第七十五話 増殖する赤眼
闇の奥に浮かんだ無数の赤い目。
それは“視線”というより、ただそこに存在するだけで圧力を放っていた。
レンは無意識に一歩下がる。
「……増えてる、だろこれ。」
修也が低く呟く。
「本体が複数……いや、分裂型か。」
凛が氷を再展開する。
「最悪のタイプね。」
咲夜は雷を纏いながら歯を食いしばる。
「さっきので倒せてないとか反則でしょ!」
詩乃は静かにノートを閉じた。
「……星図、乱れてる。」
その言葉にレンは嫌な予感を覚えた。
「どういう意味だ?」
「個体の境界が曖昧。」
ユシルが眠そうな声で呟く。
「ん〜……いっぱいで一つってこと〜……?」
フリートが顔を青ざめさせる。
「それ、かなりまずいタイプです……!」
ソレイナが炎を強める。
「主様、下がってください。」
アヤネは床に手を置いたまま動かない。
「地中の反応も増えています。」
レンは舌打ちした。
「冗談じゃねぇな……。」
その時。
黒泥の怪物の中心だった一つ目がゆっくりと開いた。
「――――分裂確認。」
声が響く。
人間のものではない。
金属を擦るような、不快な音。
修也が剣を構え直す。
「来るぞ。」
次の瞬間。
闇の中から黒い“影”が飛び出した。
「ッ!!」
咲夜が即座に雷撃を放つ。
《閃雷撃》!!
雷が影を貫く。
だが。
貫いた瞬間、影は二つに裂けた。
「分裂した!?」
「やっぱり!」
凛が氷壁を展開する。
影が氷に突っ込む。
バキバキバキッ!!
氷が侵食されるように黒く染まっていく。
「感染してる……!」
詩乃の声がわずかに震える。
レンはソレイナの横へ走る。
「どうすりゃいいんだよこれ!」
ソレイナは一瞬だけ目を閉じた。
そして。
「……核を断つしかありません。」
「核?」
アヤネが即座に補足する。
「中心ではなく、“分裂の起点”です。」
フリートが頷く。
「一体一体じゃなくて、元を止める必要があります!」
ユシルがぼんやりと手を振る。
「でも〜……どれが元かわからないね〜……」
その言葉と同時に。
黒い影がさらに増殖した。
一つ。
二つ。
三つ。
いや。
視界の奥で、無数に。
修也の表情が変わる。
「……数え切れないな。」
凛が静かに息を吐く。
「これはもう軍勢ね。」
咲夜が叫ぶ。
「軍隊じゃんこれ!」
詩乃がノートに線を引く。
「……星、崩壊。」
レンは拳を握りしめた。
「ふざけんなよ……!」
その瞬間。
ソレイナが前に出た。
炎が一気に膨れ上がる。
「主様。」
「なんだ。」
「一度、焼き払います。」
その言葉にユシルが目を開く。
「え〜……全部〜?」
アヤネが即答する。
「推奨されません。」
フリートも頷く。
「広範囲攻撃は危険です……!」
だがソレイナは一歩も引かない。
「ですが、このままでは押し切られます。」
レンは歯を食いしばる。
「……どうすりゃいいんだよ。」
修也が静かに前へ出た。
「一瞬で決めるしかない。」
「一瞬?」
修也は剣を構える。
黄金のオーラが再び噴き上がる。
《天刃起動》。
「全力で隙を作る。」
凛が頷く。
「了解。」
咲夜も拳を握る。
「任せて!」
詩乃は星図を展開する。
「……固定。」
ユシルがふわふわと手を上げる。
「がんばる〜……」
アヤネが床を叩く。
「地形操作開始。」
フリートが水流を展開する。
「海流制御します!」
そして。
全員の力が重なる。
修也の剣が振り上げられた瞬間。
「――今だ!!」
黄金の閃光が空間を裂いた。
同時に。
ソレイナが炎を最大解放する。
「《神炎・天葬》!!」
空間を焼き尽くす炎。
咲夜の雷。
凛の氷。
フリートの水流。
アヤネの岩槍。
ユシルの自然増幅。
詩乃の星図拘束。
すべてが一点へ収束した。
轟音。
視界が白く染まる。
そして。
闇が――裂けた。
一瞬だけ。
中心らしき“核”が見えた。
それは人の形でも、怪物でもない。
ただの“歪んだ黒点”。
レンはそれを見た瞬間、直感した。
「あれだ……!」
ソレイナが叫ぶ。
「主様、今です!」
修也が剣を振り抜く。
「《天断閃》!!」
黄金の斬撃が黒点へ走る。
そして――。
空間が静止した。
黒い軍勢が一瞬で停止する。
赤い目が全て同時に揺れる。
次の瞬間。
黒点がひび割れた。
ピシッ。
ピシピシッ。
そして――。
砕けた。
「――――ッ。」
怪物の声が途切れる。
黒泥が崩れ落ちていく。
赤い目が次々と消えていく。
沈黙。
生徒会室は崩れかけた瓦礫の中で、静まり返った。
レンは荒い息を吐いた。
「……終わった、のか?」
誰もすぐには答えられなかった。
ただ。
瓦礫の奥で。
最後に消えた赤い目が――
一瞬だけ。
笑ったように見えた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




