第九十二話 紅蓮覚醒
熱。
炎。
それら全てが神代レンの身体を巡っていた。
右腕に浮かぶ紋様は、もはや腕だけでは収まっていない。肩を越え、胸元へ広がり、脈動するたびに紅い光を放っていた。
訓練場の空気が揺らぐ。
レンを中心に熱風が吹き荒れ、地面が焦げ始める。
朝比奈咲夜が思わず後ずさる。
「な、なにこれ……レンなの……?」
氷室凛も目を細める。
「異能反応じゃない……。もっと別の……。」
月影詩乃の星図がわずかに乱れていた。
「空間が歪んでる……。」
ソレイナは静かにレンを見つめていた。
その瞳には驚きよりも、どこか安堵の色が浮かんでいる。
「主様……。」
ユシルがレンの周囲を見回す。
「炎が自然そのものを書き換えてる〜……。」
アヤネも静かに呟く。
「侵食率が異常です……。」
フリートは帽子を押さえながら風へ耐える。
「主さんの力……こんなに……!」
そして。
空。
巨大黒翼が再び口を開く。
『危険度更新。』
『神核接続率、急上昇。』
『排除対象認定。』
瞬間。
空を埋め尽くしていた黒翼の群れが一斉に動いた。
数百。
数千。
黒い怪物たちがレンへ向かって降下してくる。
咲夜が叫ぶ。
「来るよ!!」
だが。
レンは動かなかった。
ただ静かに刀を構える。
すると。
右腕の紋様が強く発光した。
次の瞬間。
爆炎。
レンの足元から紅蓮が噴き上がる。
轟音と共に炎が竜巻のように広がり、迫ってきた黒翼たちを一瞬で飲み込んだ。
「ギャアアアアアア!!」
黒い怪物たちが空中で燃え落ちていく。
修也が目を見開く。
「……無詠唱だと?」
レン自身も驚いていた。
今の攻撃。
考えるより先に身体が動いていた。
まるで炎そのものが自分の一部になったような感覚。
ソレイナが微笑む。
「炎が主様を認め始めています。」
レンは拳を握る。
熱い。
だが苦しくない。
むしろ馴染む。
巨大黒翼が咆哮を放った。
その声だけで空間が震える。
直後。
黒い羽が無数に射出される。
弾幕。
漆黒の刃の雨。
修也が剣を構える。
「全員、防御!」
黄金の結界が展開される。
だが。
黒羽は結界すら削り始めた。
「っ……!」
修也が歯を食いしばる。
凛が氷壁を展開。
詩乃が星の障壁を重ねる。
それでも完全には止めきれない。
レンは空を睨む。
そして。
一歩踏み込んだ。
地面が砕ける。
「主様!?」
ソレイナの声。
だがレンは止まらない。
炎が脚へ集中する。
爆発。
レンの身体が空へ跳んだ。
「えぇぇぇ!?」
咲夜が叫ぶ。
レンはそのまま空中へ到達し、迫る黒羽を刀で斬り払った。
炎の斬撃。
黒羽が次々と燃え尽きる。
だが。
巨大黒翼がその巨大な腕を振り下ろした。
空気が圧縮される。
質量。
暴力。
レンへ直撃する。
轟音。
訓練場へ巨大なクレーターが生まれた。
土煙。
視界が見えない。
ユシルが不安そうに声を上げる。
「主様ぁ〜!」
ソレイナの炎が揺れる。
だが次の瞬間。
クレーターの中心から紅い光が漏れた。
爆炎。
煙を吹き飛ばしながらレンが立ち上がる。
制服は破れ、腕には火傷のような紋様がさらに広がっていた。
だが。
倒れていない。
むしろ。
その瞳はさらに強く燃えていた。
レンが低く呟く。
「……まだだ。」
巨大黒翼が初めて反応する。
『戦闘継続確認。』
『異常耐久。』
『再評価開始。』
レンは刀を握り直す。
すると。
右腕の紋様が刀へ流れ込んだ。
刀身が変化する。
銀色だった刃が深紅へ染まり、炎の線が浮かび上がる。
ソレイナが目を見開いた。
「主様……それは……!」
レンの脳裏へ知らない言葉が流れ込む。
自然に口が動いた。
「《炎纏ノ太刀》……。」
刀が燃え上がる。
紅蓮の刃。
その熱量だけで周囲の空気が歪んだ。
巨大黒翼が再び咆哮を放つ。
今度は黒い極光を口元へ集束し始めた。
咲夜が青ざめる。
「またあれ撃つ気!?」
詩乃が空を見る。
「今度は規模が違う……!」
凛が息を呑む。
「まずい……。」
修也が剣を構える。
だが。
レンが前へ出た。
「俺がやる。」
ソレイナがレンを見る。
レンは静かに頷いた。
そして。
刀を構える。
炎が渦巻く。
右腕の紋様が完全に発光した。
その瞬間。
レンの背後に巨大な“炎の影”が現れた。
それはまるで。
紅蓮の翼を持つ巨大な存在。
咲夜たちが息を呑む。
ユシルが小さく笑う。
「……出てきた〜。」
アヤネも静かに呟いた。
「主様の本質……。」
巨大黒翼が黒光を放つ。
レンは地面を蹴った。
爆炎。
一直線。
空へ。
紅蓮の軌跡を描きながら、レンは巨大黒翼へ突撃する。
そして。
炎の刀を振り抜いた。
「うおおおおおおおおおおおッ!!!」
紅蓮。
それは空そのものを切り裂いた。
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