第九十六話 帰り道と日常の続き
俺は神代レン。普通の高校生――だった。
だがスキル《神核生成》によって炎の擬神ソレイナを生み出し、俺の日常は大きく変わった。
その後、生徒会へ所属し、自然の擬神ユシル、操りの擬神アヤネ、海洋の擬神フリートと共に過ごすようになった。
――『異能学園高等学校』校門前。
夕暮れの光が校舎を赤く染めている。
正門を出た瞬間、ようやく肩の力が抜けた。
「ふぅ~」
思わず息が漏れる。
今日も書類と会議と雑務の連続だった。
そんな俺の隣で、ソレイナが静かに微笑む。
「お疲れですね」
「あぁ、まぁな」
完全に否定はできない。
ユシルはというと、ふわふわと宙を漂いながら俺の頭上をぐるぐる回っていた。
「主~疲れた~おぶってぇ~」
「おまえはいつもシャボン玉の上に乗ってるだろ!」
思わずツッコミが出る。
ユシルは笑いながら揺れる。
「えへへ~」
フリートがすかさず注意する。
「そうですよ!たまには歩きましょうよ!」
「む~」
だがユシルは全く気にしていない。
アヤネはそんな様子を見て、小さくため息をついた。
「……ユシルに何を言っても無駄ですよ。マイペースですので」
「お前らも大変だな」
自然とそんな言葉が出る。
ソレイナは少しだけ目を細める。
「ですが、それも悪くありません」
フリートも頷いた。
「にぎやかで楽しいです!」
ユシルはそのまま空中でくるくる回る。
「えへへ~褒められた~」
「褒めてない」
即答する。
そんなやり取りをしながら、俺たちは校門前の坂道を下り始めた。
夕焼けの道。
帰宅する生徒たちの影が伸びている。
部活帰りの声。
自転車のベル。
風に揺れる木々の音。
どれも日常そのものだった。
ユシルが空を指さす。
「ねぇねぇ主~夕日きれい~」
「そうだな」
確かにきれいだった。
燃えるようなオレンジ色が街を包んでいる。
ソレイナが静かに言う。
「炎のようですね」
「お前が言うと余計そう見えるな」
ソレイナは微笑んだ。
アヤネは周囲を警戒するように視線を巡らせている。
だが特に何もない。
ただの帰り道だ。
フリートは少し前を歩きながら振り返る。
「主さん、今日は買い物ありますか?」
「いや、特にないな」
「そうですか!」
そのまま軽い足取りで進む。
ユシルは相変わらず宙を漂っている。
アヤネはしっかりと地面を歩く。
ソレイナは俺の少し後ろを静かに歩いている。
気づけば、この構図も当たり前になっていた。
少し前までは一人だった帰り道。
今は違う。
騒がしくて。
落ち着かなくて。
でも悪くない帰り道だ。
「お前ら、本当に自由だよな」
俺がそう言うと、ユシルがすぐ反応した。
「自由がいいでしょ~?」
「まぁな」
アヤネが小さく頷く。
「制約がないのは良いことです」
ソレイナも静かに同意する。
「主様の傍にいられる限り、問題はありません」
フリートも笑顔で言う。
「私も同じです!」
その言葉に、少しだけ照れくさくなる。
「……そうかよ」
夕暮れの道を歩く。
影が長く伸びる。
空はゆっくりと夜へ向かっていく。
そんな時間の中で、何も起こらないことが少しだけ不思議に思えた。
――そして。
『神代家』。
玄関の扉を開ける。
「ただいま」
その瞬間。
中から声が返ってきた。
「ただいま戻りました」
「ただいま~」
「戻りました」
ソレイナ&アヤネ、ユシル、フリートがそれぞれ言う。
母さんが台所から顔を出す。
「あら、レン、擬神ちゃんたち、お帰り。ご飯できてるから手を洗ってらっしゃい」
その言葉に一斉に反応する。
「はーい!」
ユシルが一番元気だった。
フリートも嬉しそうに笑う。
ソレイナは丁寧に頭を下げる。
アヤネは静かに礼をする。
俺は靴を脱ぎながら、少しだけ息を吐いた。
今日も一日が終わる。
何もないようで。
少しだけ騒がしい。
そんな日常が、また続いていく。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




