第八十八話 炎の余熱
夕焼けが静かに沈み始める頃。
『異能学園高等学校』旧訓練場には、未だ熱気が残っていた。
焼け焦げた地面。
吹き飛んだ鉄板。
崩れた機兵の残骸。
先ほどの戦闘の激しさを物語っている。
レンはベンチへ腰を下ろし、大きく息を吐いた。
右腕にはまだ微かな熱が残っている。
ソレイナがその隣へ静かに立った。
「主様、無理はしていませんか?」
「あぁ……なんとか」
そう答えながらも、身体は重かった。
炎を使ったあと、全身の力を持っていかれた感覚がある。
フリートが冷たい缶ジュースを差し出してきた。
「はい、主さん!」
「あ、ありがと」
受け取った瞬間、冷たさが妙に心地よかった。
ユシルは壊れた機兵の近くでしゃがみ込んでいる。
「これ〜、ほんとに〜勝手に動いたの〜?」
アヤネが残骸へ触れる。
すると、砕けた鉄片が僅かに浮かび上がった。
「……外部操作の痕跡があります」
レンが顔を上げた。
「やっぱり誰かが?」
「はい。ですが、途中で接続を切られています」
ソレイナの瞳が細くなる。
「主様の成長を確認しに来た……その可能性がありますね」
レンは苦い顔をした。
「監視されてるってことかよ」
フリートが少し不安そうにレンを見る。
「主さん……」
その時だった。
訓練場入口の扉が開く。
そこに立っていたのは。
天城修也だった。
「やれやれ……派手にやったね」
レンは肩をすくめる。
「勝手に動いたんだよ」
修也は壊れた機兵を見渡す。
そして、ゆっくり口笛を吹いた。
「訓練用機兵をここまで壊すとは……普通じゃないな」
ソレイナが静かに頭を下げる。
「申し訳ありません」
「いや、責めてるわけじゃないさ」
修也はレンへ視線を向ける。
「それより――成功したみたいだね」
レンは右腕を見る。
薄く残る紅蓮の紋様。
「……まぁ、少しだけな」
修也は笑った。
「少し、で済む威力じゃないけどね」
その時。
訓練場の床が小さく揺れた。
アヤネが即座に反応する。
「地下から振動」
ユシルもきょろきょろ辺りを見回す。
「ん〜?」
レンが立ち上がる。
「なんだ?」
すると。
訓練場中央の地面がゆっくり開いた。
ゴゴゴゴ……
地下格納庫。
そこから巨大なコンテナが姿を現す。
修也が小さく息を吐いた。
「ちょうど良かった」
レンが眉をひそめる。
「……なんだこれ」
修也はコンテナへ歩いていく。
「生徒会専用訓練装備だよ」
「訓練装備?」
「君も戦う以上、武器の一つくらい持っておいたほうがいい」
レンは少し驚いた。
「俺が?」
「もちろん」
修也はコンテナへ手を触れる。
ロック解除。
機械音と共に扉が開く。
中にあったのは――。
一本の黒い刀。
だが普通の刀ではない。
刀身には赤い紋様が刻まれている。
まるで炎のような模様。
レンは目を見開いた。
「これ……」
ソレイナの瞳が僅かに揺れた。
「……炎導刀」
フリートが首を傾げる。
「知ってるんですか?」
ソレイナは静かに頷く。
「炎系異能者専用の特殊武装です」
修也が刀を持ち上げる。
「正確には未完成品だけどね」
レンは受け取る。
瞬間。
刀身の紋様が赤く光った。
ボォッ……
小さな炎が走る。
ユシルが声を上げた。
「おぉ〜〜!」
アヤネも僅かに目を見開く。
「適合反応……」
修也が笑う。
「どうやら気に入られたみたいだ」
レンは刀を見つめる。
不思議だった。
初めて触ったはずなのに、妙に手に馴染む。
まるで昔から使っていたみたいに。
ソレイナが静かに呟く。
「主様の炎と共鳴しています」
レンは軽く振ってみる。
ヒュンッ――
すると。
刀身から紅蓮の火花が散った。
「うおっ!?」
修也が苦笑する。
「まだ制御が甘いね」
「いや急に出るなよ!?」
フリートが楽しそうに笑う。
「主さん似合ってます!」
ユシルもぱたぱた飛び回る。
「かっこい〜〜!」
アヤネは静かに頷いた。
「主殿の戦闘手段が増えましたね」
レンは刀を見つめた。
戦う力。
炎。
擬神。
少し前までは、こんな日常になるなんて思ってもいなかった。
その時。
ソレイナがふと空を見上げる。
「……主様」
「あ?」
「何か来ます」
空気が変わった。
風が止まる。
夕空の奥。
そこに。
黒い鳥のような“影”が大量に飛んでいた。
だが違う。
鳥じゃない。
もっと異様な何か。
修也の表情が真剣になる。
「全員、警戒」
レンが刀を握る。
紅蓮の紋様が再び熱を帯び始める。
そして――。
空から、無数の黒い眼がこちらを見下ろしていた。
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