神、見つかりません」

 オヤジ、まだこだわるか?しばらく探してようやくそれは見つかった。

「こちらナミ、ブツらしきもの発見です」

 それはかなり遠くに転がっていた。永久影から十キロメートル以上は離れていた。だが視力2.0を上回る視力を持つナミの目はごまかせない。

 GFⅢはそこへ行き、確認したが紛れも無く本物の望遠鏡だった。そしてそれを回収し、オヤジと秋元は早速船に装着を始めた。手馴れた作業だろうがここは月なので思ったようにはかどらず、一晩かけて装着は完了した。

 もう今日は四月の二日になっていた。だが、これで確信した。秋元には正確なワープは出来ない。大津氏の殺害は地球政府によるもので確定だ。わずかにこの男に対して持っていた疑念の余地はなくなった。

「よし、完成だ。一万と十光年先に飛ぼう」

 そう言うとオヤジは再び運転席に座った。

「ワープ」


 地球から一万十光年離れたポイントに到着した。

「さあて、それじゃあ実際の映像とやらを拝見させてもらいましょうか。何が見えるのか楽しみだ」

 オヤジはそう言いながら、地球を拡大し始めた。正面のモニターにはその姿が映し出される。そして地球の外形が見えたところで、その動きは止まった。

「はっはっはっ、秋元、今度は一体どんな細工をしたんだ?」

 オヤジは笑いながら秋元を見た。もちろんシュウもナミも笑っている。ついでに秋元も笑ってやがる。

「ふふふ、何もしていないさ」

 秋元は笑いながら答えた。しかし、ここはあんたが笑う場所ではない。シュウは温厚だが、ナミを怒らせるのだけは避けたかった。

「くくく、じゃあですね、この大陸は一体なんなのですか?」

 ここはシュウがみんなを代表して、一つの大陸を指しながら聞いてやることにした。

「さて、なんでしょうね?」

 秋元め、すっとぼけやがって。ここでついに眠れる獅子が口を開いた。

「その形、さっきみんなで行ったから覚えているよ。南極だよ」

 ナミの言う答えに、みんなとりあえずにこやかに納得した。

「しかしだな・・・、これが赤道上にあるんだよ」

 オヤジは般若のような形相で怒鳴った。よし、よく言った。その通りだ。おかしいぞ。

「オヤジさん、飛び先間違えたんじゃないの?」

 ナミはやっぱり笑ってやがる。まあ沸点の高いヤツほど怖いからな。こいつの沸点に達するまでには、まだ少しの猶予が残されているみたいだ。しかし、肩の銃だけは下ろしておいてもらいたいと切に願う。

 ちなみに、もう一つ変なことがあった。

「ナミ、よく見てみろ。南極が緑に覆われている」

 シュウは、ナミに説明した。それでもナミは平然と答えた。

「きっとこの時代には、南極でも育つ植物があったんだよ」

「確かにそうだが、赤道上ならそれも不思議ではない。全体的に九十度ずれているんだよ」

 ナミの独特の推測に、秋元が説明を加えた。

「とりあえず、人々の生活見てみないか?また江部さんとやらがいて手を振っているかもしれないぞ」

 シュウは、半分冗談でこの映像も作り物なのかもしれないという疑いで提案した。

「そ、そうだな、シュウの言う通りだ。ズームイン」

 オヤジの掛け声で、その緑の南極大陸は拡大されて行った。

「この映像を作ったヤツは、冗談のセンスがある」

 オヤジはそう言うと秋元を見た。

「いや、この望遠鏡は本物だ」

 秋元は、もう笑っていられない。

「どう見ても偽物だろう?」

 シュウも少し、ふてくされ始めた。

「秋元さんが本物だって言っているんだから、本物だよ」

 ナミはそっちの味方か。

「じゃあ何で高層ビルが立ち並び、飛行機が飛んでいるのだ?」

 オヤジのこの一言で秋元は何も言い返せなかったが、コヤツだけは違う。

「あはは、ライト兄弟の負けじゃん」

 さすがはナミだ。怖いもの知らずなヤツめ。

「この望遠鏡が本物だと言うならナミの意見で正解だ。ライト兄弟より一万年前に、フライト姉妹というのがいて、先に空を飛んでいたに違いない」

 オヤジの野郎、ナミが言うとコロッっとそっちの味方に付くの止めてもらえないかな。シュウだけ望遠鏡偽物説派かよ。

「つまり、一万十年前は現代と全く変わらないほど文明が発達していたのだ。それがこの十年後に何かが起こって再び原始時代に戻ったわけか」

 オヤジの言うことも、この望遠鏡が本物だと仮定するなら、全ての辻褄が合っている。

「肝心の一万年前を見よう」

 秋元は開き直ってみんなに言った。

「ちょっと待ってくれ、ここから振り子のように行ったり来たりして、ターニングポイントを探すのは、かなりきついぞ」

 シュウは簡単に十年後のワンポイントを探すことが、どれほど難しいのかみんな気付いていないのではないか?と心配になった。

「その通りだ。だがシュウ君の言うターニングポイントに心当たりがある」

 秋元はそう答えた。

「本当か?それはいつなのだ?」

 オヤジが目を丸くして聞いた。

「地球政府から細工映像を渡されたとき、ちょっと調べたのだが、今年からぴったり一万年前の五月八日を境に細工が発動するように設定されていた」

 秋元がそう言った。確かにその日以前が見られないということは怪しい。

「時刻はわからんから、五月八日の最初から録画しよう」

 オヤジはそう言うと、一万年前の五月八日が始まったばかりの午前十二時に照準を合わせてワープした。


 映し出された映像は、確かにまだ九十度傾いたままの地球であった。

 オヤジの推論では「彗星あたりが直撃するのではないか」ということだった。しかし「それならば既に、太陽系の中にそれが見えているはずで、何も見えていないことから、それはあり得ない」と秋元は反論した。

 昨晩徹夜で望遠鏡を装着したために、二人は眠かったらしく、何か始まったら起こしてくれと言って、椅子をリクライニングさせて寝てしまった。ついでに昨晩たっぷり寝たはずのナミも寝てしまった。シュウは録画しているとは言え、その衝撃の瞬間何が起こるのか見届けたかったため、目の前の映像に釘付けだった。

 そしてその瞬間は意外と早く訪れた。録画が始まってから六時間ほど経過した時だった。正確には一万年前の五月八日、朝の六時六分、もやもやっと光が歪んだかと思った直後、一瞬地球がぼやけ、何となく見えなくなったりして、次にはっきり見えた時には九十度回転して、南極は現在の位置に移動していた。

「ん?なんかムニュっと動いたぞ・・・」

 シュウは呟いた。

 そしてズームアップをすると、地球ではかつてない天変地異の影響で、大地震、大津波に加えて、それまで動かざることでおなじみの山という山が一斉に動き出し、マグマが噴出していた。建物は全て倒れ、マグマによってそれらは溶かされ、海に流れて行った。

「お、お、起きどー」

 シュウは興奮しながら叫んで、みんなを起こした。

 オヤジと秋元は起きて、その人類が滅亡していく映像を見出した。ナミは起きないが、あいつはノーケアでも特に問題はない。

「す、凄い、全てが溶けて海に沈んで行く」

 オヤジは驚いてそう言った。シュウはオヤジの驚く顔を見るのは、炒飯を作っているナミの姿を見たとき以来だった。恐らくこの男をこの顔にさせることが出来るのは、ナミか人類滅亡のどちらかしかこの世には存在しないことだろう。

「跡形もないなー。さらにここまで地軸が大きく変わると、その後太陽からの有害な電磁波をカットすることが出来なくなり、誰も住めなくなるぞ」

 秋元もそう言いながら目を丸くして見ている。

 男達の興奮振りを察したのか、ナミも起き出した。まだ寝ていれば良いのに・・・。地球の映像をナミも一緒になって見出した。そして

「ふ~ん、あたしコーヒー淹れて来るね。飲む人~?」

 口を開けたまま三人の男達が手を挙げた。この女は人類滅亡より自分の都合の方が優先みたいだ。

 四人でコーヒーを飲みながら、しばらくその映像を見ていたが、そろそろ録画を止めても良いだろうというタイミングで、シュウは一番聞かれたくない質問をされてしまった。

「で、ターニングポイントとやらは何だったのだ?」

 オヤジはそう言ってシュウの顔を見た。

「ムニュだ」

 シュウはそう答える以外に言葉が思い付かなかった。

「そうか、ムニュか~」

 さすがは気の知れたオヤジだ。これで通じてくれたようだった。

「ってそれじゃあ何だかさすがの私でもわからんぞ」

 シュウとしたことが、あの変人オヤジに突っ込まれてしまった。

「とりあえず自分で見てみろ」

 シュウは何とかこの場をごまかした。


 映像は巻き戻され、六時から見ることにした。

 地球をズームアップしてみると、何かの引力に引かれて既に天変地異は始まっていた。さすがに六分後から始まるそれとは比べ物にならないが、それでも地上はパニックだった。ズームアウトして地球の周りを見ても何も見えない。

「何に引かれているんだろう?」

 オヤジはそう言って秋元の顔を見たが、秋元も見当つかない様子だった。

「地球の引力に魂を引かれたんだよ」

 シュウはそう言ったが、全員に無視された。男達がこの話を始めると一晩では終わらない可能性があるからだ。あえて乗らない作戦のようだ。一瞬秋元の頬がピクッと動いたのをシュウは決して見逃さなかった。みんなこの話を発展させたかったが、そこを必死で我慢しているようだった。

 問題の時刻だ。やはり光がゆがみ、一瞬地球がぼやけ、見えなくなり、ムニュっと九十度傾いて再び現われた。

「おっ?」

「げっ!」

「んっ?」

「なっ?」

 みんなそれぞれの反応を示したみたいだが、言うまでもなく疑問符がつかなかったのがナミである。

「これは、ムニュじゃないな。モニョだな」

 オヤジのこの言葉を聞き、やっとシュウが言いたかったことが伝わってくれたこと確信した。

「いや、ウニャって感じに思えたぞ」

 秋元はそう言うが、ちょっとこの人の感覚を疑ってしまいたくなるような表現に思えた。

「いやいや、ドカ~ンでしょう」

 ナミは真顔で言ったが、それだけはあり得ない。地球に何かがぶつかったわけではないのだ。

「うん、ナミのを正解にしよう」

 オヤジも真顔で返した。こいつはナミの忠実なるしもべか・・・。


 オヤジも秋元も何かを考えているみたいだ。ターニングポイント前後の映像を見ながら、天井を見たり、目をつぶったりしながらブツブツ呟いていた。もちろんナミは「ずずずっ」とコーヒーをすすっているだけだった。

 どうやらここは、シュウの出番のようだ。

「この現象には、解明するべき謎が二つある」

 シュウの声が静まり返った部屋に響き渡った。秋元とオヤジの顔がこっちを向いた。

「先ず、この現象は何か?ということとは別にもう一つ。これは次に地球を襲うことは無いのか?ということだ。そこで俺の推理が正しいなら、二万年前にも同じことが起こっていると思われる」

「なぜだ?きっかり二万年って、針の穴を通すような確率だぞ」

 オヤジが反論した。まあ良い、説明してやろう。

「文明の進化の具合だ。現代の文明は今見た現象でリセットされてから、一万年後ということになる。そして崩壊前は、現代と全く同じ文明を持っていた。となると、さらにその一万年前にリセットされたと考えられるのだ」

「すると一万年ごとに人類は滅んでいるのか」

 オヤジは考えられなくも無いという素振りで言った。

「さらに、天文学者が何かを発見して地球政府に殺害された。これは地球政府は既に知っていたが、公表されては都合の悪いものだからだ。それはつまりこの現象が近付いているということではないかと推測される。同様にこれを発見することが出来る、望遠鏡技術者の秋元さんを監禁した。となると、あの天変地異の周期は一万年+αであり、しかもこのαはかなり小さい数値だと考えられる」

「なるほど。近い将来地球に襲って来るため、騒がれては困るということか。あり得るなあ」

 オヤジは咥えていたタバコが上唇に付いたまま喋った。

「さすがシュウだ。よし二万年前を見て、周期を解明しよう」

 オヤジはタバコの火を消し、運転席に向かった。GFⅢはさらに一万光年離れた場所にワープした。二万年前の同じ日、五月八日の朝五時半に飛んだ。

 望遠鏡の限界であるためあまり細かいものまで見ることは出来ない。しかし、それでも十分にわかることがあった。あきらかにおかしい。南極が北極点に存在しているのだった。

「こりゃ驚いた」

 秋元は感情のこもっていない言葉を発した。恐らく半分予想していたからかもしれない。

「あ~、びっくりだ」

 オヤジも上の空で返した。

「よく見ると高層ビルやら、空飛ぶ船やらたくさん見えるな。しかもなんかパニック状態みたいだ。」

 シュウはそう言ってみたが、なんか一万年前と同じものを見ているような錯覚に陥った。

「このまま六時六分まで待ってみよう」

 シュウの推理が正しいなら、このパニック状態は例のムニュ直前の光景と同じだからだ。

 そして六時六分、ムニュは起こった。そしてオヤジは呟いた。

「飛び先間違ったか?さっきと同じ光景っぽいぞ」

 寝ぼけるな、南極の位置が違っていたろうに。


 男達三人はもう映像を見ていない。それぞれの頭の中で考察している。ナミは再び寝ている。

 シュウはちょっと自慢げにゆっくりと話し始めた。

「見た通り・・・」

「ご覧の通り、αはゼロだった」

 まじかよ、一番良いところオヤジに取られた。

「つまり・・・」

「つまり周期は一万年ちょうど、ということだ」

 オヤジ、いいところ取るなよ。何自分の言葉で語っているのだ。頼む、次の一言は言わせろ。

「よって・・・」

「今年の五月八日に再びこれが訪れる」

 待てオヤジ、もう勘弁してくれ。

「これって・・・」

「これは、あと約一ヵ月後ということだ」

 全てオヤジに言われてしまった。

 あいつはさっき「針の穴を通すような確率」とかほざいていてくせに。わかった、こいつは一般企業の技術者だったら、きっと若手に論文を書かせて、それを自分の名前で提出するタイプなんだ。実際多いんだよなー、手柄横取りするやつ。

「とりあえず・・・」

「これで一つ目の謎は解けたわけだ。あとは二つ目の謎、一体何が起こっているのかを解明しないといけない」

 まだ言うか。だがここからは、真似出来ないぞ。

「俺は、天文学の知識が少ない。あの現象に関しては、俺のぐんじょう色の小さな脳細胞が、うなってくれないのだ。後は専門家のオヤジと秋元さんに任せるぞ」

 オヤジはシュウのセリフを奪うことが出来なかったせいか、驚いたようにこっちを見ていやがる。いい気味だ。

「以前も思ったのだが、シュウ、頭の病気か?その例え、色が違うぞ」

 わざとだよ、わざと。モジって表現した華麗なるギャグが通じなかったみたいだ。しかし言われてみれば、例えた色が危なかったのも認めよう。


 その後、何度も地球が歪んだり、消えたりしている映像を見ながら、男達は考えた。しかし、ナミの寝息の音だけが聞こえるだけで、誰も口を開こうとはしなかった。

 オヤジが首を左右に振り、コキコキという音が聞こえてきた。そろそろオヤジが喋り出すだろうという気配を感じた。そこで、シュウはさっきのお返しとばかりに先手を取った。

「俺が思うに、あの空間のゆがみはブラックホールでは?ブラックホール彗星が地球のそばを通過したのでは?」

 どうだ、もっともらしいだろう。おりょ?二人から同意の返事が来ない。ナミに言わせれば良かったか?

「う~ん、ブラックホールではないな」

 オヤジ、何ケチつけてやがるんだ。まあこっちの推理はあんまり自信なかったんだけどな。

「私も最初はシュウ君と同じ意見だったんだけど、それにしては空間のゆがみ方が異なっている気がする」

 秋元まで。

 こうなったら最後の手段、ナミを起こすぞ。結構寝起き悪いぞ。どうなっても知らないぞ。シュウは寝ているナミを見た。しかし、いち早くその危険を察したオヤジが、慌てたようにようやく自分の意見を言い出した。

「待て、シュウ。やはりこれは地球のそばをかすめて行く彗星なんだよ」

「じゃあ何で見えないんだ?」

 シュウは、「待て」から話が始まったことは百万歩譲って見逃すとして、自分の意見を否定した理由を尋ねた。

「この彗星はダークマターなのだ」

 オヤジの口から聞きなれない言葉が発せられた。

「ダークマター?」

 もちろんシュウはそんな言葉を知らない。

「そこに明らかに物質があるものの、電磁波を一切反射しないため、人間の目で見ることは出来ない物質だ」

 オヤジの言うことがシュウにはわからなかったが、秋元には通じたようだった。

「シュウ君、なぜ物が見えるかというと、そこに何かあるからだ、では説明にならない。光が当たってそれを反射した波長が、人間の可視光線の領域内にあるからなのだよ。それでもそれらの波長はさまざまに異なっており、その違いを色というもので感じている。ダークマターとは、その光を自ら発することも、反射もしないため人間の目や電磁波測定器では認識出来ない物質なんだよ」

 秋元の丁寧な説明でも、シュウにはギリギリの理解だった。続けてオヤジが

「この宇宙には目に見えているものより、ダークマターの方が遥かに多いと言われている」

 と付け加えた。こいつら何二人でそんな大事なこと隠していたのか。

「では目に見えないものを、どの辺でダークマターだと判断したのだ?」

 シュウはオヤジに尋ねた。

「目に見えないからだ・・・」

 わからん。するとまたしても秋元が、映像を見ながら丁寧に説明してくれた。

「ここを見てくれ。ウニャっと光が歪んでいるだろう。しかも地球がかなり見えなくなっている箇所がある。これは手前に何か光を曲げてしまう重力を持つもの、すなわち物質があることを示唆している。だがブラックホールではない。ブラックホールのコア部分はかなり小さいのだ。もし地球をブラックホールにしたとしても、黒い穴は一円玉より小さい。つまりこの見えなくなっている部分がブラックホールのコア部分ならば、この程度の被害では済まされない」

 コヤツも往生際悪いなあ、あくまでも自分が唱えた「ウニャ」説にこだわってやがる。

「こいつによって人類は、その進化を一万年ごとにリセットさせられているのだ」

 オヤジが続けて言った。それに対してシュウは尋ねた。

「ご丁寧に一万年ぴったり正確に同じ位置を通過するのか?しかもそいつによって人類の終焉を、あと一ヵ月後に迎えると言いたいのか?」

 オヤジは今度は即答で答えた。

「そうだ」

 シュウは今までちょっと興味はあったが、調べるつもりはなかったオーパーツの謎も、これで簡単に説明が付く。

 高度だった文明時代の遺品ということか。今だったらあれらの物は簡単に作れる。昔だから作れないと思い込んでいた。しかし、昔も今と同じ文明を持っていたなら全く問題なく作れたということなのだ。ほとんど物が溶岩に溶かされ、海に沈んでしまったが、わずかに残った物がある。それがオーパーツと呼ばれているのかもしれない。

 さらに壁画の中には飛行物体も多数描かれている。これは、わずかに生き残った人達が、後世にその技術を伝えるために描いたものなのかもしれない。などと言うことはとりあえずどうでも良い。

 我々の命は、あと一ヶ月とちょっとということが問題だ。それならば今ここでナミを押し倒してしまおう。三人の男達は寝ているナミを見た。しかし、それは人類より一ヶ月早く死んでしまうということに等しい、と全員気付いたようだった。

 そして諦めたオヤジが続けて語った。

「天文学者の大津氏が発見したのは、これに間違いないな」

「一ヶ月早く死んでしまうことにか?」

 シュウは投げ遣りに、思っていたことを口に出した。

「いやそっち話ではない、ダークマター彗星が近付いて来ることの話だ」

 オヤジのこのセリフを聞いて、やはり同じことを思っていたことを確信した。

「その発見を公表するという通信を、地球政府に傍受されてしまった」

 オヤジの推論はシュウの推論と何ら変わりもない気がするが、まあ正解だろうな。

「地球政府は、これから一ヶ月以内に何かをしようと企んでいるのか?その何かに対して都合が悪いのではないのかなあ。単に世界がパニックになるというだけなら、あそこまで酷いことはしないと思う」

 シュウはオヤジに聞いてみた。

「恐らく何かを仕出かすつもりだ。ただそれは全人類を救えるというものではないために、監禁するだけなら、殺してしまうのと同じだと考えたに違いない」

「地球では俺達の映像はインチキだった祭りで騒がれている中、俺達がこれを公表したところで、誰も信じてはくれないだろうな」

 シュウはそう言った。

 その後、しばらく沈黙の時間が流れた。今まで活発な討論が繰り返されている間は、心地よく寝ていたナミだが、この静けさで起きてしまった。電車で寝ている人は終点に着くと、その静けさによって目が覚めると言われているが、どうやら本当のようだ。

「インチキだと思わせることも、地球政府の計画の一つだったのかもしれない」

 しばらくしてから、オヤジはそう答えたが、その意見はおかしい。

「インチキだと騒がれ始めたのは、江部さんという人の出演が原因だ。それは、地球政府の意思ではないはずだ」

 シュウは疑問点をオヤジ達に尋ねた。

 地球政府の方針は、そのまま誰にも気付かれないようにして、何かの計画を進めたい、と思っているに違いない。ところが、その意思に反して『秋元を救え』『この映像はインチキだ』の二つを目的として、江部は映像に細工をしたと考えられる。

「江部の出演は、私を救い出すことだけが目的ではなく、シュウ君達を世間から孤立させる目的もあったわけか。なるほど、でもそれによって地球政府からも脅威ではなくなり、追われる心配もなくなるってわけだ」

 秋元は、江部のアフターケアに関して、納得したみたいだ。

「地球政府がしようとしていることも気になるが、それが大したことではないとすると、俺達なりに悪あがきをするしかないということか。しかも誰の協力も得られない状態でだ。それをするために自由に動き回れるチャンスを、江部さんって人は与えてくれたみたいだな」

 シュウは、そう言いながら江部って人物の計算深い思考に感心させられた。

 だがオヤジは眉間にしわを寄せて黙っていた。きっとライバルの凄さに嫉妬しているに違いない。

「もし人類が滅んでしまうようなら、四人で逃げて宇宙海賊にでもなればいいさ。俺達が逃げるというチャンスを、与えてくれたのかもしれない」

 シュウは半分冗談で言った。

「やったあ、海賊になれる上に一妻多夫じゃない。うーん夢のよう」

 ナミは両手を挙げて喜んでいた。コヤツは間違いなく人類最後の希望だ。というより、最終兵器に違いない。

「秋元さんの言うように、俺達が公表しても無意味であり、残り一ヶ月ちょっとしかないというなら、地球政府は俺達を追い掛けて捕まえようとはしないだろう。事務所に戻ろう」

 シュウはとりあえず地球に戻って、作戦を立て直すことを提案した。

「私もそう思っていたのだ。シュウの言うように、我々の映像をインチキ化することで、あっちの作戦は成功している。地球に戻って、ちょっと遠くから事務所を覗いてみよう」

 オヤジはそう言うと、地球に向かってワープを行った。

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