第七十四話 黒泥の怪物
砕け散った床。
舞い上がる粉塵。
生徒会室の中心から突き出した巨大な黒い腕は、まるで生き物のように蠢いていた。
その異様な光景に、一瞬だけ全員の動きが止まる。
だが。
最初に動いたのは咲夜だった。
「《雷装展開》!!」
全身を雷光が包み込む。
咲夜はそのまま黒い腕へ飛び込んだ。
「《閃雷撃》ッ!!」
轟音。
雷を纏った蹴りが黒い腕へ炸裂する。
だが。
「なっ!?」
黒い腕は弾け飛ぶどころか、ぶよりと形を変えた。
まるで泥だ。
しかも。
咲夜の雷を吸収するように表面が脈動している。
詩乃が小さく呟く。
「……雷が、効いてない。」
凛の冷気が広がった。
「なら、凍らせる!」
床を這うように氷が走る。
黒い腕へ到達した瞬間。
バキバキバキッ!!
腕全体が氷漬けになった。
「やった!?」
だが次の瞬間。
メキィッ!!
氷が内側から砕け散る。
黒い泥が再び溢れ出した。
「厄介ね……!」
レンは歯を食いしばる。
「なんなんだよこいつ!」
ソレイナは炎を纏いながら前へ出た。
「主様、下がってください。」
「でも!」
「これは危険です。」
その瞬間。
黒い腕が振り上げられた。
轟ッ!!
凄まじい速度で振り下ろされる。
修也が即座に剣を抜いた。
「《天刃起動》。」
瞬間。
金色のオーラが噴き上がる。
まるで天へ届く柱のような光。
修也の手に現れた剣から、圧倒的な威圧感が放たれた。
「はぁッ!!」
斬撃。
黄金の軌跡が黒い腕を切り裂く。
ズバァァァッ!!
今度は効いた。
黒い腕が大きく裂け、黒泥が飛び散る。
咲夜が目を輝かせた。
「会長かっこよ!?」
「感心してる場合じゃないよ。」
修也は剣を構えたまま睨む。
だが。
裂けた黒泥が再び蠢き始めた。
「再生……!?」
フリートが息を呑む。
「そんな……!」
ユシルは眠そうな目を細めた。
「ん〜……自然じゃないねぇ〜……」
アヤネが床へ触れる。
「……地中から供給されています。」
「供給?」
「はい。この黒泥、地下と繋がっています。」
レンが顔をしかめる。
「つまり?」
「本体が別にいます。」
空気が凍る。
その時。
ズズズズズ……。
床下からさらに低い音が響いた。
砕けた穴の奥。
暗闇。
そこから。
ゆっくりと“顔”が現れる。
人間のようで、人間ではない。
黒泥で形作られた巨大な顔。
その中央には、赤黒い一つ目が浮かんでいた。
「――――ォォォォ。」
重低音のような唸り声。
室内の空気が震える。
凛が眉をひそめた。
「……異能暴走状態?」
修也が首を振る。
「いや、違う。」
詩乃も静かに呟く。
「これは……別。」
黒い一つ目がレンを見た。
ギョロリ。
瞬間。
全身に悪寒が走る。
「っ……!」
レンは思わず後退る。
すると。
ソレイナが即座にレンの前へ出た。
「見るな。」
炎が爆ぜる。
ユシルの周囲では植物が一気に成長し始めた。
アヤネの周囲には無数の岩片が浮かぶ。
フリートの足元には水流が渦巻いていた。
四人の擬神が同時に前へ出る。
その光景を見て。
黒い怪物が低く嗤った。
「……神核……確認……。」
レンが目を見開く。
「喋った……!?」
修也の顔が険しくなる。
「まずいな。」
咲夜が汗を流す。
「なんか嫌な予感しかしないんだけど!」
怪物の体から黒泥が溢れ出した。
それは床を侵食しながら広がっていく。
アヤネが即座に叫ぶ。
「触れてはいけません!」
凛が氷で壁を作る。
だが。
ジュゥゥゥッ!!
氷が溶けた。
「嘘でしょ!?」
「侵食能力……!」
ソレイナの炎ですら黒泥を完全には止められない。
フリートが水流を放つ。
「《深海流壁》!」
激流が黒泥を押し返す。
だが。
黒泥は止まらない。
まるで意思を持っているかのようにレンへ向かってくる。
「主様!」
ソレイナが炎の壁を展開する。
轟炎が黒泥を焼く。
その隙に修也が飛び出した。
「《天衝閃》!!」
黄金の斬撃。
怪物の顔面を真っ二つに切り裂く。
轟音。
だが。
怪物は止まらない。
裂けた顔が再生していく。
「再生速度が速すぎる……!」
詩乃がノートを開いた。
瞳に星空が映る。
「……《星図展開》。」
空間に星の光が広がった。
無数の光点。
そして。
怪物の動きが僅かに止まる。
「今……!」
咲夜が雷を纏って駆ける。
凛が氷槍を生成。
ソレイナの炎。
フリートの水流。
アヤネの岩槍。
五つの攻撃が同時に炸裂した。
爆炎。
雷鳴。
氷結。
激流。
岩砕。
生徒会室が崩壊しかねないほどの衝撃。
煙が舞う。
そして。
静寂。
「……倒した?」
咲夜が呟く。
だが。
煙の奥。
赤黒い一つ目が、再び開いた。
「――――足リナイ。」
ゾクリ。
その瞬間。
怪物の背後。
闇の中に。
複数の“赤い目”が浮かび上がった。
レンの顔から血の気が引く。
「……おい。」
修也も表情を消した。
「冗談だろ……。」
闇の中。
無数の赤い目が、こちらを見ていた。
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