第八十三話 紅蓮の刻印
ソレイナは静かに微笑む。
「主様、感じてください」
レンの身体に熱が流れ込む。まるで炎そのものが身体へ宿ったように。
そして――。
レンの右腕へ、紅蓮の紋様が浮かび上がった。
「………っ!?!?」
赤黒い光が脈動する。
それは単なる模様ではなかった。
生きている。
鼓動している。
まるで、ソレイナの力そのものが腕へ宿ったかのように。
夜風が吹き抜ける校舎裏。
レンは自分の右腕を見つめたまま、目を見開いていた。
ソレイナは静かにレンの隣へ立つ。
その紅い瞳には、どこか嬉しそうな光が宿っていた。
「成功……しましたね」
「成功って……なんだよこれ」
「主様と我らの繋がりが、さらに深くなった証です」
ユシルがレンの肩越しから腕を覗き込む。
「おぉ〜……すごいねぇ〜」
アヤネも小さく目を細めた。
「これは……『刻印共有』ですか」
フリートはぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「え!?そんな段階まで進んじゃったんですか!?」
レンだけが話についていけていなかった。
「待て待て待て。なんだその反応。俺だけ説明されてないんだけど」
ユシルは困ったように笑う。
「だってぇ〜、まだ早いかな〜って〜」
「早いとかそういう問題じゃないだろ!」
アヤネは小さく咳払いした。
「主様。我々擬神は、ただ召喚される存在ではありません」
「?」
「本来、擬神と主は力を共有し、互いを高め合う関係です」
ソレイナが続ける。
「今までは、主様は“我らを呼び出す”だけでした」
「でも、この刻印は違います」
「主様自身が、我らの力を扱える段階へ入ったのです」
レンは自分の右腕を見る。
紋様は淡く赤く発光していた。
熱い。
だが、不思議と嫌な感覚ではない。
むしろ安心感に近かった。
「俺が……ソレイナの力を?」
「はい」
ソレイナは小さく頷いた。
「まだ僅かですが」
「主様の身体へ、炎が宿り始めています」
レンはゆっくり拳を握る。
その瞬間。
ボッ――!
指先から小さな炎が灯った。
「うおっ!?」
レンは思わず手を振る。
だが炎は消えない。
むしろレンの動きに合わせて揺れていた。
フリートが目を輝かせる。
「す、すごいです主さん!」
ユシルもぱたぱたと拍手した。
「主〜、火ぃ出た〜」
「いやいやいやいや!?なんで普通に受け入れてんだお前ら!?」
アヤネは冷静だった。
「暴走はしていません。問題なしです」
「問題あるだろ!」
ソレイナは少しだけ胸を張る。
「当然です。主様ですから」
「なんだその全幅の信頼……」
レンはため息を吐いた。
しかし、その時だった。
右腕の紋様が再び強く輝く。
ドクン――。
脈打つ。
それと同時に。
レンの脳裏へ、一瞬だけ“景色”が流れ込んだ。
燃え盛る世界。
崩れ落ちる建物。
空を覆う黒。
そして――。
巨大な“何か”。
「っ……!」
レンは頭を押さえる。
視界が揺れた。
「主様!?」
ソレイナがすぐ支える。
ユシルも慌てて駆け寄った。
「だ、大丈夫〜!?」
「……なんだ、今の……」
息が荒い。
心臓が激しく鼓動している。
アヤネが真剣な表情になる。
「見えたのですか」
「え……?」
フリートも表情を変えた。
「もしかして、“記憶片”……?」
レンは顔を上げる。
「お前ら、知ってるのか?」
四人は沈黙した。
そして。
ソレイナが静かに口を開く。
「主様」
「神核生成は、ただ擬神を呼ぶスキルではありません」
「……」
「我らの記憶」
「我らの力」
「そして――」
「我らの“過去”を継承する力でもあるのです」
夜風が吹く。
校舎の屋上に置かれたフェンスが微かに軋んだ。
レンは黙ったままソレイナを見る。
彼女はどこか悲しそうだった。
「過去って……なんだよ」
「それは、まだ」
アヤネが静かに割り込む。
「今は知るべきではありません」
「おい」
「主様が全ての擬神を迎え入れた時」
「その時、全てが繋がります」
レンは眉をひそめた。
最近ずっとこれだ。
全員、何かを知っている。
なのに肝心なことを言わない。
だが――。
ソレイナ達の表情を見る限り、悪意はない。
むしろ。
何かから守ろうとしているように見えた。
レンは長く息を吐く。
「……わかった」
「今は聞かない」
四人が少し驚いた顔をする。
「でも」
レンは右腕を見る。
そこには確かに、紅蓮の刻印が存在していた。
「俺も戦えるようになる」
「お前ら任せじゃなくてな」
その言葉に。
ソレイナが微笑む。
ユシルは嬉しそうに笑い。
アヤネは静かに頷き。
フリートはぱぁっと顔を明るくした。
「はい!」
「主さんなら絶対できます!」
レンは苦笑する。
「期待重いな……」
その時だった。
校舎の方から声が聞こえる。
「おーい!レンー!」
朝比奈咲夜だった。
その隣には月影詩乃と氷室凛の姿もある。
「こんなところで何してるの〜?」
「……ん?」
咲夜がレンの右腕を見る。
「それ、なに?」
レンは慌てて腕を隠した。
だが遅い。
凛も目を細める。
「今、一瞬光ってなかった?」
詩乃は静かにレンを見る。
「……また何かあった?」
レンはソレイナ達を見る。
四人は一斉に目を逸らした。
「「「「…………」」」」
「お前ら絶対説明する気ないだろ!?」
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