第八十四話 紅蓮の共鳴
夕暮れの校舎裏。
オレンジ色に染まった空の下、レンは右腕を隠したまま固まっていた。
咲夜、詩乃、凛の三人はそんなレンをじっと見ている。
最初に口を開いたのは咲夜だった。
「ねぇ、それ絶対普通じゃないよね?」
「いや……まあ……」
「今“燃えて”たよ?」
「気のせいだ」
「気のせいで腕光らないからね!?」
凛が小さくため息をつく。
「隠すの下手すぎない?」
詩乃も静かに頷いた。
「……レン、顔に全部出てる」
レンは観念したように頭を掻いた。
その横で、ソレイナ達はなぜか綺麗に視線を逸らしている。
「お前ら助ける気ないだろ……」
ユシルがへらっと笑う。
「主〜、がんばれ〜」
「他人事!?」
フリートも困ったように笑っていた。
「で、でも主さんならなんとか!」
「根拠ゼロだな!?」
アヤネだけは真面目だった。
「主様、ここは説明を」
「お前はお前で急に真面目になるな!」
咲夜はむぅっと頬を膨らませた。
「むしろ隠されるほうが気になるんだけど〜?」
凛はレンの腕を見る。
「さっきの、擬神と関係あるんでしょう?」
「……まあ」
「新しい能力?」
レンは少し考え込む。
自分でもまだ理解していない。
だが、あの炎は確かに自分から出た。
ソレイナの力。
その一部。
レンは小さく息を吐いた。
「たぶん……ソレイナの力が、俺にも使えるようになった」
その瞬間。
三人の空気が変わった。
「え?」
「……共有?」
「それって……」
ソレイナが静かに前へ出る。
「はい」
「主様と我らの繋がりが深まった結果です」
凛は目を細めた。
「擬神の力を本人が扱う……そんな事例、聞いたことないわ」
詩乃も驚いているようだった。
「普通、召喚型異能は“本体任せ”……」
「使用者本人に能力が流れ込むのは、かなり特殊」
レンは苦笑する。
「らしい」
咲夜は急に目を輝かせた。
「え、それってすごくない!?」
「たぶんすごい」
「レン強化イベントじゃん!」
「ゲームみたいに言うな」
だが。
その時。
右腕の刻印が再び熱を帯びた。
ドクン――。
「っ!?」
紅い光が一瞬だけ広がる。
空気が揺れた。
次の瞬間。
ボォッ!!
レンの足元から炎が噴き上がった。
「うわぁっ!?」
咲夜が飛び退く。
凛もすぐ距離を取った。
詩乃だけが冷静にレンを見る。
「……制御、できてない」
ソレイナの表情が変わる。
「主様!」
炎はレンを中心に渦巻いていた。
まるで感情に呼応するように。
熱い。
だが苦しくはない。
むしろ、力が溢れてくる感覚。
レンは右腕を押さえる。
「くっ……!」
炎が腕へ集中する。
紋様がさらに赤く輝いた。
その瞬間。
レンの脳裏へ再び“映像”が流れ込んだ。
巨大な炎。
空を裂く赤。
無数の影。
そして。
炎の中で誰かが笑っている。
『――守ってください』
女の声。
知らない声だった。
「誰だ……」
レンは呟く。
ソレイナが目を見開いた。
「主様?」
レンの視線はどこも見ていなかった。
意識が半分別の場所へ引き込まれている。
アヤネがすぐ前へ出る。
「まずいです」
ユシルも珍しく真剣な顔になる。
「共鳴が強すぎる〜」
フリートは慌ててレンの手を握った。
「主さん!戻ってきてください!」
その声で。
レンの意識が戻る。
「……はっ!」
炎が一気に霧散した。
静寂。
焦げた地面だけが残る。
レンは肩で息をしていた。
咲夜が恐る恐る近づく。
「だ、大丈夫……?」
「あぁ……」
凛は冷静に状況を見ていた。
「今の、ただの能力暴発じゃないわね」
詩乃も小さく頷く。
「……何か見えてた?」
レンは少し迷う。
だが隠しても仕方ないと思った。
「変な景色が見えた」
「燃えてる世界」
「あと……誰かの声」
その場の空気が重くなる。
ソレイナ達四人は黙っていた。
凛がその様子を見る。
「あなた達、何か知ってるのね」
ソレイナは静かに目を伏せた。
「……はい」
「ですが、まだ話せません」
「そればっかりだな」
レンは苦笑する。
だが責める気にはなれなかった。
むしろ。
ソレイナ達自身も苦しそうだったからだ。
ユシルがレンの袖を引っ張る。
「主〜」
「ん?」
「無理、しちゃだめ〜」
アヤネも続ける。
「今の主様は、器が急激に拡張している状態です」
「器?」
「力を受け入れる容量です」
フリートが不安そうに言う。
「だから急に使うと危ないかも……」
レンは右腕を見る。
刻印はまだ残っていた。
だが先ほどより落ち着いている。
「つまり、練習しろってことか」
ソレイナが頷く。
「はい」
「主様はこれから、“擬神の力”を扱う側へ進みます」
「そのためには制御が必要です」
咲夜がぱっと顔を上げる。
「じゃあ修行編!?」
「お前ほんと楽しそうだな」
「だってワクワクするし!」
凛は呆れたように笑った。
「でも実際、必要でしょうね」
詩乃も静かに言う。
「……今のままだと危険」
レンは少し考え。
そして頷いた。
「わかった」
「だったらちゃんと扱えるようになる」
ソレイナの顔が少しだけ柔らかくなる。
「はい」
「我らが支えます」
その時。
夕焼け空の向こうで。
一瞬だけ。
黒い鳥のような影が横切った。
誰も気づかない。
だが。
遠く離れた高層ビルの屋上。
黒コートの男が静かに笑っていた。
「……始まったか」
男の背後。
闇の中で誰かが低く呟く。
「神核生成」
「やはり、あれは危険だ」
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




