第八十二話 黒き重圧
旧校舎が震える。
ミシ……ミシミシ……!
天井に亀裂が走り、床が沈み込む。
男子生徒の背後に現れた巨大な黒い影は、人の形をしていながら輪郭が曖昧だった。
まるで“重力そのもの”が意思を持って立ち上がったような存在。
咲夜が息を呑む。
「な、なにあれ……」
詩乃も静かに目を細める。
「……異能の、具現化?」
修也の表情が険しくなる。
「いや、違う。あれは――」
その時。
黒コートの人物が楽しそうに口を開いた。
「疑似異能霊装。暴走した異能を外へ定着させる実験結果だ」
レンが睨みつける。
「実験、だと……!?」
「そう怒るな。人類の進化には犠牲が必要だ」
「ふざけんな……!」
男子生徒が苦しそうに叫ぶ。
「あ……あぁぁ……!!」
巨大な黒影が腕を振るった。
瞬間。
空間そのものが沈む。
ドゴォォォォッ!!
「ぐっ!?」
全員の身体が一斉に床へ押し付けられた。
凄まじい重圧。
呼吸すら苦しい。
床が砕け、レンの膝が沈む。
ソレイナが炎を爆発させた。
「《紅蓮解放》!」
炎の噴出で重圧を相殺する。
「主様!ご無事ですか!」
「あぁ……なんとか!」
ユシルも慌てて力を放つ。
「《森羅循環》〜!」
床を突き破って巨大な根が伸び、全員を支える。
アヤネは瓦礫へ手を向けた。
「集まれ」
砕けたコンクリートが浮かび、巨大な岩壁となる。
直後。
黒影の拳が叩き込まれた。
ドガァァァァン!!
岩壁が砕け散る。
アヤネの身体が僅かによろめいた。
「……っ」
フリートが水流を展開する。
「《深海流壁》!」
激流が防壁となって全員を包み込む。
黒い重圧と水流が激突し、校舎が悲鳴を上げた。
レンは歯を食いしばる。
「なんなんだよ……これ……!」
修也が前へ出た。
黄金の剣がさらに輝きを増す。
「レン!あの黒影を抑える!その間に本人へ接触できるか!」
「やるしかない!」
「無茶ですよ主様!」
ソレイナが止める。
しかしレンは前を向いた。
「でも、このままじゃあいつ死ぬだろ!」
その言葉に。
四人の擬神が黙る。
レンは敵を見ていた。
苦しむ男子生徒を。
助けを求める瞳を。
修也が剣を構え直す。
「なら道を開く!」
黄金の光が天へ伸びた。
「《天断剣》!!」
巨大な光刃が黒影へ叩き込まれる。
轟音。
衝撃。
黒影の腕が吹き飛んだ。
咲夜が雷を纏う。
「続くよ!《雷迅穿》!」
雷撃が黒影の身体を貫いた。
詩乃も静かにノートを開く。
「《星図展開》」
無数の星光が空間へ浮かぶ。
重力の流れが僅かに乱れた。
「今」
レンが走る。
黒い重圧の中を。
歯を食いしばりながら。
男子生徒へ向かって。
黒コートの人物が興味深そうに見つめる。
「ほう……」
ソレイナたちも続く。
「主様!」
「主〜!」
「主殿!」
「主さん!」
だが。
黒影が再び再生した。
巨大な拳がレンへ振り下ろされる。
「っ!?」
アヤネが前へ出る。
「《岩盾城壁》」
岩の城壁が出現。
しかし。
バキィィィ!!
一撃で粉砕された。
アヤネが吹き飛ぶ。
「アヤネ!」
フリートが水流で受け止める。
ユシルが植物を伸ばす。
だが黒影は止まらない。
むしろ。
男子生徒の絶叫と共にさらに巨大化していく。
「ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
黒い霧が校舎全体を覆い始めた。
修也が舌打ちする。
「まずいな……このままじゃ学校全体に被害が出る」
咲夜が焦る。
「どうするの!?」
詩乃が静かに呟く。
「……核がある」
「え?」
「異能の中心。あの黒影の胸の奥に」
レンも見た。
確かに。
黒影の中心。
黒霧の奥で赤黒い光が脈打っている。
詩乃がレンを見る。
「……あれを壊せば止まるかもしれない」
「でも、どうやって……!」
その時だった。
ソレイナが静かに前へ出た。
炎が静かに揺れる。
「主様」
「あ?」
「私に、少しだけ力を貸してください」
レンが目を見開く。
「力?」
「はい」
ソレイナはレンの胸へそっと手を当てた。
「神核生成は、“召喚”だけではありません」
その瞬間。
レンの身体から淡い光が溢れた。
黒コートの人物が初めて目を細める。
「……なるほど」
ユシルが驚く。
「ソレイナ〜!?それって〜!」
アヤネも目を見開いた。
「まさか、今ここで……」
フリートが息を呑む。
ソレイナは静かに微笑む。
「主様、感じてください」
レンの身体に熱が流れ込む。
まるで炎そのものが身体へ宿ったように。
そして――。
レンの右腕へ、紅蓮の紋様が浮かび上がった。
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